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「二人遅いなあ」
「せやなあ」
私と白石は駅で私の友人と忍足を待っているのだが、二人の姿は一向に現れない。事故にでもあっているのだろうかと不安が過ぎるが、それはすぐに払拭される。ピロン、とお互いのスマホが鳴り、画面を確認すると今日行けない旨のメッセージが。どうやら白石もそうだったらしく、今日は二人きり、ということになる。
それを言わずとも察した私達は思わず無言になってしまい、どう会話を切り出そうか迷ってしまう。
うろうろと視線を彷徨わせた後、痺れを先に切らしたのは白石の方だった。
「えっと……俺と、二人でもええんやったら、このまま行かへん?」
気まずそうなのは確かだ。私から切り出してもそうなっていただろう。
「うん、ええよ。行こう」
むしろ彼は私と二人でいいのだろうか。そちらの方が気になって仕方がなかった。
「ほな、行こか」
「せやね」
動き出す瞬間、私は彼にバレないように友人に「嘘つき」とだけメッセージを送り、すぐに画面を暗くした。
元々四人でひまわり畑に行く約束だった。計画を精力的に練っていたのは来なくなったあの二人。普段からひまわり、というより植物が好きそうな感じは一つも見当たらない。私と白石の方がそういうのに興味があるのに。だからこそ、そこでおかしいと気づくべきだったんだ。今となっては、この状況を悲しく思えばいいいのか、喜べばいいのか。
いらないことを考えていると、あっという間に目的地に到着していた。電車から降り、ひまわり畑へと向かう道中、白石から心配の声がかかる。
「大丈夫か?しんどない?」
「大丈夫。そんなか弱ないよ」
「しんどかったら言うてや?」
「うん、ありがとうね」
電車内で口数が少なかったせいだろうか。もう少し話せばよかった。
植物園に入園し、二人でゆっくりと他の植物を眺めていく。ひまわり畑は最深部にあるということで、楽しみが増長される。途中の他の植物に対しても白石の豊富な知識でより楽しめていた。
そして、待ちに待った一番咲き誇る場所へ到着すると、二人同時に感嘆の声が溢れた。
「すっご~い……」
「絶景やな……」
想像よりも素晴らしい黄色に圧倒されながら、すぐにひまわりへと駆け寄った。
「綺麗やなあ」
大きく上を向くひまわり達。素直に太陽へと向かっていくひまわりが少し羨ましく感じられた。
後から同じように駆け寄ってきた白石は私を見てくすくすと笑っており、どことなく恥じらいを覚える。
「自分、めっちゃはしゃいでるやん」
咄嗟にごめん、と謝罪を口にするが、彼は首を横に振っていた。
「謝らんでええよ。普段そんなとこ見んから新鮮やなって」
その新鮮というのは、良い意味か、悪い意味か。どちらか判断できず、心臓が騒ぎ始める。
「そういう風に言われると、めっちゃ恥ずかしいわ」
「はは、ええやん。かわええと思うで」
もう心臓鷲掴みやわ。心臓痛い。
こうしてさらりと言ってのけてしまうから、誰にでも言っているんじゃないかと嫌な考えが過ぎる。
「……ずるいなあ」
言うなら私にだけがええなあ。他の誰にも言わんといてほしい。
淡い期待をしつつ、微笑んで誤魔化す。
「なんか言うた?」
「何もないよ。もっと奥行こうや」
白石よりも先に歩き、目尻の輝きを知られないように指で拭った。
はしゃぎ疲れた私達は近くのカフェで休憩をしていた。二人で写真を撮り、思い出を振り返っていた。
しかし時間はあっという間に過ぎ、日も暮れ始めたため、そろそろ帰ろうかと駅に向かっていたところで私は足を止めた。
「白石、」
名を呼ぶと彼も足を止め、こちらに目を向ける。
「今日私と二人で大丈夫やった?」
そう尋ねると、一瞬だけぽかんとした表情をしたが、すぐに笑顔に戻った。
「楽しかったで?」
その笑顔に偽りはないのだろう。少なくとも私にはそう見えた。
「……よかった」
ほっと胸を撫で下ろした。すると、白石も気になっていたのか、ああ、と同じことを口にする。
「それ言うなら俺の方や。楽しかった?」
「うん……すっごい楽しかった」
精一杯の笑顔で答えを返した。少しでも想いが伝わればええな、と願いを込めて。
再び歩き出そうとした瞬間、立ち止まったまま白石が口を開く。
「なあ、一つ聞いてもええか」
「ん、ええよ」
承諾すると、白石の顔つきが変わった。それまで柔らかかった表情はどこへやら。真剣な眼差しで私を見つめて離さない。
「今日あの二人が来れへんかった……いや、来うへんかった理由わかるか?」
彼の質問に対し、目を逸らし黙り込む。この聞き方だと、彼も分かっていたのだろう。あの二人が来ない理由を。
これはもう言うてええってことなんかな。そう、信じてええんかな。
私は覚悟を決め、ぼそりと独り言のように白石に告げた。
「あんなことせんでも……二人でも、私は絶対に今日来た」
あの二人が来ない理由は送ってきたメッセージに書かれていた。
頑張ってな、という文字列で体が暑くなったのは記憶に新しい。
「それ、は、」
口元を隠しながら顔を赤くする彼。私は逃さないと言うように腕を掴み、彼の瞳を見つめた。
「私の口から……全部言わな、あかん?」
そう言って首を傾げると、彼の腕の中に閉じ込められた。彼の熱を感じると共に、私の瞳からは一筋の雫が落ちていった。
「せやなあ」
私と白石は駅で私の友人と忍足を待っているのだが、二人の姿は一向に現れない。事故にでもあっているのだろうかと不安が過ぎるが、それはすぐに払拭される。ピロン、とお互いのスマホが鳴り、画面を確認すると今日行けない旨のメッセージが。どうやら白石もそうだったらしく、今日は二人きり、ということになる。
それを言わずとも察した私達は思わず無言になってしまい、どう会話を切り出そうか迷ってしまう。
うろうろと視線を彷徨わせた後、痺れを先に切らしたのは白石の方だった。
「えっと……俺と、二人でもええんやったら、このまま行かへん?」
気まずそうなのは確かだ。私から切り出してもそうなっていただろう。
「うん、ええよ。行こう」
むしろ彼は私と二人でいいのだろうか。そちらの方が気になって仕方がなかった。
「ほな、行こか」
「せやね」
動き出す瞬間、私は彼にバレないように友人に「嘘つき」とだけメッセージを送り、すぐに画面を暗くした。
元々四人でひまわり畑に行く約束だった。計画を精力的に練っていたのは来なくなったあの二人。普段からひまわり、というより植物が好きそうな感じは一つも見当たらない。私と白石の方がそういうのに興味があるのに。だからこそ、そこでおかしいと気づくべきだったんだ。今となっては、この状況を悲しく思えばいいいのか、喜べばいいのか。
いらないことを考えていると、あっという間に目的地に到着していた。電車から降り、ひまわり畑へと向かう道中、白石から心配の声がかかる。
「大丈夫か?しんどない?」
「大丈夫。そんなか弱ないよ」
「しんどかったら言うてや?」
「うん、ありがとうね」
電車内で口数が少なかったせいだろうか。もう少し話せばよかった。
植物園に入園し、二人でゆっくりと他の植物を眺めていく。ひまわり畑は最深部にあるということで、楽しみが増長される。途中の他の植物に対しても白石の豊富な知識でより楽しめていた。
そして、待ちに待った一番咲き誇る場所へ到着すると、二人同時に感嘆の声が溢れた。
「すっご~い……」
「絶景やな……」
想像よりも素晴らしい黄色に圧倒されながら、すぐにひまわりへと駆け寄った。
「綺麗やなあ」
大きく上を向くひまわり達。素直に太陽へと向かっていくひまわりが少し羨ましく感じられた。
後から同じように駆け寄ってきた白石は私を見てくすくすと笑っており、どことなく恥じらいを覚える。
「自分、めっちゃはしゃいでるやん」
咄嗟にごめん、と謝罪を口にするが、彼は首を横に振っていた。
「謝らんでええよ。普段そんなとこ見んから新鮮やなって」
その新鮮というのは、良い意味か、悪い意味か。どちらか判断できず、心臓が騒ぎ始める。
「そういう風に言われると、めっちゃ恥ずかしいわ」
「はは、ええやん。かわええと思うで」
もう心臓鷲掴みやわ。心臓痛い。
こうしてさらりと言ってのけてしまうから、誰にでも言っているんじゃないかと嫌な考えが過ぎる。
「……ずるいなあ」
言うなら私にだけがええなあ。他の誰にも言わんといてほしい。
淡い期待をしつつ、微笑んで誤魔化す。
「なんか言うた?」
「何もないよ。もっと奥行こうや」
白石よりも先に歩き、目尻の輝きを知られないように指で拭った。
はしゃぎ疲れた私達は近くのカフェで休憩をしていた。二人で写真を撮り、思い出を振り返っていた。
しかし時間はあっという間に過ぎ、日も暮れ始めたため、そろそろ帰ろうかと駅に向かっていたところで私は足を止めた。
「白石、」
名を呼ぶと彼も足を止め、こちらに目を向ける。
「今日私と二人で大丈夫やった?」
そう尋ねると、一瞬だけぽかんとした表情をしたが、すぐに笑顔に戻った。
「楽しかったで?」
その笑顔に偽りはないのだろう。少なくとも私にはそう見えた。
「……よかった」
ほっと胸を撫で下ろした。すると、白石も気になっていたのか、ああ、と同じことを口にする。
「それ言うなら俺の方や。楽しかった?」
「うん……すっごい楽しかった」
精一杯の笑顔で答えを返した。少しでも想いが伝わればええな、と願いを込めて。
再び歩き出そうとした瞬間、立ち止まったまま白石が口を開く。
「なあ、一つ聞いてもええか」
「ん、ええよ」
承諾すると、白石の顔つきが変わった。それまで柔らかかった表情はどこへやら。真剣な眼差しで私を見つめて離さない。
「今日あの二人が来れへんかった……いや、来うへんかった理由わかるか?」
彼の質問に対し、目を逸らし黙り込む。この聞き方だと、彼も分かっていたのだろう。あの二人が来ない理由を。
これはもう言うてええってことなんかな。そう、信じてええんかな。
私は覚悟を決め、ぼそりと独り言のように白石に告げた。
「あんなことせんでも……二人でも、私は絶対に今日来た」
あの二人が来ない理由は送ってきたメッセージに書かれていた。
頑張ってな、という文字列で体が暑くなったのは記憶に新しい。
「それ、は、」
口元を隠しながら顔を赤くする彼。私は逃さないと言うように腕を掴み、彼の瞳を見つめた。
「私の口から……全部言わな、あかん?」
そう言って首を傾げると、彼の腕の中に閉じ込められた。彼の熱を感じると共に、私の瞳からは一筋の雫が落ちていった。
