風千、甘々ストーリー
千鶴は沈みゆく夕陽を眺めながら縁側に腰を下ろした。
もうすぐこの里にも、春がやって来る。
千鶴が人里離れ、鬼の一族の住む《隠れ里》にやって来たときも、同じような時期であった。
「今年もたくさん、咲いてくれるのかな?」
里の山にはたくさんの桜の木がある。
それが今年も咲く時がやってきたのだ。
満開の桜の中を歩く姿を想像すると思い出す。
桜花のように闘い、散って逝った彼らのことを。
思いを馳せていると、羽織が肩にかけられた。
薄桃色の、春を思わせる色合い。
見上げると、夫の千景がかけてくれたようだった。
何も言わず、千鶴の隣に腰を下ろす。
「千景さん、ありがとうございます」
彼がふっと笑う。
「春とはいえ、夜風は冷える。風邪を引かれては困る」
我が妻に、と言う言葉はなくてその代わりに身体を引き寄せられた。
温かい、彼の鼓動を近くで感じる。
「千景さん」
「どうした?」
千鶴は見上げるようにして彼の名前を呼んだ。
「今年も桜、咲きますかね?」
肯定だと言うように千景は屋敷の周囲に目をやった。
「満開に、咲き誇る」
千景もまた、去り散った彼らのことを思い出したのかも知れない。
長い時期を生きる、人とは違う鬼の千鶴と千景。
儚い命を夢にかけた彼らのことを、この桜が咲く度に二人は思い出す。
「千景さん、そろそろ中に入りましょう」
「そうだな」
千鶴は彼にそう告げると立ち上がる。
すると一輪の桜の花びらが風にのって目の前を飛んでいくのが見えた。
「桜の花びら……」
千鶴は空を見上げた。
ー今年も美しく咲く、この時期しか見れない桜の花を眺めようー
そう思うのだった。
END.
もうすぐこの里にも、春がやって来る。
千鶴が人里離れ、鬼の一族の住む《隠れ里》にやって来たときも、同じような時期であった。
「今年もたくさん、咲いてくれるのかな?」
里の山にはたくさんの桜の木がある。
それが今年も咲く時がやってきたのだ。
満開の桜の中を歩く姿を想像すると思い出す。
桜花のように闘い、散って逝った彼らのことを。
思いを馳せていると、羽織が肩にかけられた。
薄桃色の、春を思わせる色合い。
見上げると、夫の千景がかけてくれたようだった。
何も言わず、千鶴の隣に腰を下ろす。
「千景さん、ありがとうございます」
彼がふっと笑う。
「春とはいえ、夜風は冷える。風邪を引かれては困る」
我が妻に、と言う言葉はなくてその代わりに身体を引き寄せられた。
温かい、彼の鼓動を近くで感じる。
「千景さん」
「どうした?」
千鶴は見上げるようにして彼の名前を呼んだ。
「今年も桜、咲きますかね?」
肯定だと言うように千景は屋敷の周囲に目をやった。
「満開に、咲き誇る」
千景もまた、去り散った彼らのことを思い出したのかも知れない。
長い時期を生きる、人とは違う鬼の千鶴と千景。
儚い命を夢にかけた彼らのことを、この桜が咲く度に二人は思い出す。
「千景さん、そろそろ中に入りましょう」
「そうだな」
千鶴は彼にそう告げると立ち上がる。
すると一輪の桜の花びらが風にのって目の前を飛んでいくのが見えた。
「桜の花びら……」
千鶴は空を見上げた。
ー今年も美しく咲く、この時期しか見れない桜の花を眺めようー
そう思うのだった。
END.