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席替えというのは、大概仲良くない人に囲まれる事が多い。自分の存在する界隈が狭いからと言われれば、その通りなのだけれど、席替えの神は狙い撃ちで微妙なラインを攻めてくる。
今日はその席替えの日で、端の席から順番に袋を回している。袋の中に入った、数字の書かれた小さな紙を引いては、次の人に渡した。黒板では先生が適当に数字を配置していく。自分の数字がいつ出るのか、そわそわとしている人が殆どだった。私はこういう時、いつも運が悪い。一番仲のいい友人と近くになれたこともないし、好きな人なんて以ての外。だから漫画みたいな隣になってトキメキを感じることは夢のまた夢だった。
黒板に目を凝らし、自分の数字を確認する。一番後ろの端。窓際の端の席が私の新たな席だった。珍しい良席に、周囲の人間が誰だろうと許せる気がした。すると、元気の良い溌剌とした声で叫ぶクラスメイトがいた。
「ヨッシャ!!」
数字を確認している複数人の男子の中に、ぴょこぴょこと跳ねる金髪がいた。背の高い部類の彼は、余程良席を引いたのか興奮していた。
「忍足うるさいで〜。一応授業中なんやからな〜」
気だるげに先生が注意をする。忍足くんは「すんません」と口にしていたけど、反省の色は全くと言ってない。周りにいる男子に揶揄われながらも、太陽のように笑っている。席替えは良くも悪くも煩くなるのはどこのクラスも同じだろう。
それにしても羨ましい。あの忍足くんと隣になるにはどれだけ徳を積めばいいのか。私は握っていた席替えの紙を握り潰した。手には、シワシワのゴミが残った。
私は同じクラスの忍足謙也に片想いをしている。明るくて、眩しくて、温かい。クラスの中心から外れた私にも優しいから、私は簡単に心を奪われていた。席替え一つに嫉妬してしまう私は、彼の隣に相応しくない。席替えの神もそういう魂胆なのだ。
ゴトゴトと教室中が騒がしくなる。私は引いた通りの場所に机を運び終えると、早々に席に着いた。端の席は移動の時に邪魔になりにくい。真ん中だと、最後まで待たないといけない。
殆どが席の移動をし終わる頃に、ようやく私の隣の人が訪れた。思わず目を見開いて彼を見つめた。
「よろしゅうな、名字さん」
先程まで大喜びしていた忍足くんだった。屈託のない笑顔が、トクン、といつもと違う鼓動を奏でる。
「……うん、よろしく」
席替えの神よ、どうした。私は前世で人を救ったのだろうか。今回の席替えは良席どころじゃない、神席だった。
密かに神にお礼を言ってから忍足くんの方に目をやると、彼は何やらそわそわと落ち着かない様子だった。ほんのりと赤い頬に興味が湧いた。こんこん、と人差し指で彼の席を叩いた。彼は変わらぬ様子で、私の声を拾う。
「さっき何に喜んでたん?」
内緒話をするように潜めて話す。すると、彼は突然立ち上がった。
「ッ、そ、それは……秘密や!」
そう叫ぶ彼の顔は、風邪でもひいたかのように真っ赤だ。もしかして、と嫌な予感がして周囲を見渡せば、彼の目の前は男子、右側も男子。二人とも、彼と仲いい話は聞かないし、見たこともない。それを確認した瞬間、私まで体が熱くなる。調子に乗ったらあかん。自惚れるにはまだ早い。
「忍足ええ加減にせえよー」
一度目より太くなった先生の声で忍足くんは席に座り直した。
「か、堪忍な……」
忍足くんは謝罪を口にしていたけれど、私としてはそれどころじゃない。
「ううん。大丈夫やよ」
手をひらひらとさせて本音を隠す。怖いほど、心臓が煩い。
「忍足くんの隣で良かったわ」
精一杯の勇気を振り絞って、届くか届かないか怪しい声で気持ちを伝える。聞こえなくたっていい。でも、黙っておけるほど、私の体には容量が足りなかった。すると、願い通り声は届いたのか、彼は勢いよく椅子を倒しながら立ち上がって叫んだ。
「俺も!!」
親指で自身を指しながら鼻息が荒い。彼から注がれる瞳は熱くて、今にも焼け落ちそう。チカチカと眩しくて、失明しそう。
「忍足!!」
「すんません!!!!」
二度目の怒号が響く。恐らく他の教室にも届いているはずだ。クラスメイト達はゲラゲラと笑っていたけれど、私は笑えなかった。赤い顔でぽかんと口を開けたまま、彼を見つめる事しか出来なかった。
今日はその席替えの日で、端の席から順番に袋を回している。袋の中に入った、数字の書かれた小さな紙を引いては、次の人に渡した。黒板では先生が適当に数字を配置していく。自分の数字がいつ出るのか、そわそわとしている人が殆どだった。私はこういう時、いつも運が悪い。一番仲のいい友人と近くになれたこともないし、好きな人なんて以ての外。だから漫画みたいな隣になってトキメキを感じることは夢のまた夢だった。
黒板に目を凝らし、自分の数字を確認する。一番後ろの端。窓際の端の席が私の新たな席だった。珍しい良席に、周囲の人間が誰だろうと許せる気がした。すると、元気の良い溌剌とした声で叫ぶクラスメイトがいた。
「ヨッシャ!!」
数字を確認している複数人の男子の中に、ぴょこぴょこと跳ねる金髪がいた。背の高い部類の彼は、余程良席を引いたのか興奮していた。
「忍足うるさいで〜。一応授業中なんやからな〜」
気だるげに先生が注意をする。忍足くんは「すんません」と口にしていたけど、反省の色は全くと言ってない。周りにいる男子に揶揄われながらも、太陽のように笑っている。席替えは良くも悪くも煩くなるのはどこのクラスも同じだろう。
それにしても羨ましい。あの忍足くんと隣になるにはどれだけ徳を積めばいいのか。私は握っていた席替えの紙を握り潰した。手には、シワシワのゴミが残った。
私は同じクラスの忍足謙也に片想いをしている。明るくて、眩しくて、温かい。クラスの中心から外れた私にも優しいから、私は簡単に心を奪われていた。席替え一つに嫉妬してしまう私は、彼の隣に相応しくない。席替えの神もそういう魂胆なのだ。
ゴトゴトと教室中が騒がしくなる。私は引いた通りの場所に机を運び終えると、早々に席に着いた。端の席は移動の時に邪魔になりにくい。真ん中だと、最後まで待たないといけない。
殆どが席の移動をし終わる頃に、ようやく私の隣の人が訪れた。思わず目を見開いて彼を見つめた。
「よろしゅうな、名字さん」
先程まで大喜びしていた忍足くんだった。屈託のない笑顔が、トクン、といつもと違う鼓動を奏でる。
「……うん、よろしく」
席替えの神よ、どうした。私は前世で人を救ったのだろうか。今回の席替えは良席どころじゃない、神席だった。
密かに神にお礼を言ってから忍足くんの方に目をやると、彼は何やらそわそわと落ち着かない様子だった。ほんのりと赤い頬に興味が湧いた。こんこん、と人差し指で彼の席を叩いた。彼は変わらぬ様子で、私の声を拾う。
「さっき何に喜んでたん?」
内緒話をするように潜めて話す。すると、彼は突然立ち上がった。
「ッ、そ、それは……秘密や!」
そう叫ぶ彼の顔は、風邪でもひいたかのように真っ赤だ。もしかして、と嫌な予感がして周囲を見渡せば、彼の目の前は男子、右側も男子。二人とも、彼と仲いい話は聞かないし、見たこともない。それを確認した瞬間、私まで体が熱くなる。調子に乗ったらあかん。自惚れるにはまだ早い。
「忍足ええ加減にせえよー」
一度目より太くなった先生の声で忍足くんは席に座り直した。
「か、堪忍な……」
忍足くんは謝罪を口にしていたけれど、私としてはそれどころじゃない。
「ううん。大丈夫やよ」
手をひらひらとさせて本音を隠す。怖いほど、心臓が煩い。
「忍足くんの隣で良かったわ」
精一杯の勇気を振り絞って、届くか届かないか怪しい声で気持ちを伝える。聞こえなくたっていい。でも、黙っておけるほど、私の体には容量が足りなかった。すると、願い通り声は届いたのか、彼は勢いよく椅子を倒しながら立ち上がって叫んだ。
「俺も!!」
親指で自身を指しながら鼻息が荒い。彼から注がれる瞳は熱くて、今にも焼け落ちそう。チカチカと眩しくて、失明しそう。
「忍足!!」
「すんません!!!!」
二度目の怒号が響く。恐らく他の教室にも届いているはずだ。クラスメイト達はゲラゲラと笑っていたけれど、私は笑えなかった。赤い顔でぽかんと口を開けたまま、彼を見つめる事しか出来なかった。