第4話

 ほかに行くあてもない。ゲンはひとり、子供の示した方向の道を進んでみた。しかし、その先には何も現れない。それなのに、周囲の星空はどんどんと暗くなっていく。星空ですら怖かったのに、その星の瞬きすらも失われていくのだ。気づくと、あたりは真っ暗だった。音もない。そこはただ、ただ暗い闇の中だ。
 おかしい。
 正しい道ならば、こんな不気味で恐ろしい闇の中を歩く羽目になどなるはずがない。
 ゲンは途中で足を止めて思案した。そもそも、あの子供は信用に値する人物だっただろうか。明らかに小さくて未熟で、まともな会話もできなかったではないか。おまけに、話の途中でゲンをおいてどこかへ消えてしまった。そんな存在を信じて進むのは正しいのだろうか?
 ──やめておこう。
 そう決意するがはやいか、ゲンは踵をかえして、そろそろときた道を戻った。道はほかにもある。ほかの道を試してから結論をだしても遅くはない。
 最初の分岐点まで戻ると、空にも地面の下にも、もとの明るい紫の星空が広がっていた。同じ不気味な空間でも、闇よりは星空のほうがよほど安心できる。
 ゲンはとりあえず、子供が示した道の右隣を試してみることにした。どれが正しいのか、そもそも正解などあるのかはわからないが、危険を感じたタイミングで戻ってこればいい。ここでじっとしているよりはましだろう。
 さいわい、道はきちんと床として機能していた。ゲンは一歩ずつ、足もとを確認しながらゆっくりと歩を進めた。


 この道の先には、建物の「影」があった。三角屋根の家の「影」、高層ビルの「影」、大型マンションの「影」。黒い建物のシルエットが道の両脇に並んでいる。しかし、それはただの黒いシルエットでしかなかった。扉も窓もないし、感触もつるりとしていて気味が悪い。
 だが、紫の星空は健在だった。星空の下に真っ黒の街並み、そして中央には白い細道。それは幻想的でありつつも、どこか拭えない気味の悪さがあった。
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