第三章
こうして陽寄さんのささやかな歓迎会が始まった。
リビングのローテーブルに案内すると、鈴は嬉しそうに話し出した。
「遥お姉ちゃん、今日は来てくれてありがとう。鈴、いっぱいお話ししたいな」
「うん、私も今日はたくさんお話ししたい」
そこへ飲み物を母が運んでくる。
「晴れているとはいえ、外は寒かったでしょう?」
母が温かいお茶を彼女に差し出した。
「ありがとうございます。えっと……」
受け取りながらなんと呼んだらいいか迷っている陽寄さんに母がにっこり笑う。
「蓮ママって呼んでね。名前だと呼びづらいし」
流石にバイト先では名字で呼ぶことになるのだが。
「じゃあ蓮ママさん、今日はお招きくださってありがとうございます」
「あらやだ、そんなにかしこまらなくても大丈夫よ。蓮、陽寄さんにお茶菓子出してあげてね」
「分かった」
蓮は席を立ち、お菓子の置いてあるキッチンへと向かう。すると伊織がちょうどお菓子を持ってくるところだった。
「蓮兄、これ持って」
「ありがとう、伊織」
二人してリビングに集まる。
陽寄さんは妹の伊織を見ると目をキラキラと輝かせる。
「あなたがあのほっぺが落ちるほど美味しい卵焼きを作った妹の伊織さんね」
「はい、兄から聞きました。すごく喜んでくれたみたいで、私もとても嬉しいです。作った甲斐があったって思えます」
伊織がお菓子をテーブルに置くと陽寄さんは妹の手を握る。
「陽寄さん?」
「ぜび、うちにお嫁に来てください!」
その場にいた家族が驚いたのは言うまでもない。
※※※
落ち着いたところで陽寄さんをはじめ、父以外の家族全員がテーブルの席に着く。
「ごめんなさい!」
先程の発言は自身があまりにも料理ができないので、ご飯を作ってほしいがために出た思いからだった。
「突然でびっくりしましたけど、陽寄さんも頑張ればできますよ」
「家庭科の評価、一番下の私ができるのかな?」
「評価が一番下……」
「どうしたの?」
伊織はどうリアクションしていいか分からず一瞬固まってしまう。
家庭科の評価が一番下(努力を要する)、つまり相当特訓する必要があるなと思ってしまう。
「あ、いえ、大丈夫です。それと私のことは伊織って呼んでもらっていいですよ」
「じゃあ私のことは遥って呼んでもらって大丈夫だからね」
「遥、さん」
はーいと彼女は返事をする。
会って話して見ると、気さくな人で親しみやすい陽寄さん。
「もし良かったら、お昼の料理の盛り付け、してみませんか?」
盛り付けだって立派な料理作業の一つだ。
陽寄さんはいいの!と席を立ち、伊織と一緒にキッチンへと向かって行く。
二人が行ったあと、母親が蓮に話しかける。
「元気な子ね、新しく入った転入生だって言ってたかしら?」
「そうなんだ、こんな時期に珍しいでしょう?しかも一人暮らしだなんて」
「わけありかもね、彼女」
母と蓮の間に割って入る弟の優。
鋭い観察力をもつ弟のことだ、当たっている可能性がある。
「そうね……もうすぐ年末にもなってくることだから、余程のことがあるのかも知れないわね」
「お家事情、とか」
鈴が推理小説の主人公のように顎に手を当てて考える仕草をする。
「まさか、そんなことは」
否定する蓮に弟たちは次々と話しを盛り立てる。
「わからないぜ。もしかするととんでもないお家の子で、家出してきたとか」
「だったらわざわざ一人暮らしなんてするかな?」
家出なら家族が探したり、もしくは彼女自身も気持ちが落ちついた地点で帰るだろう。
けれど一人暮らしで、しかもバイトをしないといけない程お金に困っているなんて。
そこまで考えて蓮はふと思う。
「家賃とか、光熱費とか、払えているのかな?」
現実的な話しが持ち上がったところで、お昼の盛り付けをした料理を妹と陽寄さんが運んできた。
「さあ、できたよ。ほらみんな各自テーブルに座って」
伊織が席にお皿やコップを置いていく。
盛り付けた品は陽寄さんが持ってきてくれていた。
「早く食べたい。お腹、空いちゃった」
盛り付けたお皿を持ちながら陽寄さんの目は料理に釘付けだ。早く食べたくて涎が出てきそうな雰囲気である。
陽寄さんの姿がおかしくて、鈴は笑う。
「遥お姉ちゃん、おもしろーい」
「だって目の前に料理があるのに!」
笑いが止まり、皆がテーブルの席に着くと《いただきます》と手を合わせる。
楽しい昼食タイムが始まった。
続く。