第三章

気になる存在 


一限目は現代文。
教科書が届いていない陽寄さんに、先生から見せてあげなさいと言われ、蓮は本を差し出した。

「どうぞ」
「ありがとう。でもそれだと見えないから」

席を立ち、よいしょっと机を押してくっつける。

「こうやって二人で見えるようにね」

仕草一つひとつが可愛く思えて、しばらく彼女を見つめてしまった。

「一ノ瀬くん?」

見つめすぎて不審に思われたかも知れない。

「そうだね、見えないから」

自分に言い聞かせるように小さく咳払いをして前を向く。
先生が授業を進め出した。




         ※※※


「はぁ、やっとお昼になった」

4限の授業のあと昼食の時間となり、隣の席の彼女、陽寄さんはうーんと大きな伸びをした。

「午前中、教科書見せてくれてありがとう。さて、おひる♪おひる♪」

蓮にお礼を言うと鞄からお弁当の袋を取り出した。
中身は、おにぎり二つだけだった。
思わず聞いてしまう。

「おにぎりだけ、なの?」

「その、私、実は今月から一人暮らし始めて……お金なくて」

苦笑いしながらおにぎりを隠す。

「それに私、料理、下手だから」

肩を落とす彼女が気の毒になった。女の子だからと言って料理が得意というわけではないらしい。

「そっか、あの……良かったら……」

蓮は自分のお弁当箱を取り出して開ける。

「食べる?お弁当」
「え!良いの!」

明るい声で覗き込むようにして蓮のお弁当の中身を凝視する。

「うわあああ!美味しそう」
「妹が作ってくれたんだけど」
「妹さんが?」
「そう!蓮の妹、料理上手だし美味しいぜ」

間に入るようにして龍真がお昼を持ってきた。彼は今日は購買のサンドイッチとカレーパンのようだ。

「特にこれ、卵焼きは絶品。この味は最高だな」

龍真が黄色の卵焼きを示す。

「そうなんだ、じゃあ卵焼き、もらっても良い?」
「どうぞ」
「ありがとう、いただきます!」

パクリと彼女が食べた。

「ん〜、おいしい。なんでこんなにおいしいの。妹さん、料理の天才」

幸せそうに卵焼きを食べている姿を見ると、いつも作ってくれている妹に感謝の言葉を言いたくなる。


(ひとくち食べて幸せになれる、そんな料理を作りたいの)

妹が以前話していた、イライラしても、悲しくても、どんなときでもひとくち食べれば笑顔に
なれる、そんな料理を作りたいという願い。
今まさに目の前の彼女が幸せになっている。

「妹に伝えておくよ、とても喜んでいたって」

陽寄さんはその後も卵焼きと、アスパラをべーコンで巻いたおかずを食べては、幸せそうな顔をしていた。








続く。
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