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「はあ……」
夏休みに突入し、勉強や部活、友人と過ごしたりと楽しい日々を過ごしていたはずだった。現在、私は自室でクーラーを効かせまくり、人によっては寒い程の空間でベッドに寝転んでいる。スマホの画面を点け、時計を確認すると二十一時前。そろそろお風呂に入りなさい、と声が飛んでくるに違いない。
「はあ〜……」
先程より大袈裟な溜息。充実しているはずの私がなぜこうして鬱屈しているのかと言えば、理由は簡単。それは恋人である仁王が影響している。
つい最近まで彼は全国大会に出場しており、それまで恋人らしいことなどしていなかった。出来ていたとすれば、時たま一緒に学校から帰るぐらい。友達に「いくらなんでもそれはちょっと……」と言われることが何度かあったが、私はそれでよかった。テニスをする彼に夢中だったから。元々飄々としていて掴めない彼が本気でテニスをしている姿に心を奪われたのが最初だった。それから何とかして彼女という立ち位置を手に入れた。付き合う前にちゃんと彼から忠告も受けた。デートなんかできたもんじゃないって。それも込みで私は付き合って欲しいと願った。もちろんこの間の全国大会だって見に行った。血の滲むような努力をしていた彼の負ける姿を見るのは苦しかった。それでも私は彼の必死に勝利に向かう姿に再び心を奪われていた。所謂、惚れ直したってやつ。
もうすぐ夏休みも終わる。彼は忙しいだろうし、遊ぼうと声をかける勇気もない。「もう少し我儘言えばいいじゃん」という友人の声が脳内で響くが、首を左右に振ってかき消した。一緒にイベント事を過ごせなくても、テニスをする彼をベストポジションで見られることが嬉しい。ただそれだけ。それだけだったはずなのに欲深くなったものだな。自分に嫌気がさし、じわりと視界が歪む。
さっさとお風呂に入って寝てしまおうと体を起こした瞬間、スマホの画面に彼の名が映った。一瞬時が止まるも、慌ててスマホを手に取り、画面をスワイプする。耳に届くは求めていた彼の声。こうして鼓膜を震わせるのはいつぶりか。
「久しぶりじゃの」
「う、ん」
何を言おう。どうして電話をかけてきてくれたのだろう。仁王も少しは寂しくしてくれたのかな。
嬉しさが込み上げて何から伝えればいいのかわからなくて、喉元で言葉が渋滞して苦しい。そんな状態の私を知ってか知らずか、彼は優しくこう言った。
「今から出てこれんか」
「……今から?」
時計は二十一時を過ぎた頃。
「ほうじゃ」
なんでこんな時間に?と疑問が浮上するが、彼に催促され、慌てて家を飛び出した。
「……嘘」
すると目の前に飛び込んできたのは、紛れもない通話中の相手。
覚束無い足取りでゆっくりと彼に近づくと、彼は満足そうに微笑んだ。
「驚いたかの?」
こくこくと頭を上下に揺らせば、彼はクツクツと笑った。未だに状況が飲み込めない私は彼に詰め寄り、子供のようにどうして、どうしてと尋ねた。わざわざ遅くに来るなんて。
「お前さんなら、暇じゃろ思うてな」
「……降りてこなきゃよかった」
ぷく、とわざとらしく頬を膨らませてやれば、彼は口角を上げたまま私の頬をつつく。
「まあまあ、そうふてなさんな」
怒ったふりも会えた嬉しさで早々にかき消され、だらしない口元を必死で隠した。それでも彼にはお見通しなんだろうけれど。
すると仁王は私の前にとあるものを差し出した。
「ほれ」
「……花火?」
彼が持っていた青いポリバケツの中には花火のセット。それを見た瞬間に、視界が滲んだ。ありがとうと素直に言えなくて顔をあげられず、鼻をすすると彼は頭を優しく撫でる。
ごめんね。私、自分のことしか考えてなかった。
「泣きなさんな」
「だって……」
口を開けば、ぽろぽろと大きな粒が瞳から溢れた。それは一度出てしまえば止まることを知らない。しゃくりあげる私を抱きしめる彼の手は温かくて優しくて。ずっと計画してくれてたのかな。
「すまんの。こんなことしかできん彼氏で」
耳元で囁かれた声の甘さに精一杯の想いを搾る。
「嬉しい……ありがとう、」
「ええよ。お前さんが笑うてくれたら」
軽く額に唇が落とされ、瞳が合えばどちらからともなく笑いあった。
そのままするりと手を取られ、小さな公園へと移動した。二人だけの空間で儚く散っていく火花を見つめ、静かに時を過ごす。
「すごい、綺麗」
今まで経験したどの線香花火より綺麗に受け取れた。それは紛れもない彼のおかげ。
「楽しいか?」
「うん。今までで一番」
自分のできる最高の笑顔で答えれば、仁王は声を出して笑った。そして、緩やかに弧を描いたまま、ほうか、と呟いた。
夏休みに突入し、勉強や部活、友人と過ごしたりと楽しい日々を過ごしていたはずだった。現在、私は自室でクーラーを効かせまくり、人によっては寒い程の空間でベッドに寝転んでいる。スマホの画面を点け、時計を確認すると二十一時前。そろそろお風呂に入りなさい、と声が飛んでくるに違いない。
「はあ〜……」
先程より大袈裟な溜息。充実しているはずの私がなぜこうして鬱屈しているのかと言えば、理由は簡単。それは恋人である仁王が影響している。
つい最近まで彼は全国大会に出場しており、それまで恋人らしいことなどしていなかった。出来ていたとすれば、時たま一緒に学校から帰るぐらい。友達に「いくらなんでもそれはちょっと……」と言われることが何度かあったが、私はそれでよかった。テニスをする彼に夢中だったから。元々飄々としていて掴めない彼が本気でテニスをしている姿に心を奪われたのが最初だった。それから何とかして彼女という立ち位置を手に入れた。付き合う前にちゃんと彼から忠告も受けた。デートなんかできたもんじゃないって。それも込みで私は付き合って欲しいと願った。もちろんこの間の全国大会だって見に行った。血の滲むような努力をしていた彼の負ける姿を見るのは苦しかった。それでも私は彼の必死に勝利に向かう姿に再び心を奪われていた。所謂、惚れ直したってやつ。
もうすぐ夏休みも終わる。彼は忙しいだろうし、遊ぼうと声をかける勇気もない。「もう少し我儘言えばいいじゃん」という友人の声が脳内で響くが、首を左右に振ってかき消した。一緒にイベント事を過ごせなくても、テニスをする彼をベストポジションで見られることが嬉しい。ただそれだけ。それだけだったはずなのに欲深くなったものだな。自分に嫌気がさし、じわりと視界が歪む。
さっさとお風呂に入って寝てしまおうと体を起こした瞬間、スマホの画面に彼の名が映った。一瞬時が止まるも、慌ててスマホを手に取り、画面をスワイプする。耳に届くは求めていた彼の声。こうして鼓膜を震わせるのはいつぶりか。
「久しぶりじゃの」
「う、ん」
何を言おう。どうして電話をかけてきてくれたのだろう。仁王も少しは寂しくしてくれたのかな。
嬉しさが込み上げて何から伝えればいいのかわからなくて、喉元で言葉が渋滞して苦しい。そんな状態の私を知ってか知らずか、彼は優しくこう言った。
「今から出てこれんか」
「……今から?」
時計は二十一時を過ぎた頃。
「ほうじゃ」
なんでこんな時間に?と疑問が浮上するが、彼に催促され、慌てて家を飛び出した。
「……嘘」
すると目の前に飛び込んできたのは、紛れもない通話中の相手。
覚束無い足取りでゆっくりと彼に近づくと、彼は満足そうに微笑んだ。
「驚いたかの?」
こくこくと頭を上下に揺らせば、彼はクツクツと笑った。未だに状況が飲み込めない私は彼に詰め寄り、子供のようにどうして、どうしてと尋ねた。わざわざ遅くに来るなんて。
「お前さんなら、暇じゃろ思うてな」
「……降りてこなきゃよかった」
ぷく、とわざとらしく頬を膨らませてやれば、彼は口角を上げたまま私の頬をつつく。
「まあまあ、そうふてなさんな」
怒ったふりも会えた嬉しさで早々にかき消され、だらしない口元を必死で隠した。それでも彼にはお見通しなんだろうけれど。
すると仁王は私の前にとあるものを差し出した。
「ほれ」
「……花火?」
彼が持っていた青いポリバケツの中には花火のセット。それを見た瞬間に、視界が滲んだ。ありがとうと素直に言えなくて顔をあげられず、鼻をすすると彼は頭を優しく撫でる。
ごめんね。私、自分のことしか考えてなかった。
「泣きなさんな」
「だって……」
口を開けば、ぽろぽろと大きな粒が瞳から溢れた。それは一度出てしまえば止まることを知らない。しゃくりあげる私を抱きしめる彼の手は温かくて優しくて。ずっと計画してくれてたのかな。
「すまんの。こんなことしかできん彼氏で」
耳元で囁かれた声の甘さに精一杯の想いを搾る。
「嬉しい……ありがとう、」
「ええよ。お前さんが笑うてくれたら」
軽く額に唇が落とされ、瞳が合えばどちらからともなく笑いあった。
そのままするりと手を取られ、小さな公園へと移動した。二人だけの空間で儚く散っていく火花を見つめ、静かに時を過ごす。
「すごい、綺麗」
今まで経験したどの線香花火より綺麗に受け取れた。それは紛れもない彼のおかげ。
「楽しいか?」
「うん。今までで一番」
自分のできる最高の笑顔で答えれば、仁王は声を出して笑った。そして、緩やかに弧を描いたまま、ほうか、と呟いた。