第三章


「こんなに遅くまでお邪魔してごめんね、一ノ瀬くん」

夕方、陽寄さんが《そろそろお暇します》と言わなければ彼女は弟や妹たちに家に帰してもらえないところであった。
駅までの道のりを二人して歩く。
もうすぐ年越しの時期が来る、日が暮れるのも早くなり、寒くて息を吐くと白い。

「こちらこそ、今日は来てくれてありがとう。
あと、弟や妹たちの質問にも答えてくれて」

昼食が終わったあと、陽寄さんは兄妹たちの質問攻めにあっていた。
定番の彼氏はいるの?の話しや、兄妹はいるのなど、ごくありふれた質問から、優の《陽寄さんの(バース性)性別は何ですか?》の超ストレートな質問にまで答えてくれていた。今そんな質問しないでよと蓮は言ったが、鈴のこともあるので聞いたと優は言う。
Ωの発情期に女性同士も危険なのかわからなかったが、彼女はなんでもないことのように
《私はβ性だから大丈夫だよ》と答えてくれる。

そうか、陽寄さんはβ性なんだ……

思い出してほっとするが、なんだか蓮は心が落ち着かないでいた。



「そんなこと、美味しいご飯ご馳走になったお礼と思えばお安い御用だよ。それよりこれ、ありがとう!」

紙袋を持った手を上げてお礼を言ってくる。
中身は伊織と母親が夕食用に作っていたおでんだ。
寒い時期といえばおでん、朝から煮込んでいたからとお土産がわりに持たせてくれたのだった。

「これで今夜と明日のおかずが助かる!」

ふふふと笑う彼女がやはり可愛いと思えてしまう。
話していると駅に着いた。

「ありがとう、送ってくれて。改めて家族の皆さんにありがとうございましたって伝えてください」

ぺこりとお辞儀をすると、陽寄さんは駅構内へと入って行った。

「来週、また学校で!」

振り返った彼女がにっこり笑って手を振っている。
同じように手を振り、彼女の姿が見えなくなったところで蓮は踵を返し自宅へと足を向ける。
帰る途中で仕事から帰って来た父の車に出会った。

「父さん、おかえり」
「蓮、こんなところでどうした?」
「今日、家に招待した子を見送りに」
「そうか」

蓮は車に乗せてもらい、家に向かう。
車内で父が尋ねる。

「今日来た子は、女の子だったかな?」
「そうだよ、陽寄さんって名前で……」
「陽寄……」

運転する父が考える素ぶりを見せる。

「……父さん?」
「いや、……なんでもない」

黙り込んだ父の様子が気になったが、そのまま自宅に到着したので聞くことはできなかった。











蓮と遥が駅で別れたあと、物陰から一人の人物が二人の様子を観察していた。

「こんなところにいたなんて、予想外。でも無事で何より。だけど……」

隣の男は彼女の何?彼氏とかだったらーー。
黒縁メガネの奥にある瞳が歪む。

「オレ、何するかわからないよ、ハルカ姉さん」

含みのある笑いが辺りに響くのだった。









続く。
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