天命は巡り逢う 第二章
冬の訪れが感じられる11月の初め。彼女はやってきた。
しかも転入早々に、とてもインパクトのある登場をしたのだ。
※※※
あの事件から2ヶ月。
ようやく学校に通えるようになったが、蓮の心には暗い影を落としていた。
一緒に登校してくれる蒼には悪いかと思うが、今の自分には誰かそばにいてもらう方が落ち着く気がする。
蒼が二年の教室に入るとクラスの女子が押しかけてきそうなので、階段で別れて廊下を進む。
すれ違う同級生たちの顔を見ると、料亭での
の出来事が脳裏に浮かんだ。
ここは違う、通い慣れた学校だ。必死に拭い去ろうとするが自身を見失いそうになった感覚が甦る。
知りたくなかった。
本能に抗えない、絶対的な己の本質。
今もあの衝動に襲われるかも知れないと思うと、足取りが重くなっていく。
「おはよ、蓮」
背後からの声にハッとして振り向く。
声をかけたのは龍真で、あの事件を知る人物で数少ない蓮の理解者でもある。
「おはよう」
背後から覆い被さるようにして周りからの視線を外してくれているようだ。
安堵の表情を浮かべ、変わらない友の友情に感謝の気持ちでいっぱいになる。
「大丈夫、俺も蒼も、みんな味方だよ」
その言葉を聞いてほっとする自分がいた。
「ありがとう、龍真……」
しかしクラスの中では、
「仲が良いと思ってたけど……」
「あの二人そう言う(恋愛系)仲だったのか」
「蓮くんも龍くんもかっこいいから狙ってたのに」
「でも、あの二人ならありかも知れない」
的外れな関係性が噂になってしまっていた。
二人が騒動に気づいて否定したが、結局生徒指導室まで呼び出されてしまうハメになったのはまた別の話しである。
※※※
蓮の席は龍真が上手く配置してくれたおかげで、1番後ろの窓際の席になっていた。
椅子に腰をかけ、何気なく窓の外に目を向ける。もうすぐ予鈴のチャイムが鳴る校門の前には、駆け込み生徒が必死に走っている姿が見える。
予鈴が鳴り始めた。
ここの学校は予鈴と共に門が閉まって行き、鳴り終わると閉まる。
閉まると遅刻と見なされ、反省文を書かされるのだ。以外と厳しい学校である。
弟の蒼もこれが嫌で兄に起こしてもらっていたのだが。
予鈴が半分鳴ったところで、駆け込み生徒の波をかき分けて走る人物が見えた。
よく見ると女子生徒だった。
その人物は閉まる門の直前まで来ると、前方を走っていた男子生徒二人に大きな声で叫ぶ。
「前の二人!屈んで!」
男子生徒も必死に走っていたが息が切れ切れだったので声に従い思わず屈んでしまう。
その勢いのまま、二名の肩にそれぞれ手を置き、その位置に足を乗せて一気に飛んだ。
門の上を弧を描くように飛ぶ。
見事な跳躍(男子生徒を踏み台にし)を成し遂げ、その生徒は地面へと着地した。
予鈴が鳴り終わり、門が完全に閉められてしまう。
校門の外には二人の男子生徒が倒れている。
振り返った女子生徒はにっこり笑って言った。
「ありがと」
「……っ」
可愛いと思った。自然と出た感情だった。
遅刻ギリギリで校門を突破した……
蓮は彼女が去った校庭からしばらく目が離せないでいた。
※※※
ホームルームの時間になり、クラス担任の先生が教壇に立つ。
「おはようございます、寒い時期になりましたが今日も一日頑張りましょう。それでは、出席を取る前一つお知らせがあります」
お知らせ?なんだろう?クラスがざわつく。
咳払いし、先生は話す。
「えー、この時期には珍しいですが、転入生を紹介します。君、入って来なさい」
「「て、転入生?!」」
クラス全員が声を同じくする。
前方の引き戸が開き、歩いてくる生徒。
セミロングの髪を一つに結び、颯爽と歩く女子生徒。
先生の横に並ぶと、礼をして顔をあげる。
「おはようございます、今日から皆さんと同じクラスになります 陽寄 遥 と言います。この時期に転入なので心配ですが、どうか皆さんよろしくお願いします」
そしてにっこり笑顔を向ける。
後ろの席からでもはっきり見えた姿は、先程大胆な登校をした彼女であった。
やはり笑顔が良い。
周りが何やら彼女に質問しているみたいだったが、蓮は聞いていなかった。
気がつくと彼女は蓮の隣にある空席に向かって歩いて来る。
そして、隣の席に腰を下ろすとこちらを見て改めて挨拶をしてきた。
「よろしくお願いします、一ノ瀬さん」
「あ……こちらこそよろしく」
近くで聞くととても心地の良い声。
なぜか落ち着く声質だなと蓮は思うのだった。
続く。
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