第三章

家族会議 ー男たちの話し合いー




日曜日、弟の部屋に来た蓮はこんな話しを持ちかけた。

「蒼、ちょっと相談があるんだけど」
「相談?なに、蓮兄が相談なんて珍しい」

興味津々という顔で蒼は話しを促した。

「で、相談の内容は?」
「蒼は、その……好きな子……っている?」
「は?」

しばらく二人の間に沈黙が流れる。
唐突すぎて答えられないのか、ダイレクトに質問した自分が悪いのか、蓮はごめんと謝る。

「何聞いてるんだろう、やっぱりなんでもないから」

忘れてと言い、部屋から出て行こうとする兄の肩を蒼が掴む。

「その話し、のった!」

ウキウキしながら蓮を自分のベッドに座らせ、自分は椅子に座る。

「それで、兄貴は好きな子できたの?」

まるで女子が恋バナを聞くような体勢で質問してくる。

「うーん、好き……というか気になるというか……」
「あー、体現できない感じね。それで?」

うんうんと頷き、その先の話しを聞いてくる。

「一つひとつの仕草が可愛いって思うんだけど、気がついたら目で追ってることがあるんだ」

ガタンと椅子から立ち上がる蒼。

「な、何?」

兄のいるベッドに近づく。

「蓮兄、それが恋だ!好きなコだ!」
「ちょっと蒼、近いよ」
「そのときさ、ココがドキドキしなかった?」

胸を指差し、当時の状況を尋ねてきた。

「ドキドキ、したのかな?」

自分の胸に手を当てて思い出してみる。

「……してたかも、知れない」
「恋だよ。それは恋、やっと蓮兄にも春が来たんだ」

まるで自分のことのように喜ぶ弟。
もっと詳しく聞かせてという蒼に、この気持ちを更にどう伝えるべきか悩んでいた蓮は逆に弟に聞いてみた。

「蒼はどうなの?好きな子、いるの?」
「俺?俺は……その……」

口ごもり出したので、今度は蓮が問い詰める番だ。
いるのかいないのかで口論になり、勢いよく二人でベッドに倒れてしまう。
そこへ間が悪く妹が入って来てしまった。

「蒼兄、お昼ご飯できたから降りてき……」

伊織からは兄二人がまるで抱き合っているように見えてしまう。

「……」

妹と兄二人の視線が合う。
ゆっくりとドアを閉める伊織。
そして、

「禁断の世界が我が家で始まってる!!」

大慌てで階段を降りて行ってしまう。

「「誤解だ!」」

二人は勢いよく妹の跡を追うのだった。





     ※※

「それで今度は僕のところに来たの?」

冷静な口調で話しをするのはこの家の三男、優。
あのあと妹に話しを聞いてもらおうとしたが、『今の世の中、そういうこともあるかも知れないね、ごめん』と言われ、余計複雑な立場になってしまう。これでは困ると蓮と蒼は一番まともな意見をくれそうな三男に相談することにしたのだ。
一通り話しを聞いてくれた優は、兄二人にこう話す。

「伊織姉が勘違いしていることに関しては僕からも伝えるから安心して」

ホッとする二人の兄。

「でも、蓮兄、蒼兄の好きな人のことは解決していないよね」

ビシッと痛いところを突かれ、鋭い弟だと二人して思う。

「好き、なのかわからなくて、この気持ちが」

蓮は自分の中にある感情が、何を現しているのかわからないという。これまで衝動性が起きなかった分、恋愛感情というものがわからないのも当然だ。
優は蓮の方へ向き、蓮兄は最近知ったんだから仕方ないよ。少しずつ、その気持ちを理解していけば良いんだよとアドバイスしてくれた。
一方で蒼兄に対しては、鋭い視線を向ける。

「蒼兄、好きな子いる……どころか実はもう彼女でしょ?」
「な、なななんで知って!!」

蒼は隣で焦っている。


「そうなの?彼女……いるんだ」

蓮は先を越されたような、少し寂しい気持ちになる。

「彼女どころかもう身体のーー」

むぐっと蒼が優の口を塞ぐ。

「わわぁ、言っちゃダメ」

なんでそこまで知ってるんだよ、と優の耳元で聞くと、情報はいつ漏洩しているかわからないから気をつけて、とそれ以上は話さなかった。
聞きそびれた蓮は興味があるようで、続きを聞こうとしたが、なんだかんだで蒼にはぐらかされてしまった。

「これでいい?僕、明日の予習したいから」

話しは終わりだとばかりに兄二人を部屋から追い出そうとする。

「ちょ、ちょっと待て、待っててば」
「何?」

蒼が振り返る。


「そういう優はどうなんだよ?恋、してるのか?」
「……」

話さない弟に蓮はどうしたんだろうと思う。

「……僕は、鈴を守らないといけない」
「鈴は妹だろ?それ以外の女の子とか、好きにならないのかよ?」
「興味ない」
「じゃあ鈴がもし妹じゃなくて赤の他人だったら興味湧いたの?」

半ば冗談で聞いてみた蓮だったが、思いもよらない返事が返ってきた。

「鈴が他人の子だったら、間違いなく、僕は番にする、最愛の人にする」

優が冗談だよと言っても、兄二人は戸惑いを隠せなかった。





       ※※※

そして蓮が最後に相談したのは、父親である樹だった。
仕事で帰宅した後、家族みんなで食卓を囲んだが、今日はなぜか娘の伊織と三男の優を中心になんとも言えない雰囲気が漂っている。
目で妻に合図をするも、わからないと首を振る次第だった。
お風呂にも入り、これから彼女と一緒に過ごせると楽しみにしていた樹を、蓮は呼ぶ。

「どうした?」

早く妻のところに行きたいが、子どもたちのことを無下にはできない。
いつものように部屋のベッドに腰を掛けて話しを聞くことにした。

「父さん、好きってどんな気持ち?」
「好き……気持ち?」

何を言おうとしているかわからなかったが今日あった蒼の恋の話し、伊織の勘違いから、優の爆弾発言などを聞き納得できた。
特に優の内容にはかなり驚いたが、樹は蓮に話し出した。

「好きは、いろんな形があって、嬉しかったり、楽しかったり、悲しかったり、辛かったりする」

それはまるで自分が歩んできたことを振り返るようにして語る。

「苦しくて、切なくて、どうしようもないからこそ、人は恋をするんだ」
「父さんも、母さんと恋をした?」

樹は過去を振り仰ぐようにして懐かしさに思いを馳せる。

「恋をした。好きになった。愛し合った。かけがえのない存在になった。そして」

蓮の方を向いて話す。

「蓮や蒼、伊織に優、そして鈴が産まれたんだ」

これが好きになった結果だと、そしてまだまだ恋は進行形だと。

最後に父からこんな言葉をもらう。

「蓮、本当に好きになったら絶対に手離さないこと。だから今、俺は彼女を、母さんを手離さないで良かったと思っている。とても幸せだから」

父親の母親に対する愛情はこれからも続いていくのだと思う。

蓮は今日聞いた中で一番納得のいく答えをもらえた気がした。








END.
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