第5話

「ルリ、今のは?」
 あかりは今にも驚きと興奮で破裂しそうな心臓を押さえながら尋ねた。ルリはこともなげに答えた。
「足りてない意識エネルギーを補填したの。厳密には単なるあたしの魔力だけど、『ラピスラズリの力』はよく効くんだよ。昔はおばあちゃんがよくやってたの。今でも、古いお客さんにはあたしがすることもあるし」
 さらさらと言葉を紡ぐルリをよそに、遠也はひとりで木の幹にしがみついていた。あかりが肩を貸そうとすると、彼はなおも首を振った。
「もう、自分で動けるよ。ルリの変な技が効いたみたいだ」
「変でもないし、技でもないよ。馬鹿にしないで!」
 遠也の言葉に呼応するように、ルリは突然激高した。彼女は昔から、よくわからないタイミングで怒りだす癖があった。
「そういう口のききかたするんなら、さっきの魔力は返してもらうよ?」
 ルリはひとりでぷりぷり怒っていた。こうなると手がつけられないので、あかりは彼女を刺激しないよう諭した。
「急に怒らないでよ。具合が悪いんだから、心配してあげたら?」
「心配なんかいらないよ! こんなのは単なるエネルギー不足。頻繁に離脱りだつしてるからこうなるんだよ」
「りだつ?」
 あかりはルリの言葉をくりかえした。ルリは「そうだよ」とだけ答え、怒涛の勢いで続きをまくしたてた。
「いい、あかりの部屋に遠也がきたのは、遠也が『離脱』してたから。遠也の意思に関係なく、勝手に意識が動きまわってるの。ようは夢遊病だよ。ただし動きまわるのは身体じゃなくて、魂のほう。ただでさえ不完全なのに、不完全な中身が勝手に暴れてるから、収集がつかなくなっちゃってるってわけ」
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