中二病でも恋がしたい
空欄の場合は ミョウジ ナマエ になります。
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「魔星流烈…間違えた、魔流烈星震鏡剣!!……あれ」
医務室のベッドの上で勢いよく身を起こしたダークネスブレイドは、辺りを見回してぽかんとした。
夢の中で戦いの続きだったらしいその様子を見守りつつ、ナマエはおずおずと声をかけた。
「大丈夫?あの…怪人もういないから」
ナマエの存在に気付いたダークネスブレイドは、ようやく状況を把握したらしくぎこちなく返事をした。
「あ、ああ」
「これ、助けてくれた人から巻き添えにしたお詫びだって。ジャージ着た男の人だった。学生さんかな?はは…」
「……」
手渡された和菓子の袋を無言で受け取ったダークネスブレイドは、どことなく影を背負っている。
無理もない。思いっきり必殺技を決めようとしたところを、(恐らく)一般人に助けられ、更に吹っ飛ばされて気絶するという失態を目撃されたのだ。
カッコ良さ第一の彼にしてみればダメージ1000というところだろう。
しかも目撃したのは微妙に嫌な思い出のある顔見知りで。
鎧も脱ぎ、なにやら謎の英字がプリントされたTシャツ姿にますます居た堪れなくなる。
ナマエは思い切って踏み込むことにした。
「あの…中学の時同級生だったよね。部活も一緒で、ほら、書道部の…覚えてる?すごい偶然だね」
てっきり素っ気なくされるかと思ったが、しかしダークネスブレイドはこくりと素直に頷いた。
「ああ…いや、実は偶然じゃない。ナマエ…さんがバイトしてる店を見つけて、この辺りをパトロールの巡回ルートに入れてたから」
「へっ?」
何だそれは。
まるで意図的に遭遇しやすい状況をつくっていたかのような言い種に、思わず間の抜けた返事をしてしまう。
目を丸くするナマエの視線を避けるように、ダークネスブレイドは顔を逸らした。
その横顔は僅かに赤いように見える。
いくら鈍いところのあるナマエでも、それが恋愛的な意味での好意の表れであることは理解できた。
(ど、どういうこと…?)
向こうからしてみれば、自分は一世一代の告白を「意味わかんない」と突っぱねた最低な奴のはずだ。
何か食い違いがおきている気がする。
「あ、あの…中学の時さ、その、告白してくれたじゃない?」
それを聞くと、ダークネスブレイドは俄に表情を曇らせた。
「あ、ああ…」
「それで私、酷い対応しちゃったっていうか、」
「いや、ナマエさんは悪くない。振られて当然だ、台詞の練り方が足りなかった…未熟だったな、あの頃は」
「いやっそういうことではなくって!」
遠い目でたそがれだしたダークネスブレイドに慌てて突っ込みをいれると、ナマエは観念したように息を吐いた。
「あの…実はあの時、君が何言ってるかほんとにわかんなくて、ていうか告白だと思ってなくて、」
目を合わせていられず、斜め前に視線をそらす。
「み、見たいテレビが始まりそうだったから、取り敢えず謝って逃げたの…」
ダークネスブレイドの下顎がかくんと落ちた。
しばらく石になっていたのち、ふらつきベッドに手をついた。
「そんな…一週間かけて調べたかっこいい単語が…」
ショックの受けどころが微妙におかしい気がするが、ここに至ってようやっと二人の認識が合致した。
しかし。
この反応を見るに、やはり彼はあの頃から今に至るまで、ナマエのことをずっと想ってくれていたらしい。
すっかり成長した彼は、中身はともかく人目をひく容姿をしている。
ヒーローということもあってさぞかしもてるだろう。
それなのにいったいなぜ。
当時から疑問に思っていた謎が、ナマエの中で再び首をもたげた。
「ずっと気になってたんだど、なんで私に告白してくれたの?その、私達ほとんど喋ったこともなかったよね」
ダークネスブレイドはつと黙り込むと、しばらく考えていたあと、いつになく真面目な調子で話し始めた。
「ナマエさんは覚えてないかもしれないが、書道部に入った時みんなの前で特技として『画竜点睛一筆書き』を披露したんだ。
その時ナマエさんだけは真剣な顔をして見てたから、俺のかっこよさをわかってくれたのかと…」
「が、がりょうてんせい…?」
またしてもかっこよさげな響きの技名だが、ナマエはまったく思い出せなかった。
おぼろげな記憶を辿ってみる。
部室で皆の前に立ち、自己紹介をしたあと半紙を前になにやら激しく動いていた姿がぼんやりと蘇る。
おざなりな拍手の後、顧問の先生が「墨が飛び散るから周りに人がいない時にやりましょうね」とか言ってたような。
そして、ナマエの記憶にある姿はいずれも磨りガラスを通してみたようにぼやけていて――
「あ…多分それよく見えなかったやつ」
「え」
一度口に出したものを引っ込めるわけにもいかず、目の前の惚けたような顔を見ながらぎこちなく言葉を吐き出す。
「その頃急に視力が下がって、授業中とかは眼鏡してたんだけど…」
部活に持っていくの忘れちゃって、というと、ダークネスブレイドは再び石化した。
しばらくショックを受けていたのち、口を開く。
「今は…コンタクトなのか…」
「うん…」
「そうか…」
お通夜のようなテンションでそのやり取りを終えると、重い沈黙がその場を支配した。
気まずい。ナマエのこれまでの人生至上最高に気まずい空気だった。
(最悪だ私…)
そのつもりはなかったにしても、一人の少年の恋の始まりとそのクライマックスをはちゃめちゃにかき回してしまっている。
それが証拠に、ダークネスブレイドは先ほどの比ではないほど落ち込んでいた。
ダメージ100000、クリティカルヒットといったところか。
ナマエは俯いた横顔を見た。
心の中にあるのは申し訳なさと、それとは別の歯痒いような、じれったいようなもやもやとした気持ち。
元気を出してほしい。
誰にもわかってもらえなくても、自分の思うかっこよさを貫くってすごいことだ。
たかが同級生一人に届かなかったからってなんだと言うのだ。
気がついた時には、口を開いていた。
「私が言うのもなんなんだけど、」
ダークネスブレイドはのろのろと顔をあげた。
「自分が良いと思うことを堂々とやれるのって、かっこいいことだと思うよ」
驚いたように見開かれた目に小さく笑いかける。
「中学の時とか皆引いてたのに、自分が思う『かっこいい』を続けて、それでヒーローになっちゃうなんてすごいじゃない。
私には残念ながら君の考えるかっこよさはよくわかんないけど…でも、それとは別にちゃんとかっこいいところがあるっていうか、」
だから自信もってよ、と勢いのまま言い切ってしまうと、一気に羞恥心が襲ってきた。
(うわ、恥ずかしいぃぃ~!!)
というか、落ち込ませた張本人が言うことではないだろう。もう遅いけど。
それでも、ダークネスブレイドが少しでも元気になってくれるなら。
そう思っていたのに、顎に手をあてて考えこんでいた彼から返ってきたのは、想定外の反応だった。
「それは…まだチャンスがある、ということだろうか」
「えっ」
なにかを期待する眼差しがじっとこちらを見つめている。
ワンテンポ遅れて、じわじわと首から上に熱が溜まっていく。
確かに。確かにさっきの発言はそういう風にとれなくもないけど。
(――ポ、ポジティブ…!)
手痛い空振りを重ねて尚、この恋を続けようというのか。
その前向きさはどこからくるのか。
やっぱりこの人相当変わってる。
しかし、そう思いながら心が動いてしまっている自分もどっこいどっこいなのかもしれない。
「えっと…お、お友達からお願いします」
もじもじしながらそう言うと、大人びて見えた無表情が僅かに和らぎ、中学の頃の面影が過った。
思えばその頃から、ナマエが彼のことを忘れてしまってからも、ずっと好きでいてくれたのだ。
カッコつけかと思いきや変なところで一途で、よくわからない人。
不意にお腹からきゅーと恥ずかしい音が鳴った。
「あ」
気づけばもう昼飯時を過ぎている。道理で空腹なわけだ。
なにもこんなタイミングで鳴らなくて良いのに、と思いながら弁解する。
「ごめん、バイトの日はいつも賄いでお昼食べるんだけど、量が多いから朝ご飯少なめにしてるんだよね。だからかな~あはは…」
若干早口になりつつ、今日はバイトも休むことになってしまったしお昼どうしよう、と考えていると、ダークネスブレイドがおもむろに口を開いた。
「もし、良かったら」
妙に力の入った表情に、思わず口を紡ぐ。
その顔のまま沈黙していた後、ダークネスブレイドは重々しく口を開いた。
「…と、共に優雅なる晩餐に興じ、鳴り止まぬ腹の音を鎮めにいかないか」
「そこは普通で良かったんじゃないかな…ていうか晩餐って晩ご飯のことだよ」
やっぱり彼の考えるカッコよさはなかなか理解できそうにない。
それでも、これから楽しくなりそうな予感に胸が弾むナマエだった。
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