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週に何度か、私には訪れるべき場所がある。日が不定期であることには理由がちゃんとあり、その理由を知る人は誰もいない。ただ言えないだけ、という風にも取れるけれど。そうして自分だけの秘密を抱えて今日もあの場所へと向かうのだ。
私はいつも通り放課後になると、友達に適当に理由をつけて教室から飛び出し、部活へ向かう人々とすれ違う。足の裏から上へ上へとこそばゆさが伝わってきて、頬が緩んで口角が勝手に上がった。
今日もちゃんといるはずだ。
ふう、と一呼吸置いてから扉を開けると、ちょうどとある人と出会した。その名は財前光。
「……最近よう来るな」
「私だって本ぐらい読むわ」
「涼みに来ただけやと思うとった」
「……そうとも言う」
「ほらな」
くすりと笑う彼。そんな表情に私は小さく胸を高鳴らせる。
噂で財前はあまり印象が良くないタイプだと聞くけれど、嫌に思うことはない。女子に対しても優しくないというけれど、言い方が下手くそなだけで優しい人だと私は思う。
財前とは一年生の頃に仲良くなって軽口を叩く間柄になった。二年ではクラスが離れたせいで話す機会が減ってしまったが、図書室に行くと財前が委員で当番していると、少しでも話せるからそれだけを楽しみに図書室へと足を運んでいた。財前目当てだと知られないように、いない日も時々行くようにしている。気づく人はいないだろうけれど。
それはさておき、彼がいると、読んでいる本も頭に入ってこなくて読んでいるフリをすることもある。チラチラと様子を気にしては、目が合いそうになるとただの文字列とにらめっこをする。それの繰り返し。そして、可愛い子が本を借りに彼の元に行くのを見る度、不安を覚える自分もいて、その図々しさに悲しくなる。それでも私の足が止まることは無い。
最近は暑いからという理由を容易につけられるから困らなくて済んでいる。暑いのは嫌いだけれど、こういうときは嬉しく思ってしまう。
さて今日は何を読もうかな、と本棚へ向かった。本の背を見つつも、実際ちゃんと見ているのは財前の姿。
あ、可愛ええ子が本借りに行った。
ただ手続きをしているだけなのに、可愛い子と財前が並ぶと切なさで顔が歪み、本を取ろうとしていた手が止まる。何かあるわけじゃないのに、あの子も私と同じ気持ちを抱えていたらどうしようと不安に襲われる。行動すればいいのに出来なくて、そんな自分に嫌気が差す。はあ、と溜息を吐くと、背後から私に声がかかる。
「斎藤君?」
「よっす」
相手は同じクラスの斎藤君。二年から同じクラスになり、よく話しかけてくれる爽やかな人。いつも笑顔が素敵で、気さくなところに女子からの人気が高い。
「今、時間ある?」
「うん、ええけど……」
後ろ髪を引かれる思いでゆっくりと体を斎藤君の方へと向ける。彼は突然なんやけど、と前置きをしてからこう言った。
「今度の日曜、空いとる?」
予想外の言葉に目をぱちくりとさせる。
「どないしたん?急に」
「どっか遊びに行けへんかなって」
爽やかな笑顔からのお誘い。頭の片隅では、どうして私を?と疑問が浮上するが、特に気にも留めなかった。
「日曜……」
何か予定あったっけ、と頭の中のスケジュール帳を確認しようとした瞬間、
「間、失礼しまーす」
私達の間に乱入してきたのは他でもない財前。積み重ねられた本を抱えている。
「おわ、財前!」
突然の財前の登場に目を丸くさせていると、彼はこちらを見ることなく、斎藤君に言い放った。
「なんや、お前か。仕事の邪魔なんやけど」
すまんすまん、と軽くその場から私を連れてよける斎藤君。財前は素知らぬ顔で本を棚に戻している。
というより、手続き終わらすん、早ない?
「それで日曜なんやけど……」
話を元に戻そうとする斎藤君だが、再び間に割って入ってきたのは他でもない財前。
「こいつ日曜予定あるで」
「は?」
さすがに斎藤君の顔からも笑顔が消えた。財前は表情一つ変えずに棚に本を全て戻し終えると、ようやくこちらに顔を向ける。
「俺が先約」
そう言って私の顔に近づき、頭をぽん、と優しく撫でる。
え、私、今、財前に何されとんの?
「あー……そっかそっか、」
何かを察した斎藤君は自分自身を納得させるように引きつった笑みを浮かべてその場から去っていった。
斎藤君がいなくなり、やっと現状を理解した私の体はじわじわと蒸されていく。
「初耳なんやけど」
平静を装いつつ、問い詰めるが、財前の表情はいつになくクールだ。
「今初めて言うた」
けろっと言ってのける財前がひどくずるく感じる。それでも結論を出す前に喜んでいる自分が隠しきれなくて笑いが零れてしまう。
「勝手やなあ」
「嫌なら言えばよかったやろ」
意地悪に口角を上げ、だれた手に財前の手の甲が擦りつけられる。
こいつ、わかってんねん。私が図書室に来る理由も抱える気持ちも。全部初めからわかって。
「……涼みにきたはずなのに暑そうやな」
「誰のせいやと……!」
声を張り上げそうになるが、すぐに財前の低音に遮られる。
「図書館では静かにせなあかんやろ」
耳元で囁かれ、身体が震える。
「……あほ」
攻撃にならない暴言は無駄撃ちとなるだけ。私はその程度の攻撃力しか持ち得てない。
「どうすんの、日曜」
「かき氷食べに行きたい」
「しゃーないから部活終わりに付き合ったるわ」
口角が上がりっぱなしの財前が珍しくて、くすくすと小さく笑った。
「手、出し」
言われるがまま、手を差し出すと、簡単に握られる。
「帰るで」
私の手を攫って行く彼の手は、私の手よりも熱くて。今すぐにでも溶けてしまいそう。
私はいつも通り放課後になると、友達に適当に理由をつけて教室から飛び出し、部活へ向かう人々とすれ違う。足の裏から上へ上へとこそばゆさが伝わってきて、頬が緩んで口角が勝手に上がった。
今日もちゃんといるはずだ。
ふう、と一呼吸置いてから扉を開けると、ちょうどとある人と出会した。その名は財前光。
「……最近よう来るな」
「私だって本ぐらい読むわ」
「涼みに来ただけやと思うとった」
「……そうとも言う」
「ほらな」
くすりと笑う彼。そんな表情に私は小さく胸を高鳴らせる。
噂で財前はあまり印象が良くないタイプだと聞くけれど、嫌に思うことはない。女子に対しても優しくないというけれど、言い方が下手くそなだけで優しい人だと私は思う。
財前とは一年生の頃に仲良くなって軽口を叩く間柄になった。二年ではクラスが離れたせいで話す機会が減ってしまったが、図書室に行くと財前が委員で当番していると、少しでも話せるからそれだけを楽しみに図書室へと足を運んでいた。財前目当てだと知られないように、いない日も時々行くようにしている。気づく人はいないだろうけれど。
それはさておき、彼がいると、読んでいる本も頭に入ってこなくて読んでいるフリをすることもある。チラチラと様子を気にしては、目が合いそうになるとただの文字列とにらめっこをする。それの繰り返し。そして、可愛い子が本を借りに彼の元に行くのを見る度、不安を覚える自分もいて、その図々しさに悲しくなる。それでも私の足が止まることは無い。
最近は暑いからという理由を容易につけられるから困らなくて済んでいる。暑いのは嫌いだけれど、こういうときは嬉しく思ってしまう。
さて今日は何を読もうかな、と本棚へ向かった。本の背を見つつも、実際ちゃんと見ているのは財前の姿。
あ、可愛ええ子が本借りに行った。
ただ手続きをしているだけなのに、可愛い子と財前が並ぶと切なさで顔が歪み、本を取ろうとしていた手が止まる。何かあるわけじゃないのに、あの子も私と同じ気持ちを抱えていたらどうしようと不安に襲われる。行動すればいいのに出来なくて、そんな自分に嫌気が差す。はあ、と溜息を吐くと、背後から私に声がかかる。
「斎藤君?」
「よっす」
相手は同じクラスの斎藤君。二年から同じクラスになり、よく話しかけてくれる爽やかな人。いつも笑顔が素敵で、気さくなところに女子からの人気が高い。
「今、時間ある?」
「うん、ええけど……」
後ろ髪を引かれる思いでゆっくりと体を斎藤君の方へと向ける。彼は突然なんやけど、と前置きをしてからこう言った。
「今度の日曜、空いとる?」
予想外の言葉に目をぱちくりとさせる。
「どないしたん?急に」
「どっか遊びに行けへんかなって」
爽やかな笑顔からのお誘い。頭の片隅では、どうして私を?と疑問が浮上するが、特に気にも留めなかった。
「日曜……」
何か予定あったっけ、と頭の中のスケジュール帳を確認しようとした瞬間、
「間、失礼しまーす」
私達の間に乱入してきたのは他でもない財前。積み重ねられた本を抱えている。
「おわ、財前!」
突然の財前の登場に目を丸くさせていると、彼はこちらを見ることなく、斎藤君に言い放った。
「なんや、お前か。仕事の邪魔なんやけど」
すまんすまん、と軽くその場から私を連れてよける斎藤君。財前は素知らぬ顔で本を棚に戻している。
というより、手続き終わらすん、早ない?
「それで日曜なんやけど……」
話を元に戻そうとする斎藤君だが、再び間に割って入ってきたのは他でもない財前。
「こいつ日曜予定あるで」
「は?」
さすがに斎藤君の顔からも笑顔が消えた。財前は表情一つ変えずに棚に本を全て戻し終えると、ようやくこちらに顔を向ける。
「俺が先約」
そう言って私の顔に近づき、頭をぽん、と優しく撫でる。
え、私、今、財前に何されとんの?
「あー……そっかそっか、」
何かを察した斎藤君は自分自身を納得させるように引きつった笑みを浮かべてその場から去っていった。
斎藤君がいなくなり、やっと現状を理解した私の体はじわじわと蒸されていく。
「初耳なんやけど」
平静を装いつつ、問い詰めるが、財前の表情はいつになくクールだ。
「今初めて言うた」
けろっと言ってのける財前がひどくずるく感じる。それでも結論を出す前に喜んでいる自分が隠しきれなくて笑いが零れてしまう。
「勝手やなあ」
「嫌なら言えばよかったやろ」
意地悪に口角を上げ、だれた手に財前の手の甲が擦りつけられる。
こいつ、わかってんねん。私が図書室に来る理由も抱える気持ちも。全部初めからわかって。
「……涼みにきたはずなのに暑そうやな」
「誰のせいやと……!」
声を張り上げそうになるが、すぐに財前の低音に遮られる。
「図書館では静かにせなあかんやろ」
耳元で囁かれ、身体が震える。
「……あほ」
攻撃にならない暴言は無駄撃ちとなるだけ。私はその程度の攻撃力しか持ち得てない。
「どうすんの、日曜」
「かき氷食べに行きたい」
「しゃーないから部活終わりに付き合ったるわ」
口角が上がりっぱなしの財前が珍しくて、くすくすと小さく笑った。
「手、出し」
言われるがまま、手を差し出すと、簡単に握られる。
「帰るで」
私の手を攫って行く彼の手は、私の手よりも熱くて。今すぐにでも溶けてしまいそう。