天空の物語

 少女が釈放されたのは、突然のことだった。
 それまで人気のなかった暗闇の空間に、とある人物が訪ねてきた。
 彼は「虹の国」の使者と名乗り、檻の戸をあけて彼女にでるように促した。そして彼女の手をとって空高く舞いあがり、光ある場所へと導いた。そこは真っ青な空だった。しかし、どれだけ目を凝らしても地面は見えなかった。太陽もなく、月もなく、風もない。ただひとつだけ、海に浮かぶ孤島のように、大きな雲がでんと浮かんでいた。その雲は果てが見えないほど大きく、遠くには草木らしきものも見えた。まるで本当に島のようだ。
「服役期間は終了です。今からはこの『虹の国』で暮らすように」
 そう言って彼は、彼女をこの雲の島におろし、そばにあった黒い柵の門をぎいっと開いた。
 柵門のむこうには色とりどりの木々があった。赤や青や黄色がグラデーションになって木の葉や枝や幹を彩っている。足もとには柔らかい草が生えていて、細い道を形成している。少女はちょっと怯えながらその小径を進んでいった。背の高い大木たちのせいで、道の先に何があるのかは見えない。それでも歩を進めていくと、あるとき、ぱっと視界がひらけた。
 そこには綺麗な草原となだらかな丘が広がっていて、所々にプリズムのようにきらめいた花が咲き乱れ、空中には虹色に輝くシャボン玉が飛びかっていた。空は雲ひとつなく、どこからともなく陽光らしき暖かな光が降りそそいでいる。それはまるで絵画のようにまばゆく、美しい世界だった。
 ──ああ。わたし、やっと神様のところへ来られたんだわ。
 少女は目を細めてその景色を眺め、そしてその美しい国を愛した。
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