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「ボディタッチは多い方がいいよ〜!」
昼食後、叫びながら机に突っ伏すのは私の友人だった。え〜ん、と嘘泣きをして喚く姿は最近の恒例となっている。
「ええ、暑いのにやだよ」
苦虫を噛み潰したように顔を歪める。飲んでいた紙パックジュースがズズズ、と下品な音を立て、お腹を凹ませた。空になったのを確認してからストローの先端を噛むと、友人はけろっと表情を変えて自身の憧れを体現した。
「暑いのは、私達の愛のせいだね……とか言っちゃって!」
「その台詞だけでも暑いわ」
キャーッと甲高い声を上げて妄想カップルを披露する。初めて見た時は首を傾げずにはいられなかったが、慣れてしまった今は面白いと思ってる。顔には出さないけれど。
お互い恋人がいない癖にこういう手の話ばかりが膨らんでいくのは、もうすぐ夏休みが待っているからだった。期末テストも終わり、いよいよ夏本番が近づく。浮かれているのは私達だけじゃなく、誰しもが同じだろう。私達は今年も一緒だね、と言いながらも、好みの相手の話を一方的に……いや、お互い話している。
「何の話してんの〜?」
寂しい私達の元は来たのは同じクラスの菊丸と不二。恋愛事では引く手数多だろう二人だ。二人とは友人関係で、特別何かある訳じゃない。特に不二の方は席が隣だからよく話すだけ。
「恋人のボディタッチは多い方がいいか、少ない方がいいかって話!」
友人が意気揚々と内容を伝えると、不二は意味ありげに目を開けた。
「へえ、」
何がへえ、なのか教えて欲しい。でも、碌でもなさそうだから聞きたくない。微笑む不二を、私は見て見ぬふりをした。すると、菊丸もボディタッチは多い方が良い派だったらしく、友人と話が盛り上がり始めた。私と不二は置いてけぼりだ。確かに私はボディタッチがあまり好きではないし、不二も好きそうに見えない。だからこうなるのは理解の上だった。
すると、不二は私の顔を覗き込んで同じ内容を尋ねた。
「名字はどうなの?」
不二もこういう事を話すのか、と少し意外だった。
「私?私は……要らないかな。暑いし」
「期間限定なんだね」
今は夏だし、まずは目先の事でしょう。だって実際その存在さえいないんだし。
そんな事を考えながら、手にしていた紙パックを机の上に置いた。すると、不二は私をずっと微笑みながら見つめている。妙な視線に居心地が悪くなり、目を逸らした。ただでさえ暑い夏の日に、不二の目はよろしくない。いつもと違う彼のような気がする。わかんないけど、気持ちだけ。
目の前の二人をぼう、と眺めていると机の上に置いていた手に何かが触れた。私より少し冷たくて、柔らかい。
「へ、ちょ、不二?」
手の先を確認すると、私の手に触れていたのは不二だった。まじまじと眺めては、私の手を玩具のように遊んでいる。指を一本、一本確かめるように触ったり、全体を撫でたりと自由だ。突然の事に呆気に取られ、手が引っ込めない。
「うん」
「何が『うん』なの!?」
焦る私を他所に、何かに納得した不二は私の手を握る。所謂恋人繋ぎの形で握る。変に動けなくて、じわじわと体が熱を帯びる。誰にも見られていない、二人だけの空間のようだった。
「ちょうどいいね」
一人で納得すると、チャイムが鳴った。不二の手がするりと離れていく。彼は自分の席である私の隣に座ると、何も無かったかのように微笑んでいる。そんな不二が憎く見えてしまう。
「何がちょうどいいんだか、」
聞こえないように呟いたのに、不二には聞こえているようでこちらを向いた。いつもと変わらない笑顔がそこにいる。
「事前調査ってやつかな」
不二の言葉を聞いた瞬間、先生が教室に入ってきてしまった。クラスメイト達は自分の席に戻ったり、机から教科書を出している。
でも私は動けなかった。手に残る熱と不二の微笑みが、鼓動を加速させるから。
昼食後、叫びながら机に突っ伏すのは私の友人だった。え〜ん、と嘘泣きをして喚く姿は最近の恒例となっている。
「ええ、暑いのにやだよ」
苦虫を噛み潰したように顔を歪める。飲んでいた紙パックジュースがズズズ、と下品な音を立て、お腹を凹ませた。空になったのを確認してからストローの先端を噛むと、友人はけろっと表情を変えて自身の憧れを体現した。
「暑いのは、私達の愛のせいだね……とか言っちゃって!」
「その台詞だけでも暑いわ」
キャーッと甲高い声を上げて妄想カップルを披露する。初めて見た時は首を傾げずにはいられなかったが、慣れてしまった今は面白いと思ってる。顔には出さないけれど。
お互い恋人がいない癖にこういう手の話ばかりが膨らんでいくのは、もうすぐ夏休みが待っているからだった。期末テストも終わり、いよいよ夏本番が近づく。浮かれているのは私達だけじゃなく、誰しもが同じだろう。私達は今年も一緒だね、と言いながらも、好みの相手の話を一方的に……いや、お互い話している。
「何の話してんの〜?」
寂しい私達の元は来たのは同じクラスの菊丸と不二。恋愛事では引く手数多だろう二人だ。二人とは友人関係で、特別何かある訳じゃない。特に不二の方は席が隣だからよく話すだけ。
「恋人のボディタッチは多い方がいいか、少ない方がいいかって話!」
友人が意気揚々と内容を伝えると、不二は意味ありげに目を開けた。
「へえ、」
何がへえ、なのか教えて欲しい。でも、碌でもなさそうだから聞きたくない。微笑む不二を、私は見て見ぬふりをした。すると、菊丸もボディタッチは多い方が良い派だったらしく、友人と話が盛り上がり始めた。私と不二は置いてけぼりだ。確かに私はボディタッチがあまり好きではないし、不二も好きそうに見えない。だからこうなるのは理解の上だった。
すると、不二は私の顔を覗き込んで同じ内容を尋ねた。
「名字はどうなの?」
不二もこういう事を話すのか、と少し意外だった。
「私?私は……要らないかな。暑いし」
「期間限定なんだね」
今は夏だし、まずは目先の事でしょう。だって実際その存在さえいないんだし。
そんな事を考えながら、手にしていた紙パックを机の上に置いた。すると、不二は私をずっと微笑みながら見つめている。妙な視線に居心地が悪くなり、目を逸らした。ただでさえ暑い夏の日に、不二の目はよろしくない。いつもと違う彼のような気がする。わかんないけど、気持ちだけ。
目の前の二人をぼう、と眺めていると机の上に置いていた手に何かが触れた。私より少し冷たくて、柔らかい。
「へ、ちょ、不二?」
手の先を確認すると、私の手に触れていたのは不二だった。まじまじと眺めては、私の手を玩具のように遊んでいる。指を一本、一本確かめるように触ったり、全体を撫でたりと自由だ。突然の事に呆気に取られ、手が引っ込めない。
「うん」
「何が『うん』なの!?」
焦る私を他所に、何かに納得した不二は私の手を握る。所謂恋人繋ぎの形で握る。変に動けなくて、じわじわと体が熱を帯びる。誰にも見られていない、二人だけの空間のようだった。
「ちょうどいいね」
一人で納得すると、チャイムが鳴った。不二の手がするりと離れていく。彼は自分の席である私の隣に座ると、何も無かったかのように微笑んでいる。そんな不二が憎く見えてしまう。
「何がちょうどいいんだか、」
聞こえないように呟いたのに、不二には聞こえているようでこちらを向いた。いつもと変わらない笑顔がそこにいる。
「事前調査ってやつかな」
不二の言葉を聞いた瞬間、先生が教室に入ってきてしまった。クラスメイト達は自分の席に戻ったり、机から教科書を出している。
でも私は動けなかった。手に残る熱と不二の微笑みが、鼓動を加速させるから。