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恋は盲目と言ったものだが、あれは馬鹿のする事だと常々思う。よくもまあ毎日恋人から貰ったプレゼントやら記念日やら、さしては先程話した内容まで飽きずに惚けた顔で話せるものだ。一番阿呆な顔をしている自覚をした方がいい。
どうして私がここまで悪態をつくかと言えば、今現在、移動教室先で目の前に座る二人がおかしな程密着しているからだ。話す内容も中身が全くと言っていいほどなく、何が面白いのか理解に欠ける。「やば〜い」と言っておけば進む話などしない方がマシだ。
しかし、隣に座っている乾というクラスメイトはもっと問題外だった。意味の分からない事をブツブツと呟いてはノートに書き込んでいる。最近よく話しかけてくるけれど、質問の意図が分からない。休みの日は何してる?だとか、趣味は?だとか、私個人に関して聞いてくる。私も断ればいいのに、正直に答えてしまう。彼がテニス部のレギュラーである事は知っているけれど、その他はあまり知らない。テニス部と聞いていても汗をかいて動く姿を想像するのは私にとって難しかった。ギャップと言うのか、普段の姿とかけ離れているように思う。
そんな事を考えながら凝視してしまったせいか、乾がこちらを向いた。
「名字さん」
突然話しかけられ、肩が跳ねた。乾は何故か口角が上がっている。彼の笑顔はどこか不気味で、今日は何を聞かれるのかと身構えてしまう。どうせまた、碌でもない事なんだろう。溜息を吐きながら乾の方に目をやった。彼は眼鏡のブリッジを上げると、予想外の角度から質問を飛ばしてきた。
「恋をした事ある?」
「……暇なの?」
私が苛立つ理由を見透かしたような問いに、皺が残る程の力で眉間に皺を寄せた。この男は何が目的だ。
「暇ではないよ。でも人生に幅をもたせるには必要な事じゃないかな」
深呼吸に似た息を吐いた。全てを知ったような口ぶりに苛立ちを覚える。それらしい事を言っているのが気に食わないのだ。
「それで、何が目的?」
細めた目で頬杖をつくと、彼はくつくつと肩を揺らして笑っていた。
「質問に答えてくれるだけでいいさ。そのままの君で構わない」
ほっとけばいい。ほっとけばいいのに、私は真面目に取り合ってしまう。何だか悔しくて堪らない。まんまと乗せられているような、そんな気がするのだ。
「恋は……馬鹿のする事だと思ってる」
力なく呟くように答えると、彼はノートに何かを書いた。笑ってくれればいいのに、真面目に書き取るものだから恥ずかしくなってくる。
「馬鹿、か」
「満足した?」
余裕があるように振る舞うが、ピリピリと体が緊張を覚える。彼は私とは対照的に随分とリラックスしているようだった。
「いや、本題はここからでね」
乾は身体ごと私に向けた。大きな図体を動かしている様は小さな机椅子とあまりにも不似合い。よいしょ、と声を漏らす姿も年齢には釣り合ってない。何なんだ、この男は。額に青筋が浮かびそうになるのを必死に抑える。わざとらしく大きな体を縮めて私に近づくと、上目遣いで私の顔を覗き込んだ。彼の真っ直ぐな瞳に、息を呑んだ。
「俺と馬鹿にならないかってお誘いをしたくて」
「ッ……本当に馬鹿なんじゃないの!?」
カラカラに渇いた喉で彼にだけ叫んだ。
「お気に召さないか」
やれやれ、と首を左右に振りながら自身の席へと戻っていく乾。そして再びノートに何かを書き記していた。
「理屈じゃないな」
首を傾げながら笑う彼は、馬鹿みたいな惚気顔を晒している。恥ずかしくないのかと辟易しつつ、顔が熱いのは私も同じように馬鹿な顔を晒しているから。
どうして私がここまで悪態をつくかと言えば、今現在、移動教室先で目の前に座る二人がおかしな程密着しているからだ。話す内容も中身が全くと言っていいほどなく、何が面白いのか理解に欠ける。「やば〜い」と言っておけば進む話などしない方がマシだ。
しかし、隣に座っている乾というクラスメイトはもっと問題外だった。意味の分からない事をブツブツと呟いてはノートに書き込んでいる。最近よく話しかけてくるけれど、質問の意図が分からない。休みの日は何してる?だとか、趣味は?だとか、私個人に関して聞いてくる。私も断ればいいのに、正直に答えてしまう。彼がテニス部のレギュラーである事は知っているけれど、その他はあまり知らない。テニス部と聞いていても汗をかいて動く姿を想像するのは私にとって難しかった。ギャップと言うのか、普段の姿とかけ離れているように思う。
そんな事を考えながら凝視してしまったせいか、乾がこちらを向いた。
「名字さん」
突然話しかけられ、肩が跳ねた。乾は何故か口角が上がっている。彼の笑顔はどこか不気味で、今日は何を聞かれるのかと身構えてしまう。どうせまた、碌でもない事なんだろう。溜息を吐きながら乾の方に目をやった。彼は眼鏡のブリッジを上げると、予想外の角度から質問を飛ばしてきた。
「恋をした事ある?」
「……暇なの?」
私が苛立つ理由を見透かしたような問いに、皺が残る程の力で眉間に皺を寄せた。この男は何が目的だ。
「暇ではないよ。でも人生に幅をもたせるには必要な事じゃないかな」
深呼吸に似た息を吐いた。全てを知ったような口ぶりに苛立ちを覚える。それらしい事を言っているのが気に食わないのだ。
「それで、何が目的?」
細めた目で頬杖をつくと、彼はくつくつと肩を揺らして笑っていた。
「質問に答えてくれるだけでいいさ。そのままの君で構わない」
ほっとけばいい。ほっとけばいいのに、私は真面目に取り合ってしまう。何だか悔しくて堪らない。まんまと乗せられているような、そんな気がするのだ。
「恋は……馬鹿のする事だと思ってる」
力なく呟くように答えると、彼はノートに何かを書いた。笑ってくれればいいのに、真面目に書き取るものだから恥ずかしくなってくる。
「馬鹿、か」
「満足した?」
余裕があるように振る舞うが、ピリピリと体が緊張を覚える。彼は私とは対照的に随分とリラックスしているようだった。
「いや、本題はここからでね」
乾は身体ごと私に向けた。大きな図体を動かしている様は小さな机椅子とあまりにも不似合い。よいしょ、と声を漏らす姿も年齢には釣り合ってない。何なんだ、この男は。額に青筋が浮かびそうになるのを必死に抑える。わざとらしく大きな体を縮めて私に近づくと、上目遣いで私の顔を覗き込んだ。彼の真っ直ぐな瞳に、息を呑んだ。
「俺と馬鹿にならないかってお誘いをしたくて」
「ッ……本当に馬鹿なんじゃないの!?」
カラカラに渇いた喉で彼にだけ叫んだ。
「お気に召さないか」
やれやれ、と首を左右に振りながら自身の席へと戻っていく乾。そして再びノートに何かを書き記していた。
「理屈じゃないな」
首を傾げながら笑う彼は、馬鹿みたいな惚気顔を晒している。恥ずかしくないのかと辟易しつつ、顔が熱いのは私も同じように馬鹿な顔を晒しているから。