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みょん、みょん、と先端の羽根が揺れる。指先から伝わる振動がそれを遊ばせては、忙しなく動く。毎日持ち歩いているからか、それも年季を感じ始めた。
放課後、校舎裏をとぼとぼと歩いていた。夕陽に照らされて、ぼんやりとした温もりを享受しつつ、周囲を見渡す。そして、それ、猫じゃらしを揺らして手持ち無沙汰なのを誤魔化していた。
「あれ〜青ちゃんどこいった〜?」
小さな独り言が宙に浮かぶ。
青ちゃん。せいちゃん。青春学園の校舎裏で見つけた茶トラのオス猫。茶トラなのに青。自分でも矛盾というか、噛み合ってないと思う。でもタマだと味気ない気もして、勝手に青ちゃんと呼んでいる。
今日は会えない日なのかな。それとも誰かが保護したのか、元々お家からお出掛けしていただけなのか。全く分からないけど、最近の楽しみになっていたせいで急に寂しくなってしまった。
「せいちゃん、」
ローファーを履いた足が、つま先が内側へと向く。ぼそりと零した瞬間、じゃり、と砂の音が目の前からした。
目の前にはしゃがんだ薫くんと猫。私が探し求めていた茶トラの青ちゃん。
「薫くん?」
薫くんは青ちゃんをあやしており、青ちゃんは喉をゴロゴロと鳴らしている。黒のランニングシャツに白のハーフパンツの格好の薫くんはランニングの途中だったんだろうか。
私はそろりそろりとゆっくりふたりに近づいた。
「何やってんだ、お前」
いつもより小声なせいか、より低音になった声が尋ねる。私は薫くんと同じように傍でしゃがむと、気持ちよさそうに目を細めている青ちゃんを眺めた。
「青ちゃんと遊ぼうと思って」
そう囁くと、薫くんの手が止まった。私はその隙にみょん、みょん、と猫じゃらしを上下に動かした。すると、青ちゃんはたし、たし、と猫じゃらしを追いかけ始めた。
「青ちゃんってコイツのことか?」
「正解。青学の青から名付けたの」
「安直だな」
薫くんの言葉に、私は口元を膨らませて口角を下げた。分かりやすく不満を露わにしたけれど、薫くんはこちらを見ずに青ちゃんに首ったけ。でもほんのり笑っている気がしたから許してあげる。
「だって本名じゃないかもしれないでしょ」
本当のお家があるかもしれない。なんてことも考えているのだ。しかし薫くんは私を一瞥すると、一言言い切った。
「……コイツは野良だ」
「あらま。よくご存知で」
口元に手を当て、わざとらしく言ってみる。すると、薫くんは居心地が悪そうに顔を背け、バンダナの位置を動かす素振りを見せた。薫くんは恥ずかしいといつもバンダナに触れる。本人も気づいてるのか、気づいていないのか、よく分からない癖だけれど、ここは黙っておこう。
「あ、」
お喋りが過ぎたのか、青ちゃんは私達に背を向け、トコトコとどこかへ向かっていってしまった。今日のお遊びは終わりらしい。残念。
私はみょん、みょん、とまだおもちゃを遊ばせつつ、立ち上がる。薫くんも同じようにその場に立ち上がった。
「おい、制服汚れてんぞ」
薫くんの目線は私のスカートに。白に茶色の粉がついている。恐らく青ちゃんを探している時に付いた土だろう。
「ほんとだ」
土を払おうとした瞬間、薫くんの骨ばった手がぴくりと動いたけれど、すぐに引っ込んでいった。しっぽを巻いて逃げるかのようで、一瞬の出来事にゆっくりと瞬きをした。
「ったく、気をつけろよ」
「ありがとう、薫くん」
パンパン、と音を鳴らして土を落とし、薫くんと向き合う。私はあれ、と今日が火曜日であることを思い出した。
「薫くんは? 何してたの?」
今日は部活オフのはず。なのに汗をかいているということは。答えを出す前に、薫くんに答えられてしまった。
「自主練だ」
「その休憩中だったと」
「まあ、そうだ」
予想は大当たり。オフの日なのに練習を欠かさないとは。真っ直ぐな姿勢は私も見習わないといけないところだ。
「相変わらず頑張ってるねえ」
「当たり前だ」
そう言う薫くんの目はいつにも増して真剣だった。
勿論レギュラー戦があることは知っている。激しい競争ということも知っている。その中で、先輩もいる中で勝つということがどれだけ凄いことか。
「ふふふ、かっこいいねえ」
私は遊ばせていた手を止め、薫くんに笑いかけた。すると、みるみる内に顔色が変わり、口をはくはくとさせた。
「なっ、」
「ん? どうかした?」
「なんでもねえ……!」
薫くんは頬を真っ赤に染めて声を絞るように出すと、私に背を向け走り出してしまった。私はその姿を見送って、またおもちゃをみょん、みょん、と上下させた。
「ふふふ、可愛いねえ」
放課後、校舎裏をとぼとぼと歩いていた。夕陽に照らされて、ぼんやりとした温もりを享受しつつ、周囲を見渡す。そして、それ、猫じゃらしを揺らして手持ち無沙汰なのを誤魔化していた。
「あれ〜青ちゃんどこいった〜?」
小さな独り言が宙に浮かぶ。
青ちゃん。せいちゃん。青春学園の校舎裏で見つけた茶トラのオス猫。茶トラなのに青。自分でも矛盾というか、噛み合ってないと思う。でもタマだと味気ない気もして、勝手に青ちゃんと呼んでいる。
今日は会えない日なのかな。それとも誰かが保護したのか、元々お家からお出掛けしていただけなのか。全く分からないけど、最近の楽しみになっていたせいで急に寂しくなってしまった。
「せいちゃん、」
ローファーを履いた足が、つま先が内側へと向く。ぼそりと零した瞬間、じゃり、と砂の音が目の前からした。
目の前にはしゃがんだ薫くんと猫。私が探し求めていた茶トラの青ちゃん。
「薫くん?」
薫くんは青ちゃんをあやしており、青ちゃんは喉をゴロゴロと鳴らしている。黒のランニングシャツに白のハーフパンツの格好の薫くんはランニングの途中だったんだろうか。
私はそろりそろりとゆっくりふたりに近づいた。
「何やってんだ、お前」
いつもより小声なせいか、より低音になった声が尋ねる。私は薫くんと同じように傍でしゃがむと、気持ちよさそうに目を細めている青ちゃんを眺めた。
「青ちゃんと遊ぼうと思って」
そう囁くと、薫くんの手が止まった。私はその隙にみょん、みょん、と猫じゃらしを上下に動かした。すると、青ちゃんはたし、たし、と猫じゃらしを追いかけ始めた。
「青ちゃんってコイツのことか?」
「正解。青学の青から名付けたの」
「安直だな」
薫くんの言葉に、私は口元を膨らませて口角を下げた。分かりやすく不満を露わにしたけれど、薫くんはこちらを見ずに青ちゃんに首ったけ。でもほんのり笑っている気がしたから許してあげる。
「だって本名じゃないかもしれないでしょ」
本当のお家があるかもしれない。なんてことも考えているのだ。しかし薫くんは私を一瞥すると、一言言い切った。
「……コイツは野良だ」
「あらま。よくご存知で」
口元に手を当て、わざとらしく言ってみる。すると、薫くんは居心地が悪そうに顔を背け、バンダナの位置を動かす素振りを見せた。薫くんは恥ずかしいといつもバンダナに触れる。本人も気づいてるのか、気づいていないのか、よく分からない癖だけれど、ここは黙っておこう。
「あ、」
お喋りが過ぎたのか、青ちゃんは私達に背を向け、トコトコとどこかへ向かっていってしまった。今日のお遊びは終わりらしい。残念。
私はみょん、みょん、とまだおもちゃを遊ばせつつ、立ち上がる。薫くんも同じようにその場に立ち上がった。
「おい、制服汚れてんぞ」
薫くんの目線は私のスカートに。白に茶色の粉がついている。恐らく青ちゃんを探している時に付いた土だろう。
「ほんとだ」
土を払おうとした瞬間、薫くんの骨ばった手がぴくりと動いたけれど、すぐに引っ込んでいった。しっぽを巻いて逃げるかのようで、一瞬の出来事にゆっくりと瞬きをした。
「ったく、気をつけろよ」
「ありがとう、薫くん」
パンパン、と音を鳴らして土を落とし、薫くんと向き合う。私はあれ、と今日が火曜日であることを思い出した。
「薫くんは? 何してたの?」
今日は部活オフのはず。なのに汗をかいているということは。答えを出す前に、薫くんに答えられてしまった。
「自主練だ」
「その休憩中だったと」
「まあ、そうだ」
予想は大当たり。オフの日なのに練習を欠かさないとは。真っ直ぐな姿勢は私も見習わないといけないところだ。
「相変わらず頑張ってるねえ」
「当たり前だ」
そう言う薫くんの目はいつにも増して真剣だった。
勿論レギュラー戦があることは知っている。激しい競争ということも知っている。その中で、先輩もいる中で勝つということがどれだけ凄いことか。
「ふふふ、かっこいいねえ」
私は遊ばせていた手を止め、薫くんに笑いかけた。すると、みるみる内に顔色が変わり、口をはくはくとさせた。
「なっ、」
「ん? どうかした?」
「なんでもねえ……!」
薫くんは頬を真っ赤に染めて声を絞るように出すと、私に背を向け走り出してしまった。私はその姿を見送って、またおもちゃをみょん、みょん、と上下させた。
「ふふふ、可愛いねえ」