短編集
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
十月三十一日。近年普及し始めたハロウィンというイベント当日。何かに託けて騒ぎたい気持ちを抱えるのは他人事、と言えるほど私は大人ではなく、恋人を付き合わせてパーティーをしようと目論んでいた。勿論、協力の許可は貰っているから心配はない。むしろ、提案したときには恋人の方がノリノリだったのだから。
薄いコートの下に通販で購入した、短い丈のナース服を着て、付けたマスクの下には化粧で作った傷口が隠れている。この日のために調達したカラーコンタクトもばっちりつけているから、彼の驚き顔を想像するだけで口角が上がってしまう。コスプレは予定に入れていないから、さぞ驚くことだろう。向かう道程の電車の中で、彼と二人きりのハロウィンパーティーをどう過ごそうかと想像するだけで楽しくて仕方がないのだ。
最寄り駅に着いてから、某猫型ロボットのように常時浮いているのではないかと思わせるほどの悦の入り方で、通い慣れた一人暮らし専用のマンションに足を運んだ。隅が錆び付いた階段を上り、チャイムを鳴らした私は彼の名をいつもより高い声で呼んだ。
「貞〜?」
普段なら私の来るタイミングをピッタリに予想して扉を開けてくれるはずが、今日は音一つしない。不思議に思いながら再びチャイムを鳴らすと、扉の向こう側から昭和のアニメか、と思わせるほどの盛大な音が鳴り響いた。
「貞!?」
まさか、怪我をしたんだろうか。雷が落ちたと言っても過言ではない音が脳にこびりついて離れない。彼の部屋はお世辞にも綺麗とは言えない。来る度に口酸っぱく片付けをしろと言っても改善されないことに肩を落としていたけれど、こんな時に怪我されてしまうのは困る。
開くわけのない扉のノブをガチャガチャと騒がしく回していると、向こう側からノブが動いた。ゆっくりと開いた扉の先にいたのは、包帯人間だった。
「い、いらっしゃい……」
「ギャア!!!!」
喉が引き裂かれたのではないかと思う程の叫び声がマンションの廊下に響いた。しかし、瞬時に恋人の黒縁眼鏡が視界に入った事で、自らの口を両手で覆った。まさか恋人が顔が判別できないほど包帯でぐるぐる巻きの状態になってるなんて予想もしないだろう。顔も眼鏡がなければ貞だと分からなかったかもしれない。
「怖い怖い怖い。ちょ、とりあえず入らせて」
「本当に怖がってる?」
冷静なツッコミ、いや指摘を受けながら彼を押し退けて玄関に入り込む。狭い玄関に二人でぎゅうぎゅうに詰め込んでからマスクを顎にずらした。
「なに!?めっちゃびっくりしてんけど!?」
目を白黒とさせながら驚きを口にすると、彼は包帯の下に隠されていながらもだらしない声が漏れた。照れているのが丸わかりだった。
「いやあ、喜んでくれるかと思って」
「え、いや、そない本格的に……ええ!?」
乱れた鼓動を収める前に私の興味は彼の包帯へと向かってしまい、隅から隅までべたべたと触っては気合の入りように瞬きを繰り返すばかりだった。
「一人で巻いたん?」
「うん」
「めちゃくちゃ大変やったんちゃう?」
「まあ、上半身だけだから何とか」
「へえ〜……すご〜……めちゃ器用やん」
素直に尊敬した。普段部屋の使い方から料理の下手さを見ていると、どうにも器用には見えなくて今回のために練習してくれたのだろうかと一人で想像した。でも、意外とかっこつけなところがあるから頑張ったなんて正直に口にはしてくれないだろうな、なんて。
ふすふすと空気が漏れるように笑っていると、彼は正解を提示した。
「昔経験があってね」
「ミイラ男の?」
「違う。病院で包帯に巻かれる経験」
びょう、いん……?
たった四音が思考を止める。病院で経験があった、とは。無理矢理頭を働かせ、点と点を線で繋げる。唯一導き出せた答えは、震えながら言葉にするしかなかった。
「も、元ヤン……?」
「えっ」
互いの思考が食い違っていたようで部屋に上がらせてもらった後、彼は誤解を説いてくれた。でも、テニスの試合中の流血に付いていけなくて混乱したのはまた別の話。
薄いコートの下に通販で購入した、短い丈のナース服を着て、付けたマスクの下には化粧で作った傷口が隠れている。この日のために調達したカラーコンタクトもばっちりつけているから、彼の驚き顔を想像するだけで口角が上がってしまう。コスプレは予定に入れていないから、さぞ驚くことだろう。向かう道程の電車の中で、彼と二人きりのハロウィンパーティーをどう過ごそうかと想像するだけで楽しくて仕方がないのだ。
最寄り駅に着いてから、某猫型ロボットのように常時浮いているのではないかと思わせるほどの悦の入り方で、通い慣れた一人暮らし専用のマンションに足を運んだ。隅が錆び付いた階段を上り、チャイムを鳴らした私は彼の名をいつもより高い声で呼んだ。
「貞〜?」
普段なら私の来るタイミングをピッタリに予想して扉を開けてくれるはずが、今日は音一つしない。不思議に思いながら再びチャイムを鳴らすと、扉の向こう側から昭和のアニメか、と思わせるほどの盛大な音が鳴り響いた。
「貞!?」
まさか、怪我をしたんだろうか。雷が落ちたと言っても過言ではない音が脳にこびりついて離れない。彼の部屋はお世辞にも綺麗とは言えない。来る度に口酸っぱく片付けをしろと言っても改善されないことに肩を落としていたけれど、こんな時に怪我されてしまうのは困る。
開くわけのない扉のノブをガチャガチャと騒がしく回していると、向こう側からノブが動いた。ゆっくりと開いた扉の先にいたのは、包帯人間だった。
「い、いらっしゃい……」
「ギャア!!!!」
喉が引き裂かれたのではないかと思う程の叫び声がマンションの廊下に響いた。しかし、瞬時に恋人の黒縁眼鏡が視界に入った事で、自らの口を両手で覆った。まさか恋人が顔が判別できないほど包帯でぐるぐる巻きの状態になってるなんて予想もしないだろう。顔も眼鏡がなければ貞だと分からなかったかもしれない。
「怖い怖い怖い。ちょ、とりあえず入らせて」
「本当に怖がってる?」
冷静なツッコミ、いや指摘を受けながら彼を押し退けて玄関に入り込む。狭い玄関に二人でぎゅうぎゅうに詰め込んでからマスクを顎にずらした。
「なに!?めっちゃびっくりしてんけど!?」
目を白黒とさせながら驚きを口にすると、彼は包帯の下に隠されていながらもだらしない声が漏れた。照れているのが丸わかりだった。
「いやあ、喜んでくれるかと思って」
「え、いや、そない本格的に……ええ!?」
乱れた鼓動を収める前に私の興味は彼の包帯へと向かってしまい、隅から隅までべたべたと触っては気合の入りように瞬きを繰り返すばかりだった。
「一人で巻いたん?」
「うん」
「めちゃくちゃ大変やったんちゃう?」
「まあ、上半身だけだから何とか」
「へえ〜……すご〜……めちゃ器用やん」
素直に尊敬した。普段部屋の使い方から料理の下手さを見ていると、どうにも器用には見えなくて今回のために練習してくれたのだろうかと一人で想像した。でも、意外とかっこつけなところがあるから頑張ったなんて正直に口にはしてくれないだろうな、なんて。
ふすふすと空気が漏れるように笑っていると、彼は正解を提示した。
「昔経験があってね」
「ミイラ男の?」
「違う。病院で包帯に巻かれる経験」
びょう、いん……?
たった四音が思考を止める。病院で経験があった、とは。無理矢理頭を働かせ、点と点を線で繋げる。唯一導き出せた答えは、震えながら言葉にするしかなかった。
「も、元ヤン……?」
「えっ」
互いの思考が食い違っていたようで部屋に上がらせてもらった後、彼は誤解を説いてくれた。でも、テニスの試合中の流血に付いていけなくて混乱したのはまた別の話。