4.侵略!G怪人
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「昨日またアレがでてさぁ…くっそ、先月バルサン焚いたのに」
「今年多いよな。暑さのせいか?」
「それもあるけど、うち飲食店が近所にあるから」
「ああそりゃ駄目だな…」
「ミョウジさんは大丈夫?女の子一人だと退治すんのも大変だろ」
作業をしながら、同僚の会話をきくともなしにきいていると不意に話しかけられた。
「えっ?」
「ゴキブリだよ、ゴキブリ」
話の内容を思い出す。そう言えば、引っ越して以来見たことがない気がする。
「うちはまだ出てないですね。新しい建物だからかも」
「良いなぁ、俺も引っ越すかな…」
「でも気をつけといた方がいいよ、一匹見かけたら三十匹いるっていうから」
「うわぁ…」
想像して鳥肌が立った。実家にいたころに何度か出たことはあったが、その度両親に泣きついて退治してもらっていたことを思い出す。虫全般が苦手なナマエが、一人暮らしを始める時に心配していたことの一つがゴキブリだったが、幸いなことに今のアパートに出たことはない。ちょうど暑くなり活性化する季節だったが、最近は視線のことが気になってすっかり忘れていた。
(怪人が多いからそういう害虫とかは逃げ出してたりして…そんなわけないか)
昼間の熱気が残る中家路を辿る。歩いている内に喉が乾いてきた。
自宅に着き、水分補給しようとダイニングキッチンの電気を付けたナマエは固まった。
「おう、おかえり!」
「え」
そこにいたのは ─何と形容していいかわからないがまず頭に思い浮かんだのは─『頭に触角のついたおっさん』だった。よく見ると背中に羽があったり手足が六本くらい生えている。これは着ぐるみなんだろうか、自前なんだろうか。
混乱するナマエをよそにおっさんは椅子に腰掛けてくつろいでいる。
「えっ誰?!誰なんですか!?」
ようやく自分を取り戻したナマエが後ずさりながら叫ぶと、まあまあ落ち着けと宥められる。
「つれないこと言うなや嬢ちゃん。ずっと一緒に暮らしてるだろ?」
「し、知らない!知らない!」
更に混乱して激しくかぶりを振るナマエに、触角のおっさんは親しげに笑いかけた。
「俺だよ、ゴキブリ…いや今は『新・覚醒ゴキブリ』かな?
怪人の姿で会うのは初めてだな、よろしく」
話は全く理解できなかったが「怪人」という言葉を認識したナマエは一気に青ざめた。
「いやあああああ!出たああー!」
半泣きになりながら玄関を飛び出る。
「誰か!誰か助けて!怪人です!」
外廊下に出て声を限りに叫ぶ。しかし、夜中であるにも関わらず反応する者はいない。いくら入居者が少ないといってもこれはおかしい。嫌な予感が込み上げる。
茫然と立ち尽くしていると、新・覚醒ゴキブリが玄関からのっそり出てくる。
「おま、そんな化け物を見たような反応すんなや傷つくわ。まあ化け物だけど」
「こっち来ないで!」
後ずさるナマエに新・覚醒ゴキブリはため息をつくと、おもむろに羽を小さく摺り合わせ始めた。微かに羽音が鳴り出す。
「は~しゃあねえな、また催眠音波で洗脳すっか」
「洗脳!?」
何か聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしてぎょっとしていると、羽音はいつの間にか大きくなり、耳障りな音波のようなものが辺りに広がり始めた。直接脳に突き抜けてくるようで頭がくらくらする。
ナマエが耳を塞いでいると、どういう仕組みなのか、音波と二重奏のようにして新・覚醒ゴキブリの言葉が聞こえてきた。
「まあ聞け、住処を追われ続けて俺らゴキブリは考えたわけよ。『覚醒ゴキブリ』みたいに強い怪人になって人間に敵対するのもいいが、結局いつかはヒーローに殺される。
だが更に進化した『新・覚醒ゴキブリ』となって人間共を洗脳し下僕にすれば、ヘマしなければバレて殺されることはないし、仲間も増えるし一石二鳥だ。俺の他の仲間も、皆それぞれ適当な集合住宅に潜り込んで、俺らのコロニーを増やすことにしたんだよ。
だがここではお嬢ちゃんの隣んちにヒーローの奴が住んでるみたいで、なかなか手が出せなんだ。しばらく虫の姿のままお嬢ちゃんちに潜んでチャンスを伺ってたが、今日やっと隙を見て行動を開始したってわけだ。
あいつが帰ってくる前に手を打っちまいたいんでな。他の住人はもう洗脳済み、後はお嬢ちゃんだけだ。アパート丸ごと人質にとればヒーローも迂闊に手を出せんだろ」
あくまで朗らかに語られた内容は、ナマエを戦慄させるには十分だった。
そんなの絶対に嫌だ。このままじゃ変な怪人の仲間にされる。
光を失った目をした自分が触覚のおっさんと仲良く食卓を囲む光景を想像したナマエは、絶望的な気持ちになった。しかし羽音は鳴り止まず、段々頭がぼんやりとしてくる。
「誰か!誰か助けて!」
薄れいく意識の中、最後の力を振り絞って叫んだその時だった。
外廊下の柵を飛び越えて怪人の背後に人影が着地したかと思うと、目の前で新・覚醒ゴキブリの首が一瞬にして無くなった。首をはねられたのだと理解する間もなく、分離した頭が落ちていくのがスローモーションで見えた。
更に連続して空を切り裂くような音がし、見る間に胴体だけになった怪人がバラバラになっていく。肉片が崩れ落ち、人間のものとは違う色の体液が吹き出しナマエの足元に飛び散った。その様を呆然と見守っていたナマエは、ゆっくりと血の気が引いていくのを感じた。脚から力が抜け、その場にへたり込む。
怪人が解体されたことで、その背後に立っていた人影が目の前に現れた。返り血を大量に浴び、抜き身の鉈を携えた姿は、スプラッターホラー映画から抜け出てきたようだったが、こちらの身を案じているのがありありとわかる表情をしている。
「すまない遅くなった。怪我はないか?」
薄明かりに照らされ、心配そうにこちらを覗き込む顔は見知った隣人のものだったが、限界を迎えていたナマエの意識はそこでブラックアウトした。
「今年多いよな。暑さのせいか?」
「それもあるけど、うち飲食店が近所にあるから」
「ああそりゃ駄目だな…」
「ミョウジさんは大丈夫?女の子一人だと退治すんのも大変だろ」
作業をしながら、同僚の会話をきくともなしにきいていると不意に話しかけられた。
「えっ?」
「ゴキブリだよ、ゴキブリ」
話の内容を思い出す。そう言えば、引っ越して以来見たことがない気がする。
「うちはまだ出てないですね。新しい建物だからかも」
「良いなぁ、俺も引っ越すかな…」
「でも気をつけといた方がいいよ、一匹見かけたら三十匹いるっていうから」
「うわぁ…」
想像して鳥肌が立った。実家にいたころに何度か出たことはあったが、その度両親に泣きついて退治してもらっていたことを思い出す。虫全般が苦手なナマエが、一人暮らしを始める時に心配していたことの一つがゴキブリだったが、幸いなことに今のアパートに出たことはない。ちょうど暑くなり活性化する季節だったが、最近は視線のことが気になってすっかり忘れていた。
(怪人が多いからそういう害虫とかは逃げ出してたりして…そんなわけないか)
昼間の熱気が残る中家路を辿る。歩いている内に喉が乾いてきた。
自宅に着き、水分補給しようとダイニングキッチンの電気を付けたナマエは固まった。
「おう、おかえり!」
「え」
そこにいたのは ─何と形容していいかわからないがまず頭に思い浮かんだのは─『頭に触角のついたおっさん』だった。よく見ると背中に羽があったり手足が六本くらい生えている。これは着ぐるみなんだろうか、自前なんだろうか。
混乱するナマエをよそにおっさんは椅子に腰掛けてくつろいでいる。
「えっ誰?!誰なんですか!?」
ようやく自分を取り戻したナマエが後ずさりながら叫ぶと、まあまあ落ち着けと宥められる。
「つれないこと言うなや嬢ちゃん。ずっと一緒に暮らしてるだろ?」
「し、知らない!知らない!」
更に混乱して激しくかぶりを振るナマエに、触角のおっさんは親しげに笑いかけた。
「俺だよ、ゴキブリ…いや今は『新・覚醒ゴキブリ』かな?
怪人の姿で会うのは初めてだな、よろしく」
話は全く理解できなかったが「怪人」という言葉を認識したナマエは一気に青ざめた。
「いやあああああ!出たああー!」
半泣きになりながら玄関を飛び出る。
「誰か!誰か助けて!怪人です!」
外廊下に出て声を限りに叫ぶ。しかし、夜中であるにも関わらず反応する者はいない。いくら入居者が少ないといってもこれはおかしい。嫌な予感が込み上げる。
茫然と立ち尽くしていると、新・覚醒ゴキブリが玄関からのっそり出てくる。
「おま、そんな化け物を見たような反応すんなや傷つくわ。まあ化け物だけど」
「こっち来ないで!」
後ずさるナマエに新・覚醒ゴキブリはため息をつくと、おもむろに羽を小さく摺り合わせ始めた。微かに羽音が鳴り出す。
「は~しゃあねえな、また催眠音波で洗脳すっか」
「洗脳!?」
何か聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしてぎょっとしていると、羽音はいつの間にか大きくなり、耳障りな音波のようなものが辺りに広がり始めた。直接脳に突き抜けてくるようで頭がくらくらする。
ナマエが耳を塞いでいると、どういう仕組みなのか、音波と二重奏のようにして新・覚醒ゴキブリの言葉が聞こえてきた。
「まあ聞け、住処を追われ続けて俺らゴキブリは考えたわけよ。『覚醒ゴキブリ』みたいに強い怪人になって人間に敵対するのもいいが、結局いつかはヒーローに殺される。
だが更に進化した『新・覚醒ゴキブリ』となって人間共を洗脳し下僕にすれば、ヘマしなければバレて殺されることはないし、仲間も増えるし一石二鳥だ。俺の他の仲間も、皆それぞれ適当な集合住宅に潜り込んで、俺らのコロニーを増やすことにしたんだよ。
だがここではお嬢ちゃんの隣んちにヒーローの奴が住んでるみたいで、なかなか手が出せなんだ。しばらく虫の姿のままお嬢ちゃんちに潜んでチャンスを伺ってたが、今日やっと隙を見て行動を開始したってわけだ。
あいつが帰ってくる前に手を打っちまいたいんでな。他の住人はもう洗脳済み、後はお嬢ちゃんだけだ。アパート丸ごと人質にとればヒーローも迂闊に手を出せんだろ」
あくまで朗らかに語られた内容は、ナマエを戦慄させるには十分だった。
そんなの絶対に嫌だ。このままじゃ変な怪人の仲間にされる。
光を失った目をした自分が触覚のおっさんと仲良く食卓を囲む光景を想像したナマエは、絶望的な気持ちになった。しかし羽音は鳴り止まず、段々頭がぼんやりとしてくる。
「誰か!誰か助けて!」
薄れいく意識の中、最後の力を振り絞って叫んだその時だった。
外廊下の柵を飛び越えて怪人の背後に人影が着地したかと思うと、目の前で新・覚醒ゴキブリの首が一瞬にして無くなった。首をはねられたのだと理解する間もなく、分離した頭が落ちていくのがスローモーションで見えた。
更に連続して空を切り裂くような音がし、見る間に胴体だけになった怪人がバラバラになっていく。肉片が崩れ落ち、人間のものとは違う色の体液が吹き出しナマエの足元に飛び散った。その様を呆然と見守っていたナマエは、ゆっくりと血の気が引いていくのを感じた。脚から力が抜け、その場にへたり込む。
怪人が解体されたことで、その背後に立っていた人影が目の前に現れた。返り血を大量に浴び、抜き身の鉈を携えた姿は、スプラッターホラー映画から抜け出てきたようだったが、こちらの身を案じているのがありありとわかる表情をしている。
「すまない遅くなった。怪我はないか?」
薄明かりに照らされ、心配そうにこちらを覗き込む顔は見知った隣人のものだったが、限界を迎えていたナマエの意識はそこでブラックアウトした。