Dear my sister
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※ヒーロー協会の職員設定
※職員の仕事内容を想像で書いていますが、激しく適当です
※友情夢というほど仲良くもならないような…一応デレはあります
あっ、と思った時には、もう遅かった。
履き慣れないヒール、やけにツルツルする床、前が見えない程のファイルの束。
いくつもの原因が重なって、躓いたナマエの手からファイルが落ち、通路に散らばった。
大変。どうしよう。
思考回路はどんどん焦りに支配されていくのに、ナマエはあわあわと手を泳がせて、まごついていた。
こういうところが『要領が悪い』って言われる原因なんだ、と余計なことまで頭に浮かんでくる。
哀しくなりながら、手近に落ちた一冊を拾い上げようとした時だった。
「えっ…」
ファイルがふわり、と宙に浮き上がった。
目の前で起きた超常現象に呆気にとられ、立ち尽くす。
「えっ、ええ…!?」
ナマエが拾おうとした一冊だけではない。
気がつけば、落としたファイル全てがその場に浮遊していた。
ネオンライトのようなぼうっとした緑色の光に包まれたファイルの群れは、整頓されて綺麗に重なり、驚いて固まっているナマエのところまでゆっくりと降りてきた。
「わ、」
慌てて手を差し出すと、緑色の輝きは消え、その途端にドサッとファイルの重みが伝わってきた。
まるで時間を巻き戻したかのように、ファイルの束は元通りナマエの腕の中に収まっていた。
魔法にかけられたようにナマエが動けずにいると、ちょっと、と鋭い声が後ろから飛んできた。
弾かれたように振り向くと、鮮やかなエメラルドグリーンがこちらを睨み付けていた。
腰に両手を当てて仏頂面をしている少女は、地面に足をつけて背比べをしてみればナマエよりも小さいだろうと思われたが、今は少し高い位置からこちらを見下ろしている。
(浮いてる…)
万有引力を無視してふわふわと漂う少女は、お人形のような顔立ちに不機嫌な表情を張り付けて言った。
「通行のジャマよ。ぼさっと突っ立ってないで早く退きなさい」
体格に見合わない押しの強さに気圧されながら、ナマエは目の前の人物の名前、そして、ヒーロー協会に初出勤した日に、神妙な顔をした先輩に教えられた『要注意人物』の話を思い出していた。
(──“戦慄のタツマキ”さん)
ヒーロー協会で生きていく上で、絶対に怒らせてはいけない人間。
超強力なサイコキネシスを操る、協会が擁する最高戦力の一人。
俺は奴が10トントラックを小石のように持ち上げたのを見たことがある、君子危うきに近づかずだ、と青ざめていた先輩の言葉を回想し、ナマエはハッとなった。
(さっきの…!)
初めて目の当たりにしたそれは、何が起きたのかさっぱりわからなかったが、彼女の超能力によるものに違いなかった。
拾ってくれたのだ。タツマキさんが。怒らせてはいけない人が。
いろいろな情報が頭を錯綜し、こんがらがりそうになりながら、ナマエは今すべきことを考えた。
御礼だ。ファイルを拾ってくれた御礼を言わなくっちゃ。
「…あっ」
まずい。取りあえずで口を開いたら、意味のない音を発してしまった。
緊張で心臓がドクドクと鳴る。
「あっ、あの、ありが……あっ!」
慌てて頭を下げたはずみに、ファイルに挟まっていた書類が抜け落ち、ヒラヒラと舞い落ちていく。
ナマエはサッと青くなった。
せっかく拾ってもらったのに、また落としてしまった。
絶対機嫌を損ねるなよ、という忠告がよみがえる。
どうしよう。
自分も10トントラックのように、持ち上げられてしまうのだろうか。
いや、自分はトラックよりも遥かに軽いのだから、空高く宇宙まで飛ばされてしまうのかもしれない。
いろいろな悪い想像が浮かんでは消えていく。
しかし、タツマキが次にとった行動は、ナマエの予想に反して極めて穏便なものだった。
「まったく、何やってんのよ…どんくさい子ね」
つい、と人差し指を滑らせ、床に着地する寸前だった書類を見えざる力で拾い上げながら、タツマキは呆れたように言った。
先ほどよりも柔らかな物言いに、不意に離れて暮らす姉の顔が思い浮かんだ。
目を瞬いていると、タツマキは手に取った書類を見て、何かに気づいたような顔をした。
「あんた管理部の職員なの?」
配属されて間もない部署名に頷くと、タツマキはそう、と短く返し、懐から新たに書類を取り出して、拾ったものと重ねてナマエに渡した。
「ちょうど提出しにいくところだったから手間が省けたわ」
ナマエの直属の上司の名前を言い、彼女に伝えればわかるから、とだけ告げると、タツマキはふわりと身を翻して、泳ぐように去っていってしまった。
残されたナマエは、煙に巻かれたような心地でいたが、お使いの途中だったことを思い出して、慌てて自分のオフィスへ向かった。
また躓かないように足元に注意していたので、御礼を言いそびれたことには気付かず終いだった。
「すみません、遅くなりました」
「あ、ナマエさんありがとう…ってすごい量ね、大丈夫だった?」
無事オフィスまでたどり着くと、用を頼んだ女性上司はファイルの量に驚いた顔をした。
「去年下半期のD市の災害現場記録ですよね、たくさんあるから時間がかかっちゃって…」
ナマエが息をつきながら荷物を置くと、彼女はあら、と声をあげた。
「市ごとに分類してあるの言ってなかったかしら」
ほらこの背表紙のところ、と示された部分を見ると、確かにそれらしい記号が記載されていた。
それに気付かず、全域の現場記録を持ってきてしまったのだった。
「ご、ごめん…ちゃんと言っておけば良かったわね」
すまなそうな声を聞きながら、ナマエはがっくりと肩を落とした。
自分のポンコツさに落ち込んでしまう。
その時、重ねたファイルの上から、かさりと書類が落ちた。
「あっ」
タツマキから預かったのを思い出し、忘れないように手渡した。
「これ、タツマキさんからです。さっきそこで出会って、ついでに提出してほしいと言われました」
「タツマキさんが?」
書類を受け取った彼女は、しばらく紙面を確認していた後、微妙な笑みを浮かべた。
「これは…彼女、妹思いなのね」
「妹さん、がいるんですか?」
先ほど垣間見た、タツマキの意外な面倒見良さを思い出しながらそう尋ねると、上司は我に返り言った。
「ああ、そうだわ。良い機会だからこの書式についてもついでに説明するわね」
手招きされ、彼女のデスクまで椅子を移動する。
「これはね、ヒーローが関与した案件に応じて割り振られるポイントについて、異義や変更を申請するものなの」
頷きながら紙面を確認すると、先日発生した災害レベル鬼の怪人災害の件が書かれている。
確かタツマキが駆け付けてすぐに駆除し、市街地にも関わらず死傷者は出なかった筈だ。
「大抵は自分の功績がちゃんと評価されていない時なんかに申請するんだけど、これは逆ね。ほらここのところ。フブキ組を対象に、彼女のポイントを一部振り替えるようにとなってるでしょ」
ランキングに反映するポイントは、人気や解決した事件の重要度などに応じて査定されている。
どういう理由でこのポイントなのかといった内訳は、所属のヒーローなら誰でも照会できるようになっているが、時折こういったイレギュラーがあり、それらの事務対応をするのも、ナマエ達裏方の仕事だった。
これから覚えていかなければならない事柄に、メモをとりながらふんふんと頷いていたナマエは、フブキ組、ときいて先ほどの疑問を思い出した。
「タツマキさんの妹さんは、フブキ組にいるんですか?」
ナマエの朴訥とした質問に、上司は小さく笑いながら答えた。
「あら、フブキ組どころか、彼女の妹は“地獄のフブキ”その人よ。意外と知られていないのね」
「えっ」
“地獄のフブキ”はこれまた『要注意人物』として教えられた内の一人だった。
職員には直接被害はないが、強引な勧誘や新人潰しをしているとの噂もあり、なるべく関わらない方が良い、という言葉と共に、周りを黒スーツの集団に囲まれた優雅なドレス姿を思い出す。
タツマキさんの妹にしては少し大人過ぎるような…と首を傾げるナマエを余所に説明は続く。
「申告はなかったようだけど、この時の現場で、フブキ組が市民の誘導にあたっていたみたいね。
倒壊しかけた建物に残された市民の救助…これは十分な手柄と言えるから、ポイントを付与すべきということね。
街頭カメラの映像や市民の証言から裏が取れれば、査定会議の方で承認が下りると思うわ。
これは最近のものだけど、過去の案件の場合は、さっき資料庫から持ってきてもらったみたいに、現場記録を確認することもあるの」
ナマエにそう説明しながら、上司は微かな引っかかりを覚えていた。
勢力の拡大を目指し、ランキングに固執しているフブキ組が、明らかな手柄の申告を疎かにしたのは違和感がある。
たまたま忘れていたという可能性もあるけれど、と彼女が疑問に思う一方、ナマエは『妹思い』の意味をやっと理解していた。
(…私のお姉ちゃんと一緒だ)
タツマキの印象が、ふたたび自分の姉とオーバーラップし、ナマエは口元を緩めた。
自分と違って、昔から勉強もスポーツもできた姉は、ナマエの自慢であり憧れだった。
何でもできるのにそれを鼻にかけたりせず、ナマエだってできるよ、こんなに頑張ってるんだから、といつも勇気づけてくれた。
怪人災害が増加する中、治安維持に関わる仕事に就くことを希望していたが、姉が学校を出た頃はまだヒーロー協会も設立されておらず、包括政府の軍に入隊し、今も寮で暮らしている。
そんな姉に近づきたくて、ナマエはヒーロー協会に就職すると決めたのだった。
あんたは昔っからどんくさいんだからそんな大変な仕事は止めときなさい、と両親は反対したが、姉だけは応援してくれた。
よく決心したね、きっとナマエならできるよ、とナマエの選択を認めてくれた。
その励ましもあって、どうにか今ここで働いている。
(タツマキさんも、きっと優しいお姉ちゃんなんだ)
クセの強いヒーロー達に怖じ気づいていたナマエは、この日初めて、彼らのことを少しだけ近くに感じられた気がした。
※職員の仕事内容を想像で書いていますが、激しく適当です
※友情夢というほど仲良くもならないような…一応デレはあります
あっ、と思った時には、もう遅かった。
履き慣れないヒール、やけにツルツルする床、前が見えない程のファイルの束。
いくつもの原因が重なって、躓いたナマエの手からファイルが落ち、通路に散らばった。
大変。どうしよう。
思考回路はどんどん焦りに支配されていくのに、ナマエはあわあわと手を泳がせて、まごついていた。
こういうところが『要領が悪い』って言われる原因なんだ、と余計なことまで頭に浮かんでくる。
哀しくなりながら、手近に落ちた一冊を拾い上げようとした時だった。
「えっ…」
ファイルがふわり、と宙に浮き上がった。
目の前で起きた超常現象に呆気にとられ、立ち尽くす。
「えっ、ええ…!?」
ナマエが拾おうとした一冊だけではない。
気がつけば、落としたファイル全てがその場に浮遊していた。
ネオンライトのようなぼうっとした緑色の光に包まれたファイルの群れは、整頓されて綺麗に重なり、驚いて固まっているナマエのところまでゆっくりと降りてきた。
「わ、」
慌てて手を差し出すと、緑色の輝きは消え、その途端にドサッとファイルの重みが伝わってきた。
まるで時間を巻き戻したかのように、ファイルの束は元通りナマエの腕の中に収まっていた。
魔法にかけられたようにナマエが動けずにいると、ちょっと、と鋭い声が後ろから飛んできた。
弾かれたように振り向くと、鮮やかなエメラルドグリーンがこちらを睨み付けていた。
腰に両手を当てて仏頂面をしている少女は、地面に足をつけて背比べをしてみればナマエよりも小さいだろうと思われたが、今は少し高い位置からこちらを見下ろしている。
(浮いてる…)
万有引力を無視してふわふわと漂う少女は、お人形のような顔立ちに不機嫌な表情を張り付けて言った。
「通行のジャマよ。ぼさっと突っ立ってないで早く退きなさい」
体格に見合わない押しの強さに気圧されながら、ナマエは目の前の人物の名前、そして、ヒーロー協会に初出勤した日に、神妙な顔をした先輩に教えられた『要注意人物』の話を思い出していた。
(──“戦慄のタツマキ”さん)
ヒーロー協会で生きていく上で、絶対に怒らせてはいけない人間。
超強力なサイコキネシスを操る、協会が擁する最高戦力の一人。
俺は奴が10トントラックを小石のように持ち上げたのを見たことがある、君子危うきに近づかずだ、と青ざめていた先輩の言葉を回想し、ナマエはハッとなった。
(さっきの…!)
初めて目の当たりにしたそれは、何が起きたのかさっぱりわからなかったが、彼女の超能力によるものに違いなかった。
拾ってくれたのだ。タツマキさんが。怒らせてはいけない人が。
いろいろな情報が頭を錯綜し、こんがらがりそうになりながら、ナマエは今すべきことを考えた。
御礼だ。ファイルを拾ってくれた御礼を言わなくっちゃ。
「…あっ」
まずい。取りあえずで口を開いたら、意味のない音を発してしまった。
緊張で心臓がドクドクと鳴る。
「あっ、あの、ありが……あっ!」
慌てて頭を下げたはずみに、ファイルに挟まっていた書類が抜け落ち、ヒラヒラと舞い落ちていく。
ナマエはサッと青くなった。
せっかく拾ってもらったのに、また落としてしまった。
絶対機嫌を損ねるなよ、という忠告がよみがえる。
どうしよう。
自分も10トントラックのように、持ち上げられてしまうのだろうか。
いや、自分はトラックよりも遥かに軽いのだから、空高く宇宙まで飛ばされてしまうのかもしれない。
いろいろな悪い想像が浮かんでは消えていく。
しかし、タツマキが次にとった行動は、ナマエの予想に反して極めて穏便なものだった。
「まったく、何やってんのよ…どんくさい子ね」
つい、と人差し指を滑らせ、床に着地する寸前だった書類を見えざる力で拾い上げながら、タツマキは呆れたように言った。
先ほどよりも柔らかな物言いに、不意に離れて暮らす姉の顔が思い浮かんだ。
目を瞬いていると、タツマキは手に取った書類を見て、何かに気づいたような顔をした。
「あんた管理部の職員なの?」
配属されて間もない部署名に頷くと、タツマキはそう、と短く返し、懐から新たに書類を取り出して、拾ったものと重ねてナマエに渡した。
「ちょうど提出しにいくところだったから手間が省けたわ」
ナマエの直属の上司の名前を言い、彼女に伝えればわかるから、とだけ告げると、タツマキはふわりと身を翻して、泳ぐように去っていってしまった。
残されたナマエは、煙に巻かれたような心地でいたが、お使いの途中だったことを思い出して、慌てて自分のオフィスへ向かった。
また躓かないように足元に注意していたので、御礼を言いそびれたことには気付かず終いだった。
「すみません、遅くなりました」
「あ、ナマエさんありがとう…ってすごい量ね、大丈夫だった?」
無事オフィスまでたどり着くと、用を頼んだ女性上司はファイルの量に驚いた顔をした。
「去年下半期のD市の災害現場記録ですよね、たくさんあるから時間がかかっちゃって…」
ナマエが息をつきながら荷物を置くと、彼女はあら、と声をあげた。
「市ごとに分類してあるの言ってなかったかしら」
ほらこの背表紙のところ、と示された部分を見ると、確かにそれらしい記号が記載されていた。
それに気付かず、全域の現場記録を持ってきてしまったのだった。
「ご、ごめん…ちゃんと言っておけば良かったわね」
すまなそうな声を聞きながら、ナマエはがっくりと肩を落とした。
自分のポンコツさに落ち込んでしまう。
その時、重ねたファイルの上から、かさりと書類が落ちた。
「あっ」
タツマキから預かったのを思い出し、忘れないように手渡した。
「これ、タツマキさんからです。さっきそこで出会って、ついでに提出してほしいと言われました」
「タツマキさんが?」
書類を受け取った彼女は、しばらく紙面を確認していた後、微妙な笑みを浮かべた。
「これは…彼女、妹思いなのね」
「妹さん、がいるんですか?」
先ほど垣間見た、タツマキの意外な面倒見良さを思い出しながらそう尋ねると、上司は我に返り言った。
「ああ、そうだわ。良い機会だからこの書式についてもついでに説明するわね」
手招きされ、彼女のデスクまで椅子を移動する。
「これはね、ヒーローが関与した案件に応じて割り振られるポイントについて、異義や変更を申請するものなの」
頷きながら紙面を確認すると、先日発生した災害レベル鬼の怪人災害の件が書かれている。
確かタツマキが駆け付けてすぐに駆除し、市街地にも関わらず死傷者は出なかった筈だ。
「大抵は自分の功績がちゃんと評価されていない時なんかに申請するんだけど、これは逆ね。ほらここのところ。フブキ組を対象に、彼女のポイントを一部振り替えるようにとなってるでしょ」
ランキングに反映するポイントは、人気や解決した事件の重要度などに応じて査定されている。
どういう理由でこのポイントなのかといった内訳は、所属のヒーローなら誰でも照会できるようになっているが、時折こういったイレギュラーがあり、それらの事務対応をするのも、ナマエ達裏方の仕事だった。
これから覚えていかなければならない事柄に、メモをとりながらふんふんと頷いていたナマエは、フブキ組、ときいて先ほどの疑問を思い出した。
「タツマキさんの妹さんは、フブキ組にいるんですか?」
ナマエの朴訥とした質問に、上司は小さく笑いながら答えた。
「あら、フブキ組どころか、彼女の妹は“地獄のフブキ”その人よ。意外と知られていないのね」
「えっ」
“地獄のフブキ”はこれまた『要注意人物』として教えられた内の一人だった。
職員には直接被害はないが、強引な勧誘や新人潰しをしているとの噂もあり、なるべく関わらない方が良い、という言葉と共に、周りを黒スーツの集団に囲まれた優雅なドレス姿を思い出す。
タツマキさんの妹にしては少し大人過ぎるような…と首を傾げるナマエを余所に説明は続く。
「申告はなかったようだけど、この時の現場で、フブキ組が市民の誘導にあたっていたみたいね。
倒壊しかけた建物に残された市民の救助…これは十分な手柄と言えるから、ポイントを付与すべきということね。
街頭カメラの映像や市民の証言から裏が取れれば、査定会議の方で承認が下りると思うわ。
これは最近のものだけど、過去の案件の場合は、さっき資料庫から持ってきてもらったみたいに、現場記録を確認することもあるの」
ナマエにそう説明しながら、上司は微かな引っかかりを覚えていた。
勢力の拡大を目指し、ランキングに固執しているフブキ組が、明らかな手柄の申告を疎かにしたのは違和感がある。
たまたま忘れていたという可能性もあるけれど、と彼女が疑問に思う一方、ナマエは『妹思い』の意味をやっと理解していた。
(…私のお姉ちゃんと一緒だ)
タツマキの印象が、ふたたび自分の姉とオーバーラップし、ナマエは口元を緩めた。
自分と違って、昔から勉強もスポーツもできた姉は、ナマエの自慢であり憧れだった。
何でもできるのにそれを鼻にかけたりせず、ナマエだってできるよ、こんなに頑張ってるんだから、といつも勇気づけてくれた。
怪人災害が増加する中、治安維持に関わる仕事に就くことを希望していたが、姉が学校を出た頃はまだヒーロー協会も設立されておらず、包括政府の軍に入隊し、今も寮で暮らしている。
そんな姉に近づきたくて、ナマエはヒーロー協会に就職すると決めたのだった。
あんたは昔っからどんくさいんだからそんな大変な仕事は止めときなさい、と両親は反対したが、姉だけは応援してくれた。
よく決心したね、きっとナマエならできるよ、とナマエの選択を認めてくれた。
その励ましもあって、どうにか今ここで働いている。
(タツマキさんも、きっと優しいお姉ちゃんなんだ)
クセの強いヒーロー達に怖じ気づいていたナマエは、この日初めて、彼らのことを少しだけ近くに感じられた気がした。
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