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ピロン、という音と共にスマホの画面が明るくなる。目覚ましのために通知音を入れていたのを解除し忘れていたようで、そのことをぼんやりと思い出しながらスマホを手に取った。どうせ友達か企業からのどうだっていいメッセージなんだろう。しかし画面を確認すると、そこには予想外の人物からのメッセージだった。忍足謙也。同じクラスの友人。そして私が密かに想いを寄せている相手。
『日曜、空いとる?』
簡素な言葉ではあるが、私には十分過ぎた。じわじわと口元が緩み、いたずらっ子のようにニシシ、と小さく笑う。すぐに既読をつけ、私はこう返した。
『花火大会?』
するとすぐに、『せや!』と元気よく肯定された。自惚れだと思われて構わない。それほど私は抱えている想いが彼とお揃いの自信があった。けれど、彼にその自信はないらしく、いじらしい態度をとり続けている。まあ全部白石君から聞いたことなのだけれど。
となると、これは絶好の機会であって。ふふふ、と不敵な笑みを浮かべてはその場に立ち上がった。目の前に白紙のノートを放ったまま部屋を飛び出し、叫んだ。
「お母さーん!浴衣出してー!」
じっとりと汗ばむ体を手で扇ぎながら待ち合わせ場所へと向かう。人混みをかき分けると、そこには同じように浴衣に身を包んだ彼が。静かに待つ彼の雰囲気がいつもと違う人に見えて胸が高鳴り、瞬間的に足が止まってしまう。
すると、彼が私の存在に気づいたようで、パッと花開いた笑顔をこちらに向ける。満開の表情につられて私は彼の元へと駆け寄った。
「浴衣、めっちゃ似合うてんで」
ほんのりと赤みを帯びた頬にそう言われ、私も同じように「かっこええよ」と素直に褒める。彼は更に顔を赤くすると、明らかに動揺していた。
「お、おおきに……!」
そんな姿が可愛らしく思えて胸の奥がきゅう、と締め付けられる。
「ほな、夜店でも見て回ろか」
「せやな。花火まで時間あるし」
時間の許す限り、かき氷やらたこ焼きやらを食べて回っていると、とあるものが目に入った。
「射的やん。久しぶりやなあ」
目を輝かせる彼。こういうのはちゃんと取れるものなのかと気になってしまう。
「へえ……やったことないわ」
そう呟くと、彼は腕を捲りながら屋台へと近づく。
「よっしゃ。なんか取ったろか」
「え、いいの?」
「お安い御用や!」
「じゃ、じゃあアレ」
指さした先には小さなうさぎのぬいぐるみ。
「よう見といてな。絶対取ったるから」
宣言した後、あまりにも真剣な表情でぬいぐるみを狙い始めた。
正直言えば何だってよかった。ただ、謙也が私のために取ってくれたものが欲しかった。その証拠が欲しかっただけ。
「ほら、取れたで!」
「ありがとう!」
取ってもらったぬいぐるみを受け取り、力いっぱい抱きしめる。余程気に入ったことが伝わったのか、
「そ、そんなんでよかったらいくらでも取ったるで!」
と、再びやろうとする彼を止めた。
「そんなたくさんは困るわ」
けらけらと笑い合い、また思い出が増えた。
「てか、ほんまに上手いんやな」
「昔、従兄弟の奴と競ったことがあってな、それで結構上達したんや」
まだ見ぬ従兄弟を想像しては、吹き出しそうになった。
謙也と似てスピード競ってるんやろうか。
「仲良しなんやね」
「仲良し……ん~なんや昔からあいつとは競ってばっかりなんやけど、まあ今も変わらへんな。俺もあいつもテニスやっとるし」
いつか会ってみたいな、と思っていると、ちょうど放送アナウンスが流れた。
「おっ、そろそろ始まるみたいやな」
人混みから少し外れた場所で、隣同士で夜空を見つめる。花火はすぐに上がり始め、皆夜空へと釘付けになっていた。
「綺麗やなあ」
夜空に浮かんでは消えるを繰り返す。
ずっとこのまま二人でいたい。そんな感情が頭の中を占める。しかし、時間が永遠にある訳では無く、花火はピークを迎えた。ヒュルヒュルと一番大きな花火が打ち上がりかけた瞬間、私は彼の名を呼んだ。
「謙也」
「ん?」
私がパクパクと口にした二文字。しかしその言葉は打ち上がった花火の音でかき消された。
「何か言うたか?」
私は否定した。何も言うてないよ、とぎこちない笑顔を添えて。謙也は少しだけ間をあけて納得したようだけれど、本当に聞こえなかったんだろうか。
わざと今言った、この気持ちはいつ伝わるんやろうか。キリリ、と痛むこの胸。憎いわ、あんたのことが。
花火が終わり、一斉に人が動き出す。私達も同じように帰路につこうとしたが、人が多く、上手く動けずにいた。人混みのせいでぶつかりそうになるのを避けていると謙也と距離があき始める。名前を呼ぼうとした刹那。伸ばした手を引っ張られ、一気に距離が縮まった。
「あっぶな……はぐれるとこやった」
心底安堵した表情を浮かべては、私の手を力強く握った。
「ちょお辛抱してな!」
そう言って彼は赤い耳のまま私を先導する。嬉しさ半分、そういう優しいところが、と鼻の奥が痛んだ。
人がかなり減ったところまで脱出すると、謙也はもう大丈夫そうやな、と手を離そうとした。この瞬間、私は思わず握る力を強くして離さまいとしていた。打ち上がる花火の音よりも大きく鳴る心臓の音。もう破裂してしまいそう。
ちらりと彼の顔を窺うと、真剣な瞳で真っ直ぐ私を射抜く。
「そんなんされたら、期待するで」
それでええ。それでええから。
私は黙ったまま、こくりと頷いた。
互いの揺れる瞳。周りの喧騒さえ耳に入らない。
「してもらわな、困る」
ふてたように言い捨てると、彼は震える手で私の頬に触れる。その手があまりにも彼らしさを表していて、泣きそうになった。
「ええんか?」
「そんなん今更や、あほ」
そう伝えて、私から謙也に抱き着いてやった。
『日曜、空いとる?』
簡素な言葉ではあるが、私には十分過ぎた。じわじわと口元が緩み、いたずらっ子のようにニシシ、と小さく笑う。すぐに既読をつけ、私はこう返した。
『花火大会?』
するとすぐに、『せや!』と元気よく肯定された。自惚れだと思われて構わない。それほど私は抱えている想いが彼とお揃いの自信があった。けれど、彼にその自信はないらしく、いじらしい態度をとり続けている。まあ全部白石君から聞いたことなのだけれど。
となると、これは絶好の機会であって。ふふふ、と不敵な笑みを浮かべてはその場に立ち上がった。目の前に白紙のノートを放ったまま部屋を飛び出し、叫んだ。
「お母さーん!浴衣出してー!」
じっとりと汗ばむ体を手で扇ぎながら待ち合わせ場所へと向かう。人混みをかき分けると、そこには同じように浴衣に身を包んだ彼が。静かに待つ彼の雰囲気がいつもと違う人に見えて胸が高鳴り、瞬間的に足が止まってしまう。
すると、彼が私の存在に気づいたようで、パッと花開いた笑顔をこちらに向ける。満開の表情につられて私は彼の元へと駆け寄った。
「浴衣、めっちゃ似合うてんで」
ほんのりと赤みを帯びた頬にそう言われ、私も同じように「かっこええよ」と素直に褒める。彼は更に顔を赤くすると、明らかに動揺していた。
「お、おおきに……!」
そんな姿が可愛らしく思えて胸の奥がきゅう、と締め付けられる。
「ほな、夜店でも見て回ろか」
「せやな。花火まで時間あるし」
時間の許す限り、かき氷やらたこ焼きやらを食べて回っていると、とあるものが目に入った。
「射的やん。久しぶりやなあ」
目を輝かせる彼。こういうのはちゃんと取れるものなのかと気になってしまう。
「へえ……やったことないわ」
そう呟くと、彼は腕を捲りながら屋台へと近づく。
「よっしゃ。なんか取ったろか」
「え、いいの?」
「お安い御用や!」
「じゃ、じゃあアレ」
指さした先には小さなうさぎのぬいぐるみ。
「よう見といてな。絶対取ったるから」
宣言した後、あまりにも真剣な表情でぬいぐるみを狙い始めた。
正直言えば何だってよかった。ただ、謙也が私のために取ってくれたものが欲しかった。その証拠が欲しかっただけ。
「ほら、取れたで!」
「ありがとう!」
取ってもらったぬいぐるみを受け取り、力いっぱい抱きしめる。余程気に入ったことが伝わったのか、
「そ、そんなんでよかったらいくらでも取ったるで!」
と、再びやろうとする彼を止めた。
「そんなたくさんは困るわ」
けらけらと笑い合い、また思い出が増えた。
「てか、ほんまに上手いんやな」
「昔、従兄弟の奴と競ったことがあってな、それで結構上達したんや」
まだ見ぬ従兄弟を想像しては、吹き出しそうになった。
謙也と似てスピード競ってるんやろうか。
「仲良しなんやね」
「仲良し……ん~なんや昔からあいつとは競ってばっかりなんやけど、まあ今も変わらへんな。俺もあいつもテニスやっとるし」
いつか会ってみたいな、と思っていると、ちょうど放送アナウンスが流れた。
「おっ、そろそろ始まるみたいやな」
人混みから少し外れた場所で、隣同士で夜空を見つめる。花火はすぐに上がり始め、皆夜空へと釘付けになっていた。
「綺麗やなあ」
夜空に浮かんでは消えるを繰り返す。
ずっとこのまま二人でいたい。そんな感情が頭の中を占める。しかし、時間が永遠にある訳では無く、花火はピークを迎えた。ヒュルヒュルと一番大きな花火が打ち上がりかけた瞬間、私は彼の名を呼んだ。
「謙也」
「ん?」
私がパクパクと口にした二文字。しかしその言葉は打ち上がった花火の音でかき消された。
「何か言うたか?」
私は否定した。何も言うてないよ、とぎこちない笑顔を添えて。謙也は少しだけ間をあけて納得したようだけれど、本当に聞こえなかったんだろうか。
わざと今言った、この気持ちはいつ伝わるんやろうか。キリリ、と痛むこの胸。憎いわ、あんたのことが。
花火が終わり、一斉に人が動き出す。私達も同じように帰路につこうとしたが、人が多く、上手く動けずにいた。人混みのせいでぶつかりそうになるのを避けていると謙也と距離があき始める。名前を呼ぼうとした刹那。伸ばした手を引っ張られ、一気に距離が縮まった。
「あっぶな……はぐれるとこやった」
心底安堵した表情を浮かべては、私の手を力強く握った。
「ちょお辛抱してな!」
そう言って彼は赤い耳のまま私を先導する。嬉しさ半分、そういう優しいところが、と鼻の奥が痛んだ。
人がかなり減ったところまで脱出すると、謙也はもう大丈夫そうやな、と手を離そうとした。この瞬間、私は思わず握る力を強くして離さまいとしていた。打ち上がる花火の音よりも大きく鳴る心臓の音。もう破裂してしまいそう。
ちらりと彼の顔を窺うと、真剣な瞳で真っ直ぐ私を射抜く。
「そんなんされたら、期待するで」
それでええ。それでええから。
私は黙ったまま、こくりと頷いた。
互いの揺れる瞳。周りの喧騒さえ耳に入らない。
「してもらわな、困る」
ふてたように言い捨てると、彼は震える手で私の頬に触れる。その手があまりにも彼らしさを表していて、泣きそうになった。
「ええんか?」
「そんなん今更や、あほ」
そう伝えて、私から謙也に抱き着いてやった。