第三章
ー彼女のためにできることー
「おはよう、陽寄さん」
休日明け、学校で会った陽寄さんにバイト面接はどうだったかと聞いてみた。
「ダメだった……どうしよう」
彼女は肩を落として廊下の壁に寄りかかる。
ダメだったのは残念だが、何か自分なりに役に立てる方法はないかと蓮は模索する。
そして思い出したのだ。
母親の勤めるクリニックがアルバイトを募集していることに。
表立った仕事はできないが、細々とした雑務をしてくれる子を探していると言っていた。
(あとで母さんに連絡入れてみよう)
何はともあれ、本人に聞いてみなければ始まらない。
気分の沈んだ陽寄さんに蓮は尋ねてみた。
「陽寄さん、クリニックでバイトってしてみる?」
「クリニック、バイト……バイト!?」
先程までの沈んだ空気が入れ替わるかのように話しにのってくる。
「する、やりたい!」
「母さんの勤める仕事場なんだけど、前に人手が足りないって言ってたから」
「一ノ瀬くんのお母さんが勤めてる仕事場、行ってみたい。採用されれば……」
落ちたことを思い出したのだろう。
「たぶん、大丈夫かと」
「聞いてもらって……いい?」
「わかった、聞いてみるよ」
陽寄さんの気持ちを確かめた後、始業までに母親へ連絡を入れておいた。
お昼休み、母から返信がある。
是非来てもらいたいとのことだった。
面接の要件は、
《患者さんに明るく挨拶ができ、笑顔で接してくれること》
だった。
彼女はどちらも合格だなと思う。
その日の夕方、陽寄さんは早速面接に行ったようだった。
※※※
その日の夜、帰宅した母親から陽寄さんが面接に来て採用だったことを教えてもらった。
「ハキハキしていて、元気な子だったから院長先生も喜んでたみたい」
学業もあるので、主に夕方からのバイトになるが、土曜日は大丈夫だとのことで一日入ることになったらしい。
母から早速来週の月曜日から入ってくれることになったことも教えてもらい、役に立てて良かったなと蓮は思った。
「陽寄さん、今月から一人暮らしでお金が必要って言ってたから良かったよ」
「そうなの?こんな時期に一人暮らしなんて大変ね。それじゃあ一緒に仕事する仲間として今度家に来てもらいましょうか?」
「い、家に?」
唐突な母の提案に驚く。
「ええ、私も一人暮らししていたし、何かアドバイスできることもあると思うの」
来週から入るからと母はカレンダーを見ながら自分のシフトと見比べている。
「それに伊織も直接会ってみたいって言ってたから」
以前食べたお弁当の話しを妹に話したらとても喜んでくれ、それなら今度連れて来てと言われていた気がする。
バイトのことと、自分の恋愛のことで忘れていた。
陽寄さんには念の為にと連絡先を聞いていたので母に聞いておくと伝え、一旦自分の部屋へと戻っていく。
自室の机にて、陽寄さん宛にメッセージを送る文面を考える。
《こんばんは、陽寄さん。母から聞きました、バイト決まって良かったね。それで、母から同じ仕事仲間として一度我が家に遊びに……》
ここまで打ち込んでふと思う。
いくらバイトする仲間といえど、いきなり家に呼ぶなんて……。
しばらく考え、蓮は妹の件を打ち込むことにする。
《陽寄さんのことを妹に伝えたら、ぜひ会いたいと言ってたので良かったら遊びに来てくれないかな?》
この文面もいきなりな感じがしたが、妹が会いたがっているのも事実なのでこれでよしと送信ボタンを押した。
しばらくすると既読がつく。
コンコンとドアがノックされる。入ってきたのは蒼だった。
スマホを机に置くと蓮は弟の方を向く。
「どうしたの?」
「部活終わって帰ってきたら母さんが《職場に新しい子がバイトで入ってくるの、それが蓮のお友達なの》って聞いたからさ、ちょっと調査」
なんだか楽しそうである。
「調査って別に大したことじゃないでしょう」
そんなことに構ってないで、勉強でもしたらと机に置いてあるノートを開く。
「勉強より大事かも知れないじゃん」
そのとき、蓮のスマホが鳴る。
彼女からのメッセージだった。
《こっちこそバイト先紹介してくれてありがとう!美味しいご飯作った妹さんにぜひ会いたいです!》
「誰から?」
「友達からだよ」
「ふーん、そうなんだ」
背後に蒼が近寄ってくる。
「なになに、バイト紹介ありがとう、妹さんに会いたい……」
「ちょ、見るなよ!」
スマホをノートで隠す。
「友達にバイト紹介、妹に会いたい……ね」
ふふふと何やら意味深な笑みを浮かべながら蒼は部屋を出て行った。
全く、油断も隙もないなと思いながら送られてきたメッセージを見て、蓮は返信のための文章を打ち込むのだった。
続く。
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