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「白石君、今年チョコ受け取らへんらしいで!」
悲鳴にも似た叫び声が三年の廊下に響き渡る。教室にいても聞こえてくるその声は聞き覚えのある声だった。よく白石君に話しかけに行くのを目にしているせいで、無駄に覚えてしまっていた。
そんな彼女と友人達を後目にカレンダーを見ると今日の日付は二月七日。バレンタイン当日までちょうど一週間前。おそらく彼女だけでなく、彼に本命を渡そうとしていた女子は計り知れないほどいるはずだ。それが先程の悲鳴にもつながるのだけれど。
廊下にいる白石君ファンの会話に耳を傾けていると、情報はするすると入ってくる。
「えっ、義理もあかんの?」
「女テニから聞いてんけど、チョコ自体いらんねんて。本命はもちろん、義理もって」
「ええ……どないしよ……作るもん決めとったのに、」
落胆の声が聞こえ、思わず私も頷きそうになった。義理と称して彼に渡すつもりだったために。
私は元々謙也と仲が良く、適度な距離で片思い相手だった白石君と仲良くできていた。少なくとも私はそう思っている。三年になって同じクラスになり、謙也に助けてもらいながら彼のテリトリーに入ったと言うのに。
どうせ彼女でもできたんだろう。彼女の以外は受け取らない。しっかりしてるなあ。私も準備はしてたんだけど。
込み上げる感情に鼻の奥が痛み、顔を上げる。泣いちゃだめだ。元々期待なんてしてなかったんだから。
机に突っ伏し、沸き起こる悲しみを抑えようとしていると、頭をぽん、と叩かれる。身体を起こすとそこには眩しい笑顔を浮かべた謙也が目の前の席に座ろうとしていた。
「おはようさん。どないしたん、そんな辛気臭い顔して」
「……現実逃避しとった」
「なんや、嫌なことでもあったんか」
「まあ、そうですね」
「標準語になるほどかいな」
自分を落ち着かせるためにも謙也に全てを話すと、知らなかったのか目を丸くさせていた。
「それ白石から聞いたん?」
「いや……又聞きやけど、」
「ほーん……まあええわ。でも自分、一応作ってきとき」
「受け取ってもらえへんのにわざわざ?」
捻くれた言い方をすると、謙也はええから作れ!と声を張り上げる。なぜここまでムキになるのかと疑問を抱いたが、口にはしなかった。
「じゃあ、受け取ってもらえへんかったらもろうてくれるん?」
「それくらい全然かまへんで」
謙也に背中を押され、予定変更なしでチョコレート作成に励むことに決まった。
どうせ謙也に二つ渡して終わるんやろうな。
***
バレンタイン当日を迎え、至る所から甘い匂いが香る。朝から交換会は始まり、近しいクラスメイトから配っていく。
「謙也、まず義理」
「お~!おおきに!」
予定通り謙也に渡すと、こそこそと本命について尋ねてきた。
「あいつのとこ行ったん?」
「まだ。負け戦ってわかっとんのに、ほいほいと行かれへんわ」
はあ、と溜息を吐く。相変わらず気分が向かない私に、謙也は励ましの言葉をくれる。
「もしかしたら受け取ってくれるかもしれんやん」
「どんな間違いが起こったらそんなんあるんよ。ないない」
「俺ついてったるで」
「いい。もうええから」
一週間前に聞いた話のせいで前に進めない。絶対に渡すと息巻いていたのに、こんなにも呆気ないのか。
「じゃあ放課後待っとって。最後にお前がほんまに渡さへんかったらもらう」
「はーい」
適当に返事をして他の子の元へ。
今の私には、あんなことが起こるなんて予想だにしていなかった。
***
放課後になり、白石君に渡す予定などとっくに消してしまったため、謙也を探す。教室中を見回すけれど、彼は見当たらない。
待て言うたんは謙也やのに。鞄はあるから帰ってくるだろうと待っていると、私の元には予想外の人物が。
「名字さん、」
「っ、白石君?どないしたん」
「今日、一緒に帰らへん?」
一緒に帰る?一度で理解できずに、思わず聞き返した。
「約束ある?謙也とかと、」
謙也の名前が出た瞬間、私のスマホの画面が明るくなる。ちらりと確認すると、「がんばれ」という謙也からのメッセージが。わざわざ気をまわしてくれたのか、と嬉しいような嬉しくないような気分に陥る。
「う、ううん。なんもない」
でもなんで白石君は私を誘ってくれたんやろうか。
まさか?もしかして?期待するも、すぐに消し去る。やめとけ自分。期待するだけ無駄。そう思いつつも、ふわふわとする感覚から逃れられなかった。
校舎を出ると、白石君は私の持つ紙袋を指差した。
「さっきから気になっててんけど、それすごい量やな」
「あはは、みんな交換するん当たり前やからなあ」
友チョコだけでおかしくなるほどの数を交換するのは恒例行事。今年は何日で消費できるだろうか。
「何作ったん?」
「ガトーショコラ。昨日何個もホール焼いたんやけど部屋中甘い匂いでいっぱいになって大変やったわ」
「俺んちもそうやったわ」
「妹さんおるんやったっけ?」
「せやねん。姉ちゃんも妹も二人して作るから台所やばかったわ」
日常と変わらないテンション。このまま帰るだけで終わり?
微妙な気持ちに支配されそうになった瞬間、彼の声は硬さを含んだ。
「一つ、聞きたいことあんねん。それで今日帰り誘ってんけど、」
何だろう、と一瞬身構える。足を止める白石君につられ、私も足を止めると、彼はまっすぐな視線を私に寄越した。
「本命、渡したん?」
それはどういう意図で聞いているのか。バクバクと心臓がうるさい。
すると、白石君は切なげに目を細めて呟いた。
「今日名字さんのこと見とったら謙也に渡しとったから、」
「あ、あれは義理やから!いつも仲良うしとるし……」
「俺はその仲良うには入ってないん?」
「だって白石君いらんって聞いたから……」
待って。嘘やん。夢?現状が理解できずに、慌ててしまう。
「その、俺な……名字さんからだけもらえたらええなって、」
あの噂は事実だった。でもそれは私のをもらうためだけに言ってたということなのか。
「そ、そんな言い方されたら……勘違いするで」
「ええよ。そう思って」
肯定され、漸く私は彼の顔を見た。
「今年は好きな子からだけ欲しいねん」
赤く染まった頬が現実味を増す。絶対嘘やと思ってたのに。込み上げる感情が制御できずに、勝手に零れ落ちていく。
「え、あ、すまん!ちゃうねん、泣かせるつもりは……」
「ちゃう。ちゃうねん。そんなん言われると思ってへんかったから」
慌てる白石君。安心させるためにも涙を堪えようとしても止まることはない。滲む視界の中で紙袋に潜ませていた彼専用を取り出した。
「用意、しとったんよ。ほんまは作るんもやめとこうって思っとったんやけど、謙也に作った方がええって言われたし私も私で諦めきれへんとこあって……でも、渡す勇気がなくて、」
ぐす、と鼻をすすると、彼の口からはすまん、と謝罪の言葉。
「ほな、これ俺もらってええんやな?」
こくりと頷くと、彼は受け取ってから優しく微笑む。
「おおきに。めっちゃ嬉しい」
諦めても作ってきとって良かった。謙也にまたお礼言うとこ。
「ほとんど諦めとったから嬉しすぎて死にそうやわ」
口元が緩み切った白石君はいつもより雰囲気が丸くて、新鮮だった。他の子は知らないんだろうなあと思うと、胸がいっぱいになった。
彼は早く中が見たいのか、紙袋の中をまじまじと見つめていた。
「俺ずっと不安やってん。謙也が名字さんの本命もらっとったらって」
「……そうなん?」
「だって、自分ら仲ええやろ」
「仲ええのは否定せえへんけど、私が謙也と話すんは白石くんが関係しとるんよ?」
彼はきょとんとして首を傾げる。
「ずっと白石君のこと、謙也に相談しとったんやもん」
私の答えに一瞬で顔を赤くする白石君。
「はっず、ちょ、今見んといて」
空いた手で顔を隠すように覆うも、赤い顔はバレバレ。
「えー、どないしよかな」
「……意地悪や」
「ふふ、白石君ってかわええな」
「かわええって何なん……かっこええにしてや」
「だってそれはいっつもそうやん」
つまらないというように唇を尖らせると、白石君はへらりとだらしなく笑った。
「えー……もうあかん。そんなかわええこと言わんといて」
どういうことかと疑問符を頭上に浮かべる。
「いっつも俺のことかっこええって思ってくれてたんやろ?」
今度は私が顔を赤くする番となってしまった。ボン、と音が鳴ってしまいそうなほど突然。
「めっちゃ嬉しい」
「もうこの話やめへん?恥ずかしくなってきた」
「はは、帰ろか」
歩き始めようとした瞬間、彼は私に手のひらを差し出す。
「手、繋がへん?」
まだ赤みの残った頬を備えたまま、私は小さく頷いてから彼の手を取った。
おまけ
「ただいまー」
「くーちゃんおかえり~」
自宅へ戻ると、友香里が俺を迎えた。妹はきょとんとした顔で首を傾げる。
「あれ?くーちゃんチョコは?」
「え?ああ、もらってへんで」
毎年山のようにもらってきていたせいで、極端な差に驚くのもおかしくないだろう。友香里は、ああ、と何かに納得したような声を上げると、俺の右手を指差した。
「くーちゃん、彼女できたん?」
「え?」
「それ、いかにもってやつ」
先程唯一もらったチョコレート。これは、間違えようのない本命。
「あかん!これだけは一口もやらへんからな!」
「はいはい、彼女のやもんな~」
ムキになる俺とは対照的に、友香里は意味ありげに笑ってリビングへ戻っていく。
「おかーさーん。くーちゃん彼女できてる~」
「友香里!!!!」
悲鳴にも似た叫び声が三年の廊下に響き渡る。教室にいても聞こえてくるその声は聞き覚えのある声だった。よく白石君に話しかけに行くのを目にしているせいで、無駄に覚えてしまっていた。
そんな彼女と友人達を後目にカレンダーを見ると今日の日付は二月七日。バレンタイン当日までちょうど一週間前。おそらく彼女だけでなく、彼に本命を渡そうとしていた女子は計り知れないほどいるはずだ。それが先程の悲鳴にもつながるのだけれど。
廊下にいる白石君ファンの会話に耳を傾けていると、情報はするすると入ってくる。
「えっ、義理もあかんの?」
「女テニから聞いてんけど、チョコ自体いらんねんて。本命はもちろん、義理もって」
「ええ……どないしよ……作るもん決めとったのに、」
落胆の声が聞こえ、思わず私も頷きそうになった。義理と称して彼に渡すつもりだったために。
私は元々謙也と仲が良く、適度な距離で片思い相手だった白石君と仲良くできていた。少なくとも私はそう思っている。三年になって同じクラスになり、謙也に助けてもらいながら彼のテリトリーに入ったと言うのに。
どうせ彼女でもできたんだろう。彼女の以外は受け取らない。しっかりしてるなあ。私も準備はしてたんだけど。
込み上げる感情に鼻の奥が痛み、顔を上げる。泣いちゃだめだ。元々期待なんてしてなかったんだから。
机に突っ伏し、沸き起こる悲しみを抑えようとしていると、頭をぽん、と叩かれる。身体を起こすとそこには眩しい笑顔を浮かべた謙也が目の前の席に座ろうとしていた。
「おはようさん。どないしたん、そんな辛気臭い顔して」
「……現実逃避しとった」
「なんや、嫌なことでもあったんか」
「まあ、そうですね」
「標準語になるほどかいな」
自分を落ち着かせるためにも謙也に全てを話すと、知らなかったのか目を丸くさせていた。
「それ白石から聞いたん?」
「いや……又聞きやけど、」
「ほーん……まあええわ。でも自分、一応作ってきとき」
「受け取ってもらえへんのにわざわざ?」
捻くれた言い方をすると、謙也はええから作れ!と声を張り上げる。なぜここまでムキになるのかと疑問を抱いたが、口にはしなかった。
「じゃあ、受け取ってもらえへんかったらもろうてくれるん?」
「それくらい全然かまへんで」
謙也に背中を押され、予定変更なしでチョコレート作成に励むことに決まった。
どうせ謙也に二つ渡して終わるんやろうな。
***
バレンタイン当日を迎え、至る所から甘い匂いが香る。朝から交換会は始まり、近しいクラスメイトから配っていく。
「謙也、まず義理」
「お~!おおきに!」
予定通り謙也に渡すと、こそこそと本命について尋ねてきた。
「あいつのとこ行ったん?」
「まだ。負け戦ってわかっとんのに、ほいほいと行かれへんわ」
はあ、と溜息を吐く。相変わらず気分が向かない私に、謙也は励ましの言葉をくれる。
「もしかしたら受け取ってくれるかもしれんやん」
「どんな間違いが起こったらそんなんあるんよ。ないない」
「俺ついてったるで」
「いい。もうええから」
一週間前に聞いた話のせいで前に進めない。絶対に渡すと息巻いていたのに、こんなにも呆気ないのか。
「じゃあ放課後待っとって。最後にお前がほんまに渡さへんかったらもらう」
「はーい」
適当に返事をして他の子の元へ。
今の私には、あんなことが起こるなんて予想だにしていなかった。
***
放課後になり、白石君に渡す予定などとっくに消してしまったため、謙也を探す。教室中を見回すけれど、彼は見当たらない。
待て言うたんは謙也やのに。鞄はあるから帰ってくるだろうと待っていると、私の元には予想外の人物が。
「名字さん、」
「っ、白石君?どないしたん」
「今日、一緒に帰らへん?」
一緒に帰る?一度で理解できずに、思わず聞き返した。
「約束ある?謙也とかと、」
謙也の名前が出た瞬間、私のスマホの画面が明るくなる。ちらりと確認すると、「がんばれ」という謙也からのメッセージが。わざわざ気をまわしてくれたのか、と嬉しいような嬉しくないような気分に陥る。
「う、ううん。なんもない」
でもなんで白石君は私を誘ってくれたんやろうか。
まさか?もしかして?期待するも、すぐに消し去る。やめとけ自分。期待するだけ無駄。そう思いつつも、ふわふわとする感覚から逃れられなかった。
校舎を出ると、白石君は私の持つ紙袋を指差した。
「さっきから気になっててんけど、それすごい量やな」
「あはは、みんな交換するん当たり前やからなあ」
友チョコだけでおかしくなるほどの数を交換するのは恒例行事。今年は何日で消費できるだろうか。
「何作ったん?」
「ガトーショコラ。昨日何個もホール焼いたんやけど部屋中甘い匂いでいっぱいになって大変やったわ」
「俺んちもそうやったわ」
「妹さんおるんやったっけ?」
「せやねん。姉ちゃんも妹も二人して作るから台所やばかったわ」
日常と変わらないテンション。このまま帰るだけで終わり?
微妙な気持ちに支配されそうになった瞬間、彼の声は硬さを含んだ。
「一つ、聞きたいことあんねん。それで今日帰り誘ってんけど、」
何だろう、と一瞬身構える。足を止める白石君につられ、私も足を止めると、彼はまっすぐな視線を私に寄越した。
「本命、渡したん?」
それはどういう意図で聞いているのか。バクバクと心臓がうるさい。
すると、白石君は切なげに目を細めて呟いた。
「今日名字さんのこと見とったら謙也に渡しとったから、」
「あ、あれは義理やから!いつも仲良うしとるし……」
「俺はその仲良うには入ってないん?」
「だって白石君いらんって聞いたから……」
待って。嘘やん。夢?現状が理解できずに、慌ててしまう。
「その、俺な……名字さんからだけもらえたらええなって、」
あの噂は事実だった。でもそれは私のをもらうためだけに言ってたということなのか。
「そ、そんな言い方されたら……勘違いするで」
「ええよ。そう思って」
肯定され、漸く私は彼の顔を見た。
「今年は好きな子からだけ欲しいねん」
赤く染まった頬が現実味を増す。絶対嘘やと思ってたのに。込み上げる感情が制御できずに、勝手に零れ落ちていく。
「え、あ、すまん!ちゃうねん、泣かせるつもりは……」
「ちゃう。ちゃうねん。そんなん言われると思ってへんかったから」
慌てる白石君。安心させるためにも涙を堪えようとしても止まることはない。滲む視界の中で紙袋に潜ませていた彼専用を取り出した。
「用意、しとったんよ。ほんまは作るんもやめとこうって思っとったんやけど、謙也に作った方がええって言われたし私も私で諦めきれへんとこあって……でも、渡す勇気がなくて、」
ぐす、と鼻をすすると、彼の口からはすまん、と謝罪の言葉。
「ほな、これ俺もらってええんやな?」
こくりと頷くと、彼は受け取ってから優しく微笑む。
「おおきに。めっちゃ嬉しい」
諦めても作ってきとって良かった。謙也にまたお礼言うとこ。
「ほとんど諦めとったから嬉しすぎて死にそうやわ」
口元が緩み切った白石君はいつもより雰囲気が丸くて、新鮮だった。他の子は知らないんだろうなあと思うと、胸がいっぱいになった。
彼は早く中が見たいのか、紙袋の中をまじまじと見つめていた。
「俺ずっと不安やってん。謙也が名字さんの本命もらっとったらって」
「……そうなん?」
「だって、自分ら仲ええやろ」
「仲ええのは否定せえへんけど、私が謙也と話すんは白石くんが関係しとるんよ?」
彼はきょとんとして首を傾げる。
「ずっと白石君のこと、謙也に相談しとったんやもん」
私の答えに一瞬で顔を赤くする白石君。
「はっず、ちょ、今見んといて」
空いた手で顔を隠すように覆うも、赤い顔はバレバレ。
「えー、どないしよかな」
「……意地悪や」
「ふふ、白石君ってかわええな」
「かわええって何なん……かっこええにしてや」
「だってそれはいっつもそうやん」
つまらないというように唇を尖らせると、白石君はへらりとだらしなく笑った。
「えー……もうあかん。そんなかわええこと言わんといて」
どういうことかと疑問符を頭上に浮かべる。
「いっつも俺のことかっこええって思ってくれてたんやろ?」
今度は私が顔を赤くする番となってしまった。ボン、と音が鳴ってしまいそうなほど突然。
「めっちゃ嬉しい」
「もうこの話やめへん?恥ずかしくなってきた」
「はは、帰ろか」
歩き始めようとした瞬間、彼は私に手のひらを差し出す。
「手、繋がへん?」
まだ赤みの残った頬を備えたまま、私は小さく頷いてから彼の手を取った。
おまけ
「ただいまー」
「くーちゃんおかえり~」
自宅へ戻ると、友香里が俺を迎えた。妹はきょとんとした顔で首を傾げる。
「あれ?くーちゃんチョコは?」
「え?ああ、もらってへんで」
毎年山のようにもらってきていたせいで、極端な差に驚くのもおかしくないだろう。友香里は、ああ、と何かに納得したような声を上げると、俺の右手を指差した。
「くーちゃん、彼女できたん?」
「え?」
「それ、いかにもってやつ」
先程唯一もらったチョコレート。これは、間違えようのない本命。
「あかん!これだけは一口もやらへんからな!」
「はいはい、彼女のやもんな~」
ムキになる俺とは対照的に、友香里は意味ありげに笑ってリビングへ戻っていく。
「おかーさーん。くーちゃん彼女できてる~」
「友香里!!!!」