ゾンビマンさんはなんでもできる
空欄の場合は ミョウジ ナマエ になります。
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※生理ネタです
「ふぅ…くたびれたな」
夜道を家へと急ぎながら、ゾンビマンはスマホの画面を確認した。
この分だと日付けが変わる前に家に着くだろう。
今回は汚染区域の調査だったが、地下道をいく途中で集団で生活する妙な生き物の巣に入り込んでしまい、突破するのに手こずった。
圏外だったのでずっとナマエにも連絡は取れず、また突然帰宅することになってしまった。
送ったメッセージは未読のままだ。
この時間なら家には帰っていると思うが、疲れて通知に気付かず寝てしまったのかもしれない。
そう思いながら、マンションのエントランスを抜けて自室へ向かう。
玄関ドアを開けると、部屋の電気は点いているが物音はせずしんとしていた。
寝る準備をする余裕もなく寝落ちしてしまったのだろうか。
リビングに放置されたままの通勤カバンと上着を拾っていると、不意に寝室の方からうめき声のようなものが聞こえた。
「ナマエ?」
すぐさま立ち上がって寝室の扉を開けると、フロアライトに照らされた布団が小さく盛り上がっており、うめき声はそこから聞こえていた。
「ううう~…」
ゾンビマンは血相を変えて電気を点け、ベッドをのぞき込んだ。
「どうした、具合が悪いのか」
ナマエは問いかけにも答えず、断続的に呻っている。
顔色も血の気がなく青白い。
苦しげなその様子にゾンビマンは眉根を寄せた。
普段が健康なのでうっかりしていたが、ナマエはごく普通の人間だ。
会社にこき使われる毎日で、体調を崩すこともあるだろう。
仕事だったからしかたないとはいえ、それに気付かず傍にも居てやれなかったことをゾンビマンは悔やんだ。
「どこが痛いんだ。どれくらい痛む。病院へ行くか」
枕もとにしゃがみ込み乱れた髪を撫でていると、ナマエが袖を引っ張り何か伝えようとしている。
「ち、違い、ます…つうです、うう」
「ん?何だって」
よくきこえず耳を近づけると、ナマエは苦しげな息のもと繰り返した。
「病気じゃ、ないんです…せいり、つうです」
「何…」
生理痛。月経。
またしても「痛、痛…!」とうめきながら悶え苦しむナマエを前に、ようやく言葉の意味を理解したゾンビマンは、重大な病気ではなかったことにひとまず胸を撫で下ろした。
しかし、この痛がりようはどうしたことだろう。
月に一度のこととあって、生理に伴う身体的不調があるのだということは理解していたつもりだが、腹痛があってもじっと横になって体を休めているくらいで、ここまで激しく痛がることはなかった。
そう思って尋ねてみると、最近仕事が忙しくて気がついたらソファで寝てしまっていたり、一昨日むしゃくしゃすることがあってお菓子をやけ食いしたのが原因かもしれない、と途切れ途切れに答えた。
「なるほど…」
その時々のコンディションによって症状が変化するものらしい。
なかなかに厄介だ、と思っているとナマエが再び何か伝えようとしているのに気付いた。
「あの、」
「何だ、なにか欲しいものがあるか」
のぞき込むと、ナマエは顔を顰めながら「あの、ゾンビマンさんって、」と前置きした。
「生理でお腹が痛いのも、不死身の力で治るんですか…?」
その眼は真剣だった。
――錯乱している
衝撃を押し隠してどうにかゾンビマンは答えた。
「いや…なったことがないからわからないな…」
その答えも聞いているのかいないのか、ナマエは「そうですか…」となおざりな反応をしたっきりウウウと呻っている。
痛みのあまり正常な思考ができなくなっている。
事態は思ったより深刻なようだった。
ゾンビマンは速やかにスマホのウェブブラウザを開き、該当しそうなキーワードを入れ、自分には無縁の身体症状についてざっと調べた。
(冷えによって血行が悪化し、痛みの原因物質が増加…精神的なストレスや偏った食事も症状を悪化させる要因になる、か)
兎にも角にも体を温めて血行を良くすることだ。
力なく転がっているナマエを振り返る。
「ナマエ、風呂には入ったか」
「もう良いです…朝にシャワーするから…」
「駄目だ、そんなことをしたらまた体が冷えてしまう」
風呂場へダッシュし湯を沸かす。たちくらみ防止の為ぬるめに設定することも忘れない。
それと並行して食事の準備だ。
冷蔵庫を開け、さっき調べた「生理中に摂りたい食べもの」という項目と中身を照合していく。
「豆腐…それとほうれん草と人参の残りも使えるな」
調理をしているとお風呂が沸いたアラームが鳴ったので、ナマエを起こしにいく。
「ほら、風呂に入れ。温まるぞ」
「うーん…」
どうにか風呂場へ送り込んだ後、豆腐と野菜とエノキなどの残り物スープ、ほうれん草とナッツ(酒のつまみ用だった)とツナ缶の和え物を作る。
いろいろ不備はあるが、まあ食べられるレベルではあるだろう。
味をみていると、ナマエが風呂から上がってきた。
痛みはずいぶんマシになったようで、食卓に関心を示す余裕を見せている。
「あっ晩ごはん…」
「食べてないだろう。貧血になるから食えるものだけでも食った方が良いぞ」
髪をドライヤーで乾かしてやり、食卓につくと相変わらず元気はないながらも、ちびちびとスープを掬っている。
自分も食べながらその様子に安心していると、ナマエが何やら沈んだ表情で口を開いた。
「あの、ゾンビマンさん」
「何だ」
「あの…湯船のお湯が汚れたから流してしまって」
「お湯?ああ」
なんだそんなことか、と軽い調子で答える。
「もう一度沸かせば良いさ。いや、面倒だから俺はシャワーにするかな」
殊更明るく言ったのだが、突然ナマエはぽろぽろと涙を流し始めた。
「おいおい、どうしたんだ。何が悲しいんだ」
テーブルを回り込んで寄り添うも、ナマエはさめざめと泣き続けている。
今のやり取りのどこかまずかっただろうか。
思い返してもさっぱりわからない。
内心首を捻りながらティッシュで涙を拭いていると、ナマエは啜り泣きながら話し始めた。
「私、最近家のこともほったらかしで、体調管理もできなくて、お菓子もやけ食いしてしまうし…それに比べてゾンビマンさんは何でもできるし」
どうやらコンプレックスが爆発してしまったらしい。
普段ならそんなことで泣きはしないナマエだが、ホルモンバランスの急激な変化により情緒不安定になりやすい、とさっきちらっと読んだのをゾンビマン思い出した。恐らくそれだろう。
「ゾンビマンさんはかっこいいし、優しいし、何でもできるし、トレンチコートがよく似合うし、おでこが可愛いし…」
だんだん焦点がズレてきた訴えにうんうんと耳を傾けながら背中を撫でる。
「誰にでも調子の悪い時はある。それでもなんとか仕事には行ってるんだろ、よく頑張ってるじゃないか」
「でも、」
「俺だってぜんぜん完璧な人間じゃない。嫌なことがあればやけ酒くらいしたくなるさ。お前に怒られるからしないけどな」
そう冗談めかして言うと、ナマエは泣き顔のまま噴き出した。
そして涙を拭い勢いよく鼻をかむと、ようやくぎこちなく微笑んだ。
「やっぱりゾンビマンさんはなんでもできてすごいです」
「そうか。まぁ買い被られて悪い気はしないな」
「ふふ…」
落ち着いたナマエは少量ながら晩ごはんをしっかり食べると、すぐさまうとうととし始めた。
寝る準備をしベッドに潜ったナマエに、湯たんぽを用意して持っていく。
「腹や腰を温めると痛みが和らぐらしいぞ」
「ありがとうございます」
頷いて湯たんぽを布団に引き入れたナマエは、もう寝そうになっている。
半分閉じた目で傍らに佇むゾンビマンを見上げた。
「ゾンビマンさん…ゾンビマンさんが生理でお腹痛になった時は…私が看病しますからね…」
「そうか…ありがとう」
まだ一部思考が混乱しているらしい。
心配にはなったが寝入りばなの恋人に突っ込みをいれるわけにもいかず、気持ちだけなら嬉しいその発言をゾンビマンは無の境地で受け取った。
翌朝、顔色の良くなったナマエがハタと気付いたように「よく考えたらゾンビマンさんに生理はありませんね…」と言うのを聞いて、心の底から安堵したゾンビマンだった。
「ふぅ…くたびれたな」
夜道を家へと急ぎながら、ゾンビマンはスマホの画面を確認した。
この分だと日付けが変わる前に家に着くだろう。
今回は汚染区域の調査だったが、地下道をいく途中で集団で生活する妙な生き物の巣に入り込んでしまい、突破するのに手こずった。
圏外だったのでずっとナマエにも連絡は取れず、また突然帰宅することになってしまった。
送ったメッセージは未読のままだ。
この時間なら家には帰っていると思うが、疲れて通知に気付かず寝てしまったのかもしれない。
そう思いながら、マンションのエントランスを抜けて自室へ向かう。
玄関ドアを開けると、部屋の電気は点いているが物音はせずしんとしていた。
寝る準備をする余裕もなく寝落ちしてしまったのだろうか。
リビングに放置されたままの通勤カバンと上着を拾っていると、不意に寝室の方からうめき声のようなものが聞こえた。
「ナマエ?」
すぐさま立ち上がって寝室の扉を開けると、フロアライトに照らされた布団が小さく盛り上がっており、うめき声はそこから聞こえていた。
「ううう~…」
ゾンビマンは血相を変えて電気を点け、ベッドをのぞき込んだ。
「どうした、具合が悪いのか」
ナマエは問いかけにも答えず、断続的に呻っている。
顔色も血の気がなく青白い。
苦しげなその様子にゾンビマンは眉根を寄せた。
普段が健康なのでうっかりしていたが、ナマエはごく普通の人間だ。
会社にこき使われる毎日で、体調を崩すこともあるだろう。
仕事だったからしかたないとはいえ、それに気付かず傍にも居てやれなかったことをゾンビマンは悔やんだ。
「どこが痛いんだ。どれくらい痛む。病院へ行くか」
枕もとにしゃがみ込み乱れた髪を撫でていると、ナマエが袖を引っ張り何か伝えようとしている。
「ち、違い、ます…つうです、うう」
「ん?何だって」
よくきこえず耳を近づけると、ナマエは苦しげな息のもと繰り返した。
「病気じゃ、ないんです…せいり、つうです」
「何…」
生理痛。月経。
またしても「痛、痛…!」とうめきながら悶え苦しむナマエを前に、ようやく言葉の意味を理解したゾンビマンは、重大な病気ではなかったことにひとまず胸を撫で下ろした。
しかし、この痛がりようはどうしたことだろう。
月に一度のこととあって、生理に伴う身体的不調があるのだということは理解していたつもりだが、腹痛があってもじっと横になって体を休めているくらいで、ここまで激しく痛がることはなかった。
そう思って尋ねてみると、最近仕事が忙しくて気がついたらソファで寝てしまっていたり、一昨日むしゃくしゃすることがあってお菓子をやけ食いしたのが原因かもしれない、と途切れ途切れに答えた。
「なるほど…」
その時々のコンディションによって症状が変化するものらしい。
なかなかに厄介だ、と思っているとナマエが再び何か伝えようとしているのに気付いた。
「あの、」
「何だ、なにか欲しいものがあるか」
のぞき込むと、ナマエは顔を顰めながら「あの、ゾンビマンさんって、」と前置きした。
「生理でお腹が痛いのも、不死身の力で治るんですか…?」
その眼は真剣だった。
――錯乱している
衝撃を押し隠してどうにかゾンビマンは答えた。
「いや…なったことがないからわからないな…」
その答えも聞いているのかいないのか、ナマエは「そうですか…」となおざりな反応をしたっきりウウウと呻っている。
痛みのあまり正常な思考ができなくなっている。
事態は思ったより深刻なようだった。
ゾンビマンは速やかにスマホのウェブブラウザを開き、該当しそうなキーワードを入れ、自分には無縁の身体症状についてざっと調べた。
(冷えによって血行が悪化し、痛みの原因物質が増加…精神的なストレスや偏った食事も症状を悪化させる要因になる、か)
兎にも角にも体を温めて血行を良くすることだ。
力なく転がっているナマエを振り返る。
「ナマエ、風呂には入ったか」
「もう良いです…朝にシャワーするから…」
「駄目だ、そんなことをしたらまた体が冷えてしまう」
風呂場へダッシュし湯を沸かす。たちくらみ防止の為ぬるめに設定することも忘れない。
それと並行して食事の準備だ。
冷蔵庫を開け、さっき調べた「生理中に摂りたい食べもの」という項目と中身を照合していく。
「豆腐…それとほうれん草と人参の残りも使えるな」
調理をしているとお風呂が沸いたアラームが鳴ったので、ナマエを起こしにいく。
「ほら、風呂に入れ。温まるぞ」
「うーん…」
どうにか風呂場へ送り込んだ後、豆腐と野菜とエノキなどの残り物スープ、ほうれん草とナッツ(酒のつまみ用だった)とツナ缶の和え物を作る。
いろいろ不備はあるが、まあ食べられるレベルではあるだろう。
味をみていると、ナマエが風呂から上がってきた。
痛みはずいぶんマシになったようで、食卓に関心を示す余裕を見せている。
「あっ晩ごはん…」
「食べてないだろう。貧血になるから食えるものだけでも食った方が良いぞ」
髪をドライヤーで乾かしてやり、食卓につくと相変わらず元気はないながらも、ちびちびとスープを掬っている。
自分も食べながらその様子に安心していると、ナマエが何やら沈んだ表情で口を開いた。
「あの、ゾンビマンさん」
「何だ」
「あの…湯船のお湯が汚れたから流してしまって」
「お湯?ああ」
なんだそんなことか、と軽い調子で答える。
「もう一度沸かせば良いさ。いや、面倒だから俺はシャワーにするかな」
殊更明るく言ったのだが、突然ナマエはぽろぽろと涙を流し始めた。
「おいおい、どうしたんだ。何が悲しいんだ」
テーブルを回り込んで寄り添うも、ナマエはさめざめと泣き続けている。
今のやり取りのどこかまずかっただろうか。
思い返してもさっぱりわからない。
内心首を捻りながらティッシュで涙を拭いていると、ナマエは啜り泣きながら話し始めた。
「私、最近家のこともほったらかしで、体調管理もできなくて、お菓子もやけ食いしてしまうし…それに比べてゾンビマンさんは何でもできるし」
どうやらコンプレックスが爆発してしまったらしい。
普段ならそんなことで泣きはしないナマエだが、ホルモンバランスの急激な変化により情緒不安定になりやすい、とさっきちらっと読んだのをゾンビマン思い出した。恐らくそれだろう。
「ゾンビマンさんはかっこいいし、優しいし、何でもできるし、トレンチコートがよく似合うし、おでこが可愛いし…」
だんだん焦点がズレてきた訴えにうんうんと耳を傾けながら背中を撫でる。
「誰にでも調子の悪い時はある。それでもなんとか仕事には行ってるんだろ、よく頑張ってるじゃないか」
「でも、」
「俺だってぜんぜん完璧な人間じゃない。嫌なことがあればやけ酒くらいしたくなるさ。お前に怒られるからしないけどな」
そう冗談めかして言うと、ナマエは泣き顔のまま噴き出した。
そして涙を拭い勢いよく鼻をかむと、ようやくぎこちなく微笑んだ。
「やっぱりゾンビマンさんはなんでもできてすごいです」
「そうか。まぁ買い被られて悪い気はしないな」
「ふふ…」
落ち着いたナマエは少量ながら晩ごはんをしっかり食べると、すぐさまうとうととし始めた。
寝る準備をしベッドに潜ったナマエに、湯たんぽを用意して持っていく。
「腹や腰を温めると痛みが和らぐらしいぞ」
「ありがとうございます」
頷いて湯たんぽを布団に引き入れたナマエは、もう寝そうになっている。
半分閉じた目で傍らに佇むゾンビマンを見上げた。
「ゾンビマンさん…ゾンビマンさんが生理でお腹痛になった時は…私が看病しますからね…」
「そうか…ありがとう」
まだ一部思考が混乱しているらしい。
心配にはなったが寝入りばなの恋人に突っ込みをいれるわけにもいかず、気持ちだけなら嬉しいその発言をゾンビマンは無の境地で受け取った。
翌朝、顔色の良くなったナマエがハタと気付いたように「よく考えたらゾンビマンさんに生理はありませんね…」と言うのを聞いて、心の底から安堵したゾンビマンだった。
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