あなたをもっと知りたくて
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※夢主雑誌記者設定。仕事内容などは非常にフワッとしています…
※モブがとてもよく喋ります
※イアイアンの経歴など捏造多数
スマホでニュースサイトのページをスクロールしながら、ナマエは眉間に皺を寄せた。
『怪人災害 先月発生件数過去最多』
『A市壊滅の傷痕 未だ行方不明者多数』
『※市郊外にて災害レベル鬼2体同時発生 今後も増加の見通しか』
怪人災害や犯罪に関わるトピックスがずらりと並んでいる。
読み進めるうちに気が滅入り、最後は投げやりに文字列をはじき、勢いよく流れる情報を打ち消すように画面をオフにした。
大きくため息をつき、ほとんど氷が溶けてしまったアイスティーのストローに口をつける。
喫茶店の窓際の席から眺める街並みは平和な風景そのものだったが、それがいつ崩れ落ちるかわからないものだと思えば、初夏の爽やかな日差しもどこか陰って見える。
少し前まで珍しかった怪人災害は、ここ最近で指数関数的にその件数と凶悪さを増していた。
ナマエが記者として携わっている総合情報誌『月刊 超大陸(パンゲア)』の紙面も、最近は災害関係、そしてヒーロー関係の記事で目白押しだった。
入社以来二年間エンタメ・カルチャー部門で働いているナマエは、その方面には明るくないが、この超大陸サイタマに生活する人々の中で、それらの話題が占める重要度が上がっているのは、明らかなことだった。
その関係で、最近はナマエの担当部門のページ数は削られることも多くなっている。モチベーションも下がり気味だ。
しかしそれ以上に今の世の中で、ナマエは自らの仕事の意義を見失いつつあった。
(最近、ニュースとか見てても気が滅入るだけだもんね)
記者になったばかりの頃は、いろんな人に会い、話を聞いて、記事として出力することが単純に楽しかった。
怪人災害は徐々に増えつつあったが、まだ文明を脅かす程ではなかった。
発足したばかりのヒーロー協会をマスコミも大々的に盛り上げて、急激に変化する環境に一丸となって立ち向かおう、というムードがあったように思う。
ナマエ自身業界で働く者の端くれとして、何かできることがあるはずだと志を抱いていた。
それが途方もなく楽観的な考え方だったと、今ならわかるのだが。
(あんなでっかい宇宙船相手にさぁ、ただの人間ができることなんか無いよ…)
A市を更地に変えたインベーダー事件を思い出し、気が遠くなった。
ただでさえ怪人だの敵性生物だのに脅かされているのに、この上地球外からあんなものを持ってこられたらもうお手上げだ。
ましてやペン一本で何ができるというのか。
(それに…)
現在の治安維持の要といえばプロヒーローだが、ナマエは内心ヒーローというものに対して懐疑的だった。
いくら腕っぷしが強くても、彼らとて人間であることは間違いない。
J市の海人族による侵略事件では、鬼サイボーグ、無免ライダーを始めとして多数のヒーローが戦ったが、皆無事では済まなかったという。
今後更に強い怪人が現れるようになれば、いつか限界が訪れるのではないか。
未来が見えないという漠然とした閉塞感を感じているのは、恐らくナマエだけではないだろう。
そんな停滞する現状のやり玉に挙げられているヒーロー達は、気の毒なような、理解できないような、そんな存在だった。
辛口コメンテーターが「あんなものは寄付金の無駄」と切り捨てているのを見たこともある。
有難く思わないわけではないが、正直なところよくやるなぁという感じだった。
(…まあ、こんな風に悩んでても仕方ないわ)
鬱々とした気分を振り払うように、ナマエはグラスに直に口を付け中身を飲み干した。
よし、と決心する。
せっかくの有給休暇なんだから、パーッと買い物でもしてストレス発散しよう。
そう思いたつと、勢いよく席を立ち会計を済ませて店を出た。
ちょうど新しいスカートが欲しかったことを思い出し、近場のショッピングモールに向けて歩き出したところで、背後からけたたましい悲鳴が聞こえた。
「えっ!?何…」
驚いて振り向き、見ると不格好な人型のものが視界に入った。
ギギギ、と耳障りな金属音と共に立ち上がったそれは、手にあたる部分に小学生くらいの子どもをつまみ上げている。
「俺は放置された自転車の恨みが集まって怪人化した“哀しみのチャリンコス”様だ!身勝手な人間どもめ!乗り捨ては許さん!!」
「ママー!助けてー!」
スクラップの塊の如く、潰れた自転車が複雑に絡み合ったものが、意志を持って動いている。
ナマエはぎょっと目を見開いた。
今まで遠巻きに騒ぎを見たり、テレビ中継の画面で見たことはあったが、運良く被害に遭ったことはなかったので、間近でその存在を視認したのは初めてだった。
――怪人だ…!
その威容におののきながら、おろおろと周りを見渡す。
(こういう時ってどうすればいいの?ヒーロー?警察?)
捕らえられた少年の母親とおぼしき人物が、通行人に押さえられながら叫んでいる。
少年を助け出そうと数人の男性が怪人に近づこうと試みているが、興奮して腕を振り回す相手に手を出しかねているようだった。
怪人はライトでできた目玉を光らせながら喚いた。
「坊主、お前は今から心得を学んで正しき自転車乗りになるのだ!さてここでクイズ、タイヤの空気補充の目安はおよそ一ヶ月に一度である、○か✕か!!」
「うわーん!そんなの今聞かれてもわかんないよー!」
激しく泣き出した少年を見て、思わずナマエは怪人に食って掛かっていた。
「ちょっとやめなさいよ、子どもに手を出すなんて最低!このスクラップ!」
「あン?なんだとぉ!?」
怪人の関心がこちらへ向く。
ハッとして口をつぐんだが時は既に遅く、ナマエの姿を捉えた目玉がビカビカと激しく点滅した。
「生意気な女め…貴様はアレだな!自転車のライトが切れかかってても、面倒くさいからとそのまま乗り続けるズボラなタイプだな?あと鍵とかも何回か失くしてそうだ!」
「な…お、大きなお世話よ!」
怪人の能力なのかなんなのか、学生時代のエピソードを言い当てられ怯んでいると、少年が掴まれているのと逆の腕が伸びてきた。
慌てて後退ろうとしたが、すかさず金属片の絡まりあった腕がナマエを囲い込んだ。
「逃がしはせんぞ、貴様も教育対象だ!」
耳障りな金属音と共に怪人の異相が迫り、機械油のような臭いが鼻をつく。
血の気が引いていくのを感じながら、ナマエは自分の迂闊さを後悔していた。
(ああ〜!またやっちゃった~!!)
勢いで行動して痛い目を見た経験は数知れず、毎年『今年こそは落ち着いた大人の女性になる』を目標に掲げるが、それは達成された試しがないのだった。
(これ…もしかしなくても私死ぬ…?)
来週予定している『微炭酸BOYS』というインディーズアイドルグループへの取材の引き継ぎどうしよう、と自分が死んだ後のことを妙に冷静に心配していると、どこからか凛とした声が聞こえた。
「危ないから伏せて」
「えっ」
声の主を探すがどこにも見当たらない。
再び焦ったような声がした。
「鞄かなにかで頭を保護するんだ、いいから早く!」
「はっはい!」
言われた通りにしゃがみ込み、バッグを頭上に掲げて縮こまると、キン、という鋭い金属音がした。
「あが!?ぐあああ俺の左腕があああ!」
続けて怪人のうめき声があがる。
と思う間もなく次の瞬間、ナマエの周りにバラバラとスクラップ片の雨が降り注いだ。
「キャーーキャーー!!」
うずくまったままパニックになっていると、誰かが側に降り立ち、頭の上で素早く空を切る音と、リズミカルにいくつもの硬いものが弾き飛ばされる音がする。
何がなんだかわからないでいると、いつの間にか音は止み、大丈夫か、という声と共に手が差し伸べられた。
「は、はひ…」
目を回しながらどうにかその手に掴まると、ぐんと強い力で引き上げられた。
「安全な場所へ…離れていてください」
そう言ってナマエを後ろの人垣へ押しやった青年は、まだ若くただの学生のようにも見えたが、シャツの袖からは筋肉質な右腕が伸び、その手は腰に下げた日本刀の柄にかかっている。
そしてもう片方の袖に目を留め、その先に何も無いのを見てナマエは瞠目した。
(隻腕…!?)
突如現れた闖入者に周囲の人々が呆気に取られていると、先ほどのダメージから立ち直った怪人が青年に向き直り睨み付けた。
「いきなり出てきてなんだ貴様…不作法な奴だな、教育する価値もないわ!
俺の真の力を見せてやる!集え、打ち捨てられた自転車達よ!!」
号令に合わせて、近辺の自転車が磁石のように怪人の体にぶつかり、取り込まれていく。
どこかで「俺のチャリがー!」という悲鳴が上がっている辺り、ちゃんと持ち主がいるものも含まれているようだがお構いなしである。
「圧縮圧縮!それ圧縮!硬度100万倍だああ」
失くした腕も元に戻り、怪人の体は先ほどより一回り大きくなっている。そればかりかギシギシと凝縮されていく金属の塊は、その頑丈さも増しているようだった。
捕らえられた少年はもう声も出ない様子で青ざめている。
「ウハハハハどうだぁ!この違法駐輪車ボディは並大抵のことでは傷つかんぞ!そんなチンケな刀は通用すまい!」
「ならば試してみるか」
怪人の自信満々な様子にも青年は動じず、刀の柄に手をかけて構えている。
「片腕でどこまでやれるのか、力量を測ってみたかったところだ」
(ちょっ…そんな挑発するようなこと言ったら…)
青年は冷静な面持ちを崩さないが、一方見守るナマエは一人冷や汗をかいていた。
かなり腕は立つようだが、武器といえば刀一本、防具らしいものもなく、しかも隻腕の青年が怪人と対峙する姿は、ひどく危なっかしく見える。
おそるおそる怪人の様子を窺うと、思った通り出鼻を挫かれた怪人は、上機嫌から一転激昂し始めた。
「貴っ様…!もう許さんぞ!タイヤチェーンの錆にしてくれるわ!!」
(ほらぁーー!!)
心の中で頭を抱えるナマエの眼の前で、怪人が復活したばかりの金属の腕を振り上げた。
――駄目…!あのお兄さん死んじゃう!
自分がヘタこいて死にかけたのを助けに入ったばかりに。
お願い逃げて、と祈りながら目を逸らそうとした寸前、視界の隅で何かがキラリと光った。
それが青年の抜いた刃だと認識する暇もなく、目にも止まらない速さで怪人の体が縦横無尽に斬り裂かれる。そして一瞬の間を置いて怪人の咆哮があがった。
「ウハハハ死ぬが良いわ……んなっ!?ああがあああああ!!」
茫然と見上げる先で、怪人がバラバラと崩れ落ちていく。
それに伴って宙に放り出された少年を、既に納刀した剣士の青年が片腕で受け止めた。
「君、怪我はないか?」
少年も一瞬の間に何が起こったのか理解できない様子で、頷きながら目をぱちくりさせている。
その側で鉄くずの塊と化した怪人が呻いている。
「ば…かな…何という斬撃……無念…」
断末魔と共に点灯していたライトが消え、怪人だったものは完全に沈黙した。
とそこへ、コスチュームを着た一団が駆け付けた。プロヒーローらしき彼らは、それぞれ武器を手に意気込んでいたが、現場の光景を見てポカンと口を開けている。
少年を母親のところへ返した青年は、その集団を見るとどこかせわしない様子で駆け寄った。
「すまん、後の対応を頼めるか?」
「え?ああ、はい…」
何が何だかという表情をしているヒーロー達を後目に、青年は携帯を取り出して電話しながら駆け出した。「…もしもし?すみません師匠、ちょっとトラブルがありまして…」となにやら電話相手に謝りながら去っていく。
一連の流れの間停止していたナマエの思考は、状況を把握するにつれ、徐々に回転し始めた。
たった一瞬で、刀一本で、彼は事態を収束させ自分と子どもを救出してみせた。
(すっっご…!!)
雷に打たれたような感動と共に妙なスイッチが入ったナマエは、怪我人がいないか確認しているヒーロー達の元へ衝動のままに走った。
「あっあのすみません!!今の人って誰ですか!?」
「おわっ!なんだぁ」
いきなり現れたナマエの勢いに、一番近くにいたヒーローは目を白黒させている。
コスチュームは着ていなかったが、彼らを見知った様子だったので、恐らく剣士の青年もヒーロー関係者に違いない。
目をキラキラさせたナマエに迫られのけぞっているヒーローの傍らで、別のヒーローがちょっと考えた後で口を開いた。
「…鎧着てないからパッと見わかんなかったけど、あれイアイアンじゃないか?」
「あ、ああそうだ!左腕が無かったもんな」
イアイアン。
彼に繋がる手掛かりを得て、心の中でガッツポーズをとる。
そしてナマエの胸には、先ほどからずっと渦巻いていた、あるひとつの望みが結実しつつあった。
(ぜったい、あの人の記事を書きたい!)
思い立ったら吉日だ。
そうと来れば次に向かう先は決まっている。
「ありがとうございますー!」と言い残して嵐のように去っていくナマエを、ヒーロー達は呆気に取られて見つめていた。
※モブがとてもよく喋ります
※イアイアンの経歴など捏造多数
スマホでニュースサイトのページをスクロールしながら、ナマエは眉間に皺を寄せた。
『怪人災害 先月発生件数過去最多』
『A市壊滅の傷痕 未だ行方不明者多数』
『※市郊外にて災害レベル鬼2体同時発生 今後も増加の見通しか』
怪人災害や犯罪に関わるトピックスがずらりと並んでいる。
読み進めるうちに気が滅入り、最後は投げやりに文字列をはじき、勢いよく流れる情報を打ち消すように画面をオフにした。
大きくため息をつき、ほとんど氷が溶けてしまったアイスティーのストローに口をつける。
喫茶店の窓際の席から眺める街並みは平和な風景そのものだったが、それがいつ崩れ落ちるかわからないものだと思えば、初夏の爽やかな日差しもどこか陰って見える。
少し前まで珍しかった怪人災害は、ここ最近で指数関数的にその件数と凶悪さを増していた。
ナマエが記者として携わっている総合情報誌『月刊 超大陸(パンゲア)』の紙面も、最近は災害関係、そしてヒーロー関係の記事で目白押しだった。
入社以来二年間エンタメ・カルチャー部門で働いているナマエは、その方面には明るくないが、この超大陸サイタマに生活する人々の中で、それらの話題が占める重要度が上がっているのは、明らかなことだった。
その関係で、最近はナマエの担当部門のページ数は削られることも多くなっている。モチベーションも下がり気味だ。
しかしそれ以上に今の世の中で、ナマエは自らの仕事の意義を見失いつつあった。
(最近、ニュースとか見てても気が滅入るだけだもんね)
記者になったばかりの頃は、いろんな人に会い、話を聞いて、記事として出力することが単純に楽しかった。
怪人災害は徐々に増えつつあったが、まだ文明を脅かす程ではなかった。
発足したばかりのヒーロー協会をマスコミも大々的に盛り上げて、急激に変化する環境に一丸となって立ち向かおう、というムードがあったように思う。
ナマエ自身業界で働く者の端くれとして、何かできることがあるはずだと志を抱いていた。
それが途方もなく楽観的な考え方だったと、今ならわかるのだが。
(あんなでっかい宇宙船相手にさぁ、ただの人間ができることなんか無いよ…)
A市を更地に変えたインベーダー事件を思い出し、気が遠くなった。
ただでさえ怪人だの敵性生物だのに脅かされているのに、この上地球外からあんなものを持ってこられたらもうお手上げだ。
ましてやペン一本で何ができるというのか。
(それに…)
現在の治安維持の要といえばプロヒーローだが、ナマエは内心ヒーローというものに対して懐疑的だった。
いくら腕っぷしが強くても、彼らとて人間であることは間違いない。
J市の海人族による侵略事件では、鬼サイボーグ、無免ライダーを始めとして多数のヒーローが戦ったが、皆無事では済まなかったという。
今後更に強い怪人が現れるようになれば、いつか限界が訪れるのではないか。
未来が見えないという漠然とした閉塞感を感じているのは、恐らくナマエだけではないだろう。
そんな停滞する現状のやり玉に挙げられているヒーロー達は、気の毒なような、理解できないような、そんな存在だった。
辛口コメンテーターが「あんなものは寄付金の無駄」と切り捨てているのを見たこともある。
有難く思わないわけではないが、正直なところよくやるなぁという感じだった。
(…まあ、こんな風に悩んでても仕方ないわ)
鬱々とした気分を振り払うように、ナマエはグラスに直に口を付け中身を飲み干した。
よし、と決心する。
せっかくの有給休暇なんだから、パーッと買い物でもしてストレス発散しよう。
そう思いたつと、勢いよく席を立ち会計を済ませて店を出た。
ちょうど新しいスカートが欲しかったことを思い出し、近場のショッピングモールに向けて歩き出したところで、背後からけたたましい悲鳴が聞こえた。
「えっ!?何…」
驚いて振り向き、見ると不格好な人型のものが視界に入った。
ギギギ、と耳障りな金属音と共に立ち上がったそれは、手にあたる部分に小学生くらいの子どもをつまみ上げている。
「俺は放置された自転車の恨みが集まって怪人化した“哀しみのチャリンコス”様だ!身勝手な人間どもめ!乗り捨ては許さん!!」
「ママー!助けてー!」
スクラップの塊の如く、潰れた自転車が複雑に絡み合ったものが、意志を持って動いている。
ナマエはぎょっと目を見開いた。
今まで遠巻きに騒ぎを見たり、テレビ中継の画面で見たことはあったが、運良く被害に遭ったことはなかったので、間近でその存在を視認したのは初めてだった。
――怪人だ…!
その威容におののきながら、おろおろと周りを見渡す。
(こういう時ってどうすればいいの?ヒーロー?警察?)
捕らえられた少年の母親とおぼしき人物が、通行人に押さえられながら叫んでいる。
少年を助け出そうと数人の男性が怪人に近づこうと試みているが、興奮して腕を振り回す相手に手を出しかねているようだった。
怪人はライトでできた目玉を光らせながら喚いた。
「坊主、お前は今から心得を学んで正しき自転車乗りになるのだ!さてここでクイズ、タイヤの空気補充の目安はおよそ一ヶ月に一度である、○か✕か!!」
「うわーん!そんなの今聞かれてもわかんないよー!」
激しく泣き出した少年を見て、思わずナマエは怪人に食って掛かっていた。
「ちょっとやめなさいよ、子どもに手を出すなんて最低!このスクラップ!」
「あン?なんだとぉ!?」
怪人の関心がこちらへ向く。
ハッとして口をつぐんだが時は既に遅く、ナマエの姿を捉えた目玉がビカビカと激しく点滅した。
「生意気な女め…貴様はアレだな!自転車のライトが切れかかってても、面倒くさいからとそのまま乗り続けるズボラなタイプだな?あと鍵とかも何回か失くしてそうだ!」
「な…お、大きなお世話よ!」
怪人の能力なのかなんなのか、学生時代のエピソードを言い当てられ怯んでいると、少年が掴まれているのと逆の腕が伸びてきた。
慌てて後退ろうとしたが、すかさず金属片の絡まりあった腕がナマエを囲い込んだ。
「逃がしはせんぞ、貴様も教育対象だ!」
耳障りな金属音と共に怪人の異相が迫り、機械油のような臭いが鼻をつく。
血の気が引いていくのを感じながら、ナマエは自分の迂闊さを後悔していた。
(ああ〜!またやっちゃった~!!)
勢いで行動して痛い目を見た経験は数知れず、毎年『今年こそは落ち着いた大人の女性になる』を目標に掲げるが、それは達成された試しがないのだった。
(これ…もしかしなくても私死ぬ…?)
来週予定している『微炭酸BOYS』というインディーズアイドルグループへの取材の引き継ぎどうしよう、と自分が死んだ後のことを妙に冷静に心配していると、どこからか凛とした声が聞こえた。
「危ないから伏せて」
「えっ」
声の主を探すがどこにも見当たらない。
再び焦ったような声がした。
「鞄かなにかで頭を保護するんだ、いいから早く!」
「はっはい!」
言われた通りにしゃがみ込み、バッグを頭上に掲げて縮こまると、キン、という鋭い金属音がした。
「あが!?ぐあああ俺の左腕があああ!」
続けて怪人のうめき声があがる。
と思う間もなく次の瞬間、ナマエの周りにバラバラとスクラップ片の雨が降り注いだ。
「キャーーキャーー!!」
うずくまったままパニックになっていると、誰かが側に降り立ち、頭の上で素早く空を切る音と、リズミカルにいくつもの硬いものが弾き飛ばされる音がする。
何がなんだかわからないでいると、いつの間にか音は止み、大丈夫か、という声と共に手が差し伸べられた。
「は、はひ…」
目を回しながらどうにかその手に掴まると、ぐんと強い力で引き上げられた。
「安全な場所へ…離れていてください」
そう言ってナマエを後ろの人垣へ押しやった青年は、まだ若くただの学生のようにも見えたが、シャツの袖からは筋肉質な右腕が伸び、その手は腰に下げた日本刀の柄にかかっている。
そしてもう片方の袖に目を留め、その先に何も無いのを見てナマエは瞠目した。
(隻腕…!?)
突如現れた闖入者に周囲の人々が呆気に取られていると、先ほどのダメージから立ち直った怪人が青年に向き直り睨み付けた。
「いきなり出てきてなんだ貴様…不作法な奴だな、教育する価値もないわ!
俺の真の力を見せてやる!集え、打ち捨てられた自転車達よ!!」
号令に合わせて、近辺の自転車が磁石のように怪人の体にぶつかり、取り込まれていく。
どこかで「俺のチャリがー!」という悲鳴が上がっている辺り、ちゃんと持ち主がいるものも含まれているようだがお構いなしである。
「圧縮圧縮!それ圧縮!硬度100万倍だああ」
失くした腕も元に戻り、怪人の体は先ほどより一回り大きくなっている。そればかりかギシギシと凝縮されていく金属の塊は、その頑丈さも増しているようだった。
捕らえられた少年はもう声も出ない様子で青ざめている。
「ウハハハハどうだぁ!この違法駐輪車ボディは並大抵のことでは傷つかんぞ!そんなチンケな刀は通用すまい!」
「ならば試してみるか」
怪人の自信満々な様子にも青年は動じず、刀の柄に手をかけて構えている。
「片腕でどこまでやれるのか、力量を測ってみたかったところだ」
(ちょっ…そんな挑発するようなこと言ったら…)
青年は冷静な面持ちを崩さないが、一方見守るナマエは一人冷や汗をかいていた。
かなり腕は立つようだが、武器といえば刀一本、防具らしいものもなく、しかも隻腕の青年が怪人と対峙する姿は、ひどく危なっかしく見える。
おそるおそる怪人の様子を窺うと、思った通り出鼻を挫かれた怪人は、上機嫌から一転激昂し始めた。
「貴っ様…!もう許さんぞ!タイヤチェーンの錆にしてくれるわ!!」
(ほらぁーー!!)
心の中で頭を抱えるナマエの眼の前で、怪人が復活したばかりの金属の腕を振り上げた。
――駄目…!あのお兄さん死んじゃう!
自分がヘタこいて死にかけたのを助けに入ったばかりに。
お願い逃げて、と祈りながら目を逸らそうとした寸前、視界の隅で何かがキラリと光った。
それが青年の抜いた刃だと認識する暇もなく、目にも止まらない速さで怪人の体が縦横無尽に斬り裂かれる。そして一瞬の間を置いて怪人の咆哮があがった。
「ウハハハ死ぬが良いわ……んなっ!?ああがあああああ!!」
茫然と見上げる先で、怪人がバラバラと崩れ落ちていく。
それに伴って宙に放り出された少年を、既に納刀した剣士の青年が片腕で受け止めた。
「君、怪我はないか?」
少年も一瞬の間に何が起こったのか理解できない様子で、頷きながら目をぱちくりさせている。
その側で鉄くずの塊と化した怪人が呻いている。
「ば…かな…何という斬撃……無念…」
断末魔と共に点灯していたライトが消え、怪人だったものは完全に沈黙した。
とそこへ、コスチュームを着た一団が駆け付けた。プロヒーローらしき彼らは、それぞれ武器を手に意気込んでいたが、現場の光景を見てポカンと口を開けている。
少年を母親のところへ返した青年は、その集団を見るとどこかせわしない様子で駆け寄った。
「すまん、後の対応を頼めるか?」
「え?ああ、はい…」
何が何だかという表情をしているヒーロー達を後目に、青年は携帯を取り出して電話しながら駆け出した。「…もしもし?すみません師匠、ちょっとトラブルがありまして…」となにやら電話相手に謝りながら去っていく。
一連の流れの間停止していたナマエの思考は、状況を把握するにつれ、徐々に回転し始めた。
たった一瞬で、刀一本で、彼は事態を収束させ自分と子どもを救出してみせた。
(すっっご…!!)
雷に打たれたような感動と共に妙なスイッチが入ったナマエは、怪我人がいないか確認しているヒーロー達の元へ衝動のままに走った。
「あっあのすみません!!今の人って誰ですか!?」
「おわっ!なんだぁ」
いきなり現れたナマエの勢いに、一番近くにいたヒーローは目を白黒させている。
コスチュームは着ていなかったが、彼らを見知った様子だったので、恐らく剣士の青年もヒーロー関係者に違いない。
目をキラキラさせたナマエに迫られのけぞっているヒーローの傍らで、別のヒーローがちょっと考えた後で口を開いた。
「…鎧着てないからパッと見わかんなかったけど、あれイアイアンじゃないか?」
「あ、ああそうだ!左腕が無かったもんな」
イアイアン。
彼に繋がる手掛かりを得て、心の中でガッツポーズをとる。
そしてナマエの胸には、先ほどからずっと渦巻いていた、あるひとつの望みが結実しつつあった。
(ぜったい、あの人の記事を書きたい!)
思い立ったら吉日だ。
そうと来れば次に向かう先は決まっている。
「ありがとうございますー!」と言い残して嵐のように去っていくナマエを、ヒーロー達は呆気に取られて見つめていた。
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