あなたをもっと知りたくて
空欄の場合は ミョウジ ナマエ になります。
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そして迎えたインタビュー当日。
広い日本庭園の一角にあるホールのエントランスロビーにて、鎧に身を包んだイアイアンは戸惑いがちに佇んでいた。
「いや〜この度は取材申込みをお受け下さり、誠にありがとうございます。以前よりお噂はかねがね…しかし立派な甲冑ですなぁ、そして負けず劣らず中身も男前でいらっしゃる、アッハッハッハ!」
「は、はぁ…」
編集長の言葉の通り、上下共に鎧姿のイアイアンの立ち姿は見映えがするものだったが、ナマエは気もそぞろだった。
そばに控えて表面上はにこやかにしつつ、懸命に高揚する気持ちをおさえる。
(ついにこの日が来てしまった…)
とんとん拍子で事が進んだ今になって実感が込み上げる。
本音を言えばもっと時間をかけて準備をしたかったが、もうこうなってはやるしかない。
(絶対成功させるのよ!)
時間を割いてくれたイアイアンの為にも。
内心決意を新たにしていると、編集長に促されナマエは我にかえった。
「それじゃぁナマエちゃん、後は頼むぞ」
「あっハイ」
去り際に、頑張れよ、と目配せをされた。
この庭園を含めた施設のオーナーが知り合いらしく、安く場所を提供してもらえたそうだが、それなりに経費もかかっているだろう。
無言の期待とプレッシャーを感じる。
委託のカメラマンと3人残され、ナマエは改めてイアイアンに向き直った。
「イアイアンさん、お忙しい中お時間頂いてありがとうございます。本日はよろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ。ご期待に添えるかわかりませんが……普通こういう場所でやるものなんですか?」
やはり場所の大仰さに困惑しているらしい。
ホールは結婚式場などにも使われる大きなもので、それを取り囲む和風の庭園も広大だ。
ナマエ自身最初に聞かされた時は驚いたことを思い出しつつ、説明する。
「あーっとですね、屋外で写真を撮りたかったもので、ここのお庭がメインの目的といいますか…そのついでにインタビューもしちゃおうってことでして。大げさでびっくりしちゃいますよね」
インタビューの場所はもっとこぢんまりした部屋なので安心して下さい、と緊張をほぐそうとしていると、俄にイアイアンは表情を曇らせた。
「……やっぱり写真は撮らないといけませんか」
「えっ!?」
内心ぎくりとしつつ、様子を窺う。
「そ、そうですねー、あった方が読者の方も嬉しいでしょうし…」
やっぱり写真はNGだった?
いやでもこの場所を借りた意味が。
というか経費が。
ナマエが密かに冷や汗をかいていると、イアイアンは神妙な顔で再び口を開いた。
「こう、思いっきり引きで撮るとか、顔だけ見切れるとか、そういうのはまずいですかね」
「ど、どんな絵面ですか、斬新過ぎますよ!イアイアンさん、写真はお嫌いでしたか?事前には特に窺いませんでしたが…」
イアイアンは不甲斐なさそうに視線を逸らした。
「嫌いというか、不特定多数に見られると思うと、どうも緊張してしまって」
シュンとした表情が病院を嫌がる犬のようで、つい言うことを聞いてしまいたくなる。
しかし経費のことを思い出し、ナマエは誘惑に耐えた。
それに何より、自分自身イアイアンの撮り下ろし写真が見たいという私情も手伝って、ナマエは説得にかかった。
「緊張することないですよ、いつも通りの自然なお姿で良いんです」
「いつも通りですか…そんなに見た目の良い方ではないんですが」
どうも外見に自信が無いらしいのを見て、ナマエは意外に思った。
贔屓目なしに見ても、イアイアンはすっきりとした精悍な顔立ちをしている。
女性ファンに騒がれたりしないんだろうか、と不思議に思いつつ重ねてフォローをする。
「そんなことありませんよ。イアイアンさんかっこいいじゃないですか」
「お世辞はよしてくださいよ」
「いえお世辞じゃないですって。本当にかっこいいですから、ウソじゃありません!」
「いやそんな…」
「イケメン!紛う事なきイケメンです!私が自信を持って保証します!」
いつの間にか拳を握りしめていたナマエは、ハッとして口をつぐんだ。
見ればイアイアンは赤面して、何とも言えない表情をしている。
「そう、ですかね…」
今にも湯気が出そうな勢いである。
そして、本人を前にしていかにかっこいいかを力説してしまったナマエもまた、顔に熱が集まるのを感じていた。
(何言ってんの私ー!!)
テレビショッピングの実演販売じゃあるまいし。
穴があったら入りたい気持ちで、どうにか言葉を紡いだ。
「…えっと…少なくとも私はそう思います、ので……と、とにかく!一度撮るだけ撮ってみませんか?仕上がりがお気に召さなかったらその時はまた考えましょう、ね?」
その後どうにか了解を得て、生暖かい目で見守っていたカメラマンを促し屋外へ出る。
外は爽やかな陽気で、絶好の撮影日和だ。
所在無さげにしているイアイアンに適当な場所で立ってもらう。
「うん、良いですね」
カメラマンの後ろに立ち、指で形作ったフレームに被写体を収めてみる。
西洋甲冑と和風の庭という取り合わせだが、彼の持つ清廉な雰囲気は不思議と背景に調和した。
鈍く輝く鎧が新緑によく映えている。
「それじゃあ、お願いします」
委託のカメラマンはポートレートを専門にしており、ヒーローの撮影も経験がある。
後はプロにまかせれば良いだろう。
――しかし、予想を裏切って撮影は難航した。
「リラックスして、柔らかい表情を意識してみましょう」
「こ、こうですか」
「う、うーん…だいたいの表情はそれで良いんですが、もう少し眼力を押さえて頂けると…」
本人が渋っていた通り、本当に写真が不得手らしい。
どうしても力が入り、ややもすると人斬りのような殺伐とした雰囲気醸し出しがちなイアイアンを見て、ナマエは思案した。
何か気を緩める方法はないだろうか。
とそこで、ヒーロー協会会報で目にした記事のことを思い出した。
「イアイアンさん、そう言えば、最近刀を新調されたんですよね。隻腕用に改良とお聞きしたんですが、どのように変わったんですか?」
いきなり雑談を振られたイアイアンは目を瞬いたが、すぐに意識は話の内容に向いたらしい。
「え…ああ、えっと、そうですね、本来抜刀の際には鞘引きという動作があるんですが、俺の場合左腕がないのでこのように鞘を、」
とそこで突然シャッター音が鳴った。
つらつらと説明していたイアイアンは、刀の柄に手をかけたまま目を丸くしている。
撮影したばかりの画像を確認すると、抜き打ちだったにも関わらずよく撮れていた。
洗練された居合いの構えと真剣な表情が凛々しい。
カメラマンと無言でサムズアップを交わし合う。
ばつが悪そうにしているイアイアンに、ナマエは手を合わせた。
「不意打ちしてごめんなさい!でも思った通り、剣術の話をする時が一番良いお顔ですね」
かっこいいです、と再度褒めると、気が抜けたのかイアイアンも小さく笑った。
「一本取られました」
「あはは」
やっぱり、笑うと目元の険がとれて素朴な雰囲気になる。
こうして見れば確かに歳下らしい。
(真っすぐに育ったって感じ。噓とか付けないタイプなんだろうなぁ…って余計なことを考えない)
心の中で浮上しそうになる何かを抑え、撮影を続行する。
さっきの一幕で気持ちが解れたのか、その後は順調に進んだ。
何度か場所を変えて予定ページ分を撮り終わり、あとはインタビュー中の様子を撮影するだけだ。
写り具合を確認したイアイアンは驚いたように言った。
「表情が自然ですね…いつも写真を撮る時は顔が怖いだの、殺気立ってるだの、兄弟子に散々言われるんですが」
「はは、さっきも最初はちょっと怖かったですよ…」
イアイアンはこれなら表に出しても良いと判断したらしい。
無事目的の一つを達成できたことに、ナマエはホッと一息ついた。