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カラン。汗をかいた透明のグラスの中で氷が踊る。それが合図かのように、冷えた室内に叫び声が響いた。
「だぁ~!終わんねえ!」
叫びながら机に突っ伏すのは幼馴染の切原赤也。ノートやらワークやらを広げてはいるが、綺麗な白があるばかり。当人の唇は尖り、シャーペンをくるくると指先で弄んでいる。そんな姿に私の口角は下がり、一度肩が上下に大きく動く。手にしていたシャーペンを目の前の黒い森に突っ込んでやるも、起き上がってくる様子はない。
「部活でやってなかったんだから仕方ないじゃん」
同じ机で向かい合いながら指摘すると、赤也は上半身を起こして頭を乱雑に掻いた。
「量がおかしいって!」
やり始めたと思ったらすぐに文句が零れだす。テニスでの集中力はどこにいったのかと呆れてしまうほどだ。
つい先日全国大会が終わったところで中々頭を切り替えることが出来ないのだろう。そうはいっても学生であるのだから本分である勉強、いや宿題はこなさないといけない。
「でも先輩達はそれでも終わらしてるんでしょ?」
「あいつらバケモンだから比較されちゃ困る」
同じ人間でしょうと思いつつ、溜息が再び吐き出される。その度に深いものになっていくのを感じる。
「そんな感じで来年大丈夫なの?」
「うっせー!」
百面相をしながらもページが捲られていくことはない。手伝っている私の方がさくさくと終わらせていく。誰のための宿題なんだか。
なぜこうなったかと言えば、溜まりにたまった宿題の消化を突然私の家に来て頭を下げてきたせい。先輩に頼めないからと私に泣きついてきたのは数時間前のこと。同じ問題を解かされる私の身にもなってほしい。
文句をお互いに言いつつ、気づけば外に映る空は赤く染まり始めていた。
「も~……帰っていい?」
英文とにらめっこしていた私も飽きがきてしまっており、投げ出す一歩手前だ。
「俺を見捨てんのかよ!」
「見捨てるも何もさあ……」
はあ、と大きな溜息がとまらない。私もどうしてこんな奴の手伝いをしているんだろうか。答えは明白。結局、私の中にこいつに対する弱みがあるから。
ずっと、こんな感じのままなのかな。どうせ一緒に過ごすんだったらもっとどこかに遊びに行きたかったな。お祭りとかプールとか。昔は一緒に過ごせてたのにな。
そんなことを考えていたせいか、鼻の奥の痛みを覚え、強く瞬きを繰り返す。
何考えてんだろう。叶わない、どうせ叶わないことなのに。
多分このとき私は疲れていたんだろうと思う。もう一つ理由を加えるとすれば、奴は断るだろうと高を括っていたから。私はだらしなくへらへらと笑いながら赤也の前に指を一本だけ立てた。
「ねえ、一個提案」
「んだよ」
「今日中に終わんなかったらちゅーしちゃおっかな~」
ふざけたつもりだった。どうせ「ぜってーヤダ!」とか言いながら宿題に取り組むんだろうと思っていた。しかし予想とは良くも悪くも裏切られるもので。
「……は?」
赤也は間抜けな顔で目をぱちくりとさせている。もしかして奴はここまで馬鹿だったのか、と思いつつ出方を窺っていると、彼の顔はじわじわと熱を帯びていった。部屋はクーラーでよく冷えているのに。早くバカじゃねえの、と罵ってほしい。そんな態度出されたら、と私の喉は大きく動く。すると、赤也は言いづらそうに小さく口を動かした。それは二人きりだから聞き取れた大きさ。
「お前それ、余計にやる気出ねえんだけど」
「……は?」
今度は私の方が間抜けな顔を晒してしまった。雛鳥のように口をぱくぱくとさせながら、顔に熱が集う。
「そ、それって、」
「まあ、多分……俺とお前が考えてることおんなじ」
照れ臭そうに頬をぽりぽりとかいて、覗き込むようにちらりとこちらに目をやる。
そんなの、答え出されてるようなものじゃん。
込み上げる思いを抑えるために鼻をすすり、その場で座り直す。
「じゃあ俺が今日中に宿題終わらせたら、ちゃんと言うから」
赤也はそう言うと、シャーペンを握っている私の手の上に手を重ね、軽く握った。
「早く終わらせてよ……」
「任せろ!」
彼の笑顔に乗せられて私もシャーペンを走らすのだった。
「だぁ~!終わんねえ!」
叫びながら机に突っ伏すのは幼馴染の切原赤也。ノートやらワークやらを広げてはいるが、綺麗な白があるばかり。当人の唇は尖り、シャーペンをくるくると指先で弄んでいる。そんな姿に私の口角は下がり、一度肩が上下に大きく動く。手にしていたシャーペンを目の前の黒い森に突っ込んでやるも、起き上がってくる様子はない。
「部活でやってなかったんだから仕方ないじゃん」
同じ机で向かい合いながら指摘すると、赤也は上半身を起こして頭を乱雑に掻いた。
「量がおかしいって!」
やり始めたと思ったらすぐに文句が零れだす。テニスでの集中力はどこにいったのかと呆れてしまうほどだ。
つい先日全国大会が終わったところで中々頭を切り替えることが出来ないのだろう。そうはいっても学生であるのだから本分である勉強、いや宿題はこなさないといけない。
「でも先輩達はそれでも終わらしてるんでしょ?」
「あいつらバケモンだから比較されちゃ困る」
同じ人間でしょうと思いつつ、溜息が再び吐き出される。その度に深いものになっていくのを感じる。
「そんな感じで来年大丈夫なの?」
「うっせー!」
百面相をしながらもページが捲られていくことはない。手伝っている私の方がさくさくと終わらせていく。誰のための宿題なんだか。
なぜこうなったかと言えば、溜まりにたまった宿題の消化を突然私の家に来て頭を下げてきたせい。先輩に頼めないからと私に泣きついてきたのは数時間前のこと。同じ問題を解かされる私の身にもなってほしい。
文句をお互いに言いつつ、気づけば外に映る空は赤く染まり始めていた。
「も~……帰っていい?」
英文とにらめっこしていた私も飽きがきてしまっており、投げ出す一歩手前だ。
「俺を見捨てんのかよ!」
「見捨てるも何もさあ……」
はあ、と大きな溜息がとまらない。私もどうしてこんな奴の手伝いをしているんだろうか。答えは明白。結局、私の中にこいつに対する弱みがあるから。
ずっと、こんな感じのままなのかな。どうせ一緒に過ごすんだったらもっとどこかに遊びに行きたかったな。お祭りとかプールとか。昔は一緒に過ごせてたのにな。
そんなことを考えていたせいか、鼻の奥の痛みを覚え、強く瞬きを繰り返す。
何考えてんだろう。叶わない、どうせ叶わないことなのに。
多分このとき私は疲れていたんだろうと思う。もう一つ理由を加えるとすれば、奴は断るだろうと高を括っていたから。私はだらしなくへらへらと笑いながら赤也の前に指を一本だけ立てた。
「ねえ、一個提案」
「んだよ」
「今日中に終わんなかったらちゅーしちゃおっかな~」
ふざけたつもりだった。どうせ「ぜってーヤダ!」とか言いながら宿題に取り組むんだろうと思っていた。しかし予想とは良くも悪くも裏切られるもので。
「……は?」
赤也は間抜けな顔で目をぱちくりとさせている。もしかして奴はここまで馬鹿だったのか、と思いつつ出方を窺っていると、彼の顔はじわじわと熱を帯びていった。部屋はクーラーでよく冷えているのに。早くバカじゃねえの、と罵ってほしい。そんな態度出されたら、と私の喉は大きく動く。すると、赤也は言いづらそうに小さく口を動かした。それは二人きりだから聞き取れた大きさ。
「お前それ、余計にやる気出ねえんだけど」
「……は?」
今度は私の方が間抜けな顔を晒してしまった。雛鳥のように口をぱくぱくとさせながら、顔に熱が集う。
「そ、それって、」
「まあ、多分……俺とお前が考えてることおんなじ」
照れ臭そうに頬をぽりぽりとかいて、覗き込むようにちらりとこちらに目をやる。
そんなの、答え出されてるようなものじゃん。
込み上げる思いを抑えるために鼻をすすり、その場で座り直す。
「じゃあ俺が今日中に宿題終わらせたら、ちゃんと言うから」
赤也はそう言うと、シャーペンを握っている私の手の上に手を重ね、軽く握った。
「早く終わらせてよ……」
「任せろ!」
彼の笑顔に乗せられて私もシャーペンを走らすのだった。