ゾンビマンさんはなんでもできる
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「ふん!ふん!はいっ!はいっ!」
元気の良いかけ声と共に、リビングの床を僅かな振動が伝わる。
騒音防止のために敷いたマットの上で奮闘するナマエの前にはテレビ画面がある。
手には輪っか状のコントローラー。
『敵の攻撃!ガードで防ごう!』
「ぬぬぬぬ…お腹が…!」
腹部に押し付けたコントローラが腹筋に効いているらしく、後方のソファーに座って見守るゾンビマンにも判るくらいプルプルと震えている。
筋トレを習慣にしたいと思いつつできていなかったナマエにうってつけのゲームが発売されたのは、先月のことだった。
画面の指示に従ってゲームを進めることで、フィットネスができるという優れものだ。
ストレス解消にもなるようで、休日の度に起動しては楽しそうに運動している。
そして、ナマエが運動するのに合わせてぷりぷりと動く体の一部を眺めるゾンビマンにとっても、心癒される時間となっていた。(もちろん「人が一生懸命やってるのに!」と怒られるに決まっているのでそんなことは黙っている)
「ふぅ、いい汗かいた」
「よく頑張るな、お前も」
きりの良いところまで終えて隣にやってきたナマエに、冷えたお茶を差し出す。
それをごくごくと飲み干すと、彼女はうまそうにため息をついた。
「ゲームだから楽しいし、それに体を動かすとなんだかすっきりするんですよ。ゾンビマンさんもどうですか?」
「俺はプライベートでは運動しない主義なんだ」
「なんですか、それは」
呆れたようなつまらなさそうな顔をされるが、誘いに乗ってゲームに興じる気にはなれなかった。
基本的にヒーロー稼業は肉体労働だ。
中には休み中とてトレーニングに励む者もいるようだが、捨て身の戦法であることもあり、ゾンビマンはそういったことはしていない。
また、真っ向からの戦闘になると相手が力尽きるまで決着がつかないので非常に消耗する。
なるべく体を休めたいのだった。
しかし、そのような事情を知らないナマエには、どうやら怠惰な発言にきこえたらしく、何やらにやにやと含みのある表情になった。
「そんなこと言って、メタボになっても知りませんよ」
そして口の片端をつり上げてフフンと笑った。
なんとも腹の立つ顔である。
これは完全に調子をこいている、とゾンビマンは確信した。
このフィットネスゲームを始めて、ウエストが1センチ縮んだと喜んでいたが、その成果が慢心を招いたらしい。
それにしてもしかし、この引き締まったシックスパックを捕まえてメタボとは何事だ。
ここはひとつ、かましてやらなければ気がすまない。
「聞き捨てならない台詞だな」
割と負けず嫌いなところのあるゾンビマンは立ち上がった。
「そこまで言うんならやってやろう」
「えっ本当に」
ずっとナマエがやるのを見ていたので、だいたいの要領はわかる。
起動したままになっていたゲーム画面に近付き、リング状のコントローラー、脚部に巻くバンドを装着する。
そして設定画面を開き、運動負荷を一番高いものにする。
「えっそんなに高く」
ナマエは自分からけしかけておきながら事の成り行きについていけないのか、驚きながら正座して見守っている。
「大丈夫ですか、ゾンビマンさん」
「運動が好きじゃないだけで苦手とは言ってないぞ」
そしてゾンビマンの筋肉とプライドをかけた勝負が始まった。
最初はごく単純な腿上げだ。
多少呼吸が早くなるものの苦ではない。
ハイペースのそれをこなすゾンビマンをみて、ナマエが感嘆したような声をあげている。
「すごい…!あんなにものぐさなゾンビマンさんが、こんなに敏捷に動くなんて…!」
ものぐさというのが引っかかるが、どうやら見直してくれたらしい。
腿上げを終えて、汗ひとつかいていないゾンビマンは振り向いた。
「どうだ、見たか」
「すごいです!ゾンビマンさんはお裁縫とかも、運動も、何でもできるんですね」
キラキラした眼差しを向けられて、満更でもない気持ちになったゾンビマンはその後もゲームを進めていった。
スクワット、マウンテンクライマー、ロシアンツイスト、いずれも屁でもない負荷だ。
ギャラリー(1名)も大盛りあがりしている。
「ゾンビマンさんかっこいい、筋トレマスターです!」
と声援を送られ頗る良い気分だ。
やたらと筋肉を見せびらかしてくる同僚を内心鬱陶しく思っていたが、男には自分の肉体を誇示したいという欲求があるのかもしれない。
「次は上腕二頭筋のトレーニングか」
頭上で構えたリングを内側に押し込む動作だ。
ぐっぐっと力をいれるとあっけないほど簡単に撓む。
楽勝だな、と少し強めに押し込んだその瞬間、バキンと嫌な音がしたのと、「あ」と間抜けな声が口から漏れたのは、ほぼ同時のことだった。
後日。
「すまないが、この輪っかのやつを購入したい」
「えっコントローラーだけですか?」
「ああ、これだけ頼む」
行きつけのゲーム屋で知った顔を見つけ、咄嗟に陳列棚の影にかくれたキングは、その会話で大体の事情を察した。
(ゾンビマン氏…壊したんだ…)
今流行りのフィットネスゲーム。
一般人向けの強度の機具をプロヒーローが扱えばそりゃそういうことになるだろうな、と途中で挫折した自分を棚に上げて納得する。
しかし、彼がマジになってゲームをやるタイプだというのは意外だった。
しかし、対戦ゲームでいつもムキになる友人のことを思い出し、ヒーローって案外そんなもんなのかもしれない、と考え直す。
思わぬところで新たな知見を得たキングだった。
元気の良いかけ声と共に、リビングの床を僅かな振動が伝わる。
騒音防止のために敷いたマットの上で奮闘するナマエの前にはテレビ画面がある。
手には輪っか状のコントローラー。
『敵の攻撃!ガードで防ごう!』
「ぬぬぬぬ…お腹が…!」
腹部に押し付けたコントローラが腹筋に効いているらしく、後方のソファーに座って見守るゾンビマンにも判るくらいプルプルと震えている。
筋トレを習慣にしたいと思いつつできていなかったナマエにうってつけのゲームが発売されたのは、先月のことだった。
画面の指示に従ってゲームを進めることで、フィットネスができるという優れものだ。
ストレス解消にもなるようで、休日の度に起動しては楽しそうに運動している。
そして、ナマエが運動するのに合わせてぷりぷりと動く体の一部を眺めるゾンビマンにとっても、心癒される時間となっていた。(もちろん「人が一生懸命やってるのに!」と怒られるに決まっているのでそんなことは黙っている)
「ふぅ、いい汗かいた」
「よく頑張るな、お前も」
きりの良いところまで終えて隣にやってきたナマエに、冷えたお茶を差し出す。
それをごくごくと飲み干すと、彼女はうまそうにため息をついた。
「ゲームだから楽しいし、それに体を動かすとなんだかすっきりするんですよ。ゾンビマンさんもどうですか?」
「俺はプライベートでは運動しない主義なんだ」
「なんですか、それは」
呆れたようなつまらなさそうな顔をされるが、誘いに乗ってゲームに興じる気にはなれなかった。
基本的にヒーロー稼業は肉体労働だ。
中には休み中とてトレーニングに励む者もいるようだが、捨て身の戦法であることもあり、ゾンビマンはそういったことはしていない。
また、真っ向からの戦闘になると相手が力尽きるまで決着がつかないので非常に消耗する。
なるべく体を休めたいのだった。
しかし、そのような事情を知らないナマエには、どうやら怠惰な発言にきこえたらしく、何やらにやにやと含みのある表情になった。
「そんなこと言って、メタボになっても知りませんよ」
そして口の片端をつり上げてフフンと笑った。
なんとも腹の立つ顔である。
これは完全に調子をこいている、とゾンビマンは確信した。
このフィットネスゲームを始めて、ウエストが1センチ縮んだと喜んでいたが、その成果が慢心を招いたらしい。
それにしてもしかし、この引き締まったシックスパックを捕まえてメタボとは何事だ。
ここはひとつ、かましてやらなければ気がすまない。
「聞き捨てならない台詞だな」
割と負けず嫌いなところのあるゾンビマンは立ち上がった。
「そこまで言うんならやってやろう」
「えっ本当に」
ずっとナマエがやるのを見ていたので、だいたいの要領はわかる。
起動したままになっていたゲーム画面に近付き、リング状のコントローラー、脚部に巻くバンドを装着する。
そして設定画面を開き、運動負荷を一番高いものにする。
「えっそんなに高く」
ナマエは自分からけしかけておきながら事の成り行きについていけないのか、驚きながら正座して見守っている。
「大丈夫ですか、ゾンビマンさん」
「運動が好きじゃないだけで苦手とは言ってないぞ」
そしてゾンビマンの筋肉とプライドをかけた勝負が始まった。
最初はごく単純な腿上げだ。
多少呼吸が早くなるものの苦ではない。
ハイペースのそれをこなすゾンビマンをみて、ナマエが感嘆したような声をあげている。
「すごい…!あんなにものぐさなゾンビマンさんが、こんなに敏捷に動くなんて…!」
ものぐさというのが引っかかるが、どうやら見直してくれたらしい。
腿上げを終えて、汗ひとつかいていないゾンビマンは振り向いた。
「どうだ、見たか」
「すごいです!ゾンビマンさんはお裁縫とかも、運動も、何でもできるんですね」
キラキラした眼差しを向けられて、満更でもない気持ちになったゾンビマンはその後もゲームを進めていった。
スクワット、マウンテンクライマー、ロシアンツイスト、いずれも屁でもない負荷だ。
ギャラリー(1名)も大盛りあがりしている。
「ゾンビマンさんかっこいい、筋トレマスターです!」
と声援を送られ頗る良い気分だ。
やたらと筋肉を見せびらかしてくる同僚を内心鬱陶しく思っていたが、男には自分の肉体を誇示したいという欲求があるのかもしれない。
「次は上腕二頭筋のトレーニングか」
頭上で構えたリングを内側に押し込む動作だ。
ぐっぐっと力をいれるとあっけないほど簡単に撓む。
楽勝だな、と少し強めに押し込んだその瞬間、バキンと嫌な音がしたのと、「あ」と間抜けな声が口から漏れたのは、ほぼ同時のことだった。
後日。
「すまないが、この輪っかのやつを購入したい」
「えっコントローラーだけですか?」
「ああ、これだけ頼む」
行きつけのゲーム屋で知った顔を見つけ、咄嗟に陳列棚の影にかくれたキングは、その会話で大体の事情を察した。
(ゾンビマン氏…壊したんだ…)
今流行りのフィットネスゲーム。
一般人向けの強度の機具をプロヒーローが扱えばそりゃそういうことになるだろうな、と途中で挫折した自分を棚に上げて納得する。
しかし、彼がマジになってゲームをやるタイプだというのは意外だった。
しかし、対戦ゲームでいつもムキになる友人のことを思い出し、ヒーローって案外そんなもんなのかもしれない、と考え直す。
思わぬところで新たな知見を得たキングだった。