第二章 番外編 2

穏やかな昼下がりの午後、玄関のインターホンが鳴った。

「こんな時間に、誰かしら?」

夕食のメニューを考えながら冷蔵庫を開けていた私は本日の予定を思い出す。

(来客の予定は無かったような……)

冷蔵庫を閉め、リビングにある玄関モニターを押す。映し出されたのは高校時代の女友達だった。
以前、この辺りに私が住んでいることを聞いたようで寄ってくれたそうだ。

「元気だった?久しぶり」
「久しぶり、来てくれてありがとう」

高校卒業からだと5年くらい経つのか、すでに懐かしさが込み上げてくる。
友人を招き入れ、ソファに促す。
今日は樹くんは仕事で家にはいない。
いるのは妻の私と息子の蓮の二人きり。
そして、友人が私の大きなお腹を見て目を丸くする。

「んん?赤ちゃんお腹にいるの?」
「うん、今7ヶ月だよ」
「初産?」

まさかと私はリビングを挟んだ向いの部屋へと友人を案内する。
扉の先にはベビーベッドがあり、息子の蓮はすやすやと眠りについていた。
寝顔が夫に似ているので、見るたびに樹くんの子どもだと再認識してしまう。

「か、かわいい〜」

友人が口元に手を当て、声が大きくならないように配慮してくれている。
男の子なんだね、寝顔かわいいと言ってくれ、私はとても嬉しくなる。
起こしちゃだめだからと友人はそっとドア閉め、リビングのソファへ戻る。

「えっと、今の可愛い男の子は一人目?」
「そうだよ、蓮って言う名前なの」
「蓮くんかぁ……歳はいくつ?」
「もうすぐ1歳になるよ」
「1歳……」

出されたコーヒーを飲みながら友人は改めて私のお腹を見る。

「どうしたの?」
「年子、よね」
「うん、そうなる」
「……できやすい体質とか」

友人の彼女が何を言わんとしているのか、最初わからなかった。
しばらくして理解した。

「え、えっと、その……」

一人目を産んでから数ヶ月で二人目を妊娠したということは、身体が受け入れやすくなっている証拠、つまり孕みやすい身体だということだ。
友人は顔を赤らめて私に話す。

「あなたの旦那さん、結構、そのヤっちゃう人なのかな……」
「あ、あの、えっと……」

子どもができるということはつまり身体を重ねるということ。しどろもどろになりながら答えに詰まっていると私のスマホが鳴った。
ちょうど樹くんからだった。
友人は出ていいよと言ってくれたので出ることにした。

「もしもし」
「もしもし、身体の調子はどうかな?」

第一声に私を気遣う言葉が聞こえ、私は大丈夫だよと返事をする。そして高校時代の友人が突然だけれど遊びに来てくれて今、話をしていると告げた。彼の声に重みが増す。

「友人は男?」

(まずい、樹くんが警戒している声だ)

私はスマホをスピーカーにして友人にも話してくれるよう頼む。
友人は頷き電話に向かって話す。

「こんにちは、初めまして。私、彼女の高校時代の友人の者です。決して怪しいものじゃありませんので」

安心してくださいと言うと彼は相手が女性であり、身構えなくても良いと判断したようで警戒心をとく。

「こちらこそ、来て下さりありがとうございます。今日は顔を合わせることができず、すみません」
「いえいえこちらこそお忙しい中、愛する奥さまにご連絡する時間に私と会話してしまい申し訳ありません。ですが、マメですね。隣にいる彼女が羨ましい限りです」

なんて褒め言葉を言いながら友人と樹くんは話していた。
恥ずかしさでいたたまれない私は通話が終わるのを今か今かと待つのだった。




※※

通話が終わったあと、友人がそろそろ帰るねとコーヒーを飲み終えた。

「もっとゆっくりしてくれても良いのに」

私は樹くんが帰るまで蓮と二人きりなので構わなかったが、友人の彼女はサッとソファから腰をあげる。

「休憩時間にあなたの身体のことを気遣う夫。まさに絵に描いたような旦那さまじゃない。本当、羨ましいわ」
「あ、ありがとう」

言えない、友人には。

私と彼がどのような経緯で出会い、執着され、溺愛に至ったのかを。
そして、その過程で蓮を授かり結婚したことも。
今お腹にいる子どもも、樹くんの愛情がカタチとなった結果だ。
α性の子どもを身ごもると次の子も妊娠しやすい身体になるのと、どうやら私たちの身体は相性が良いらしい。
それは嬉しいことなのに、側から見ると夫婦の営みが盛んだと思われがちに見えるから恥ずかしい。
友人が玄関に続く廊下を歩いていく。
その後ろを追いかけると、彼女は慌てないでと気遣ってくれる。
靴を履き、私のほうへ振り返る。

「旦那さまによろしく伝えてね、それじゃあ」

また連絡してと連絡先を交換したのち、彼女は帰って行った。
高校時代、仲の良かった友人が来てくれて嬉しい反面、夫婦生活を暴かれたようで恥ずかしいと思う私なのだった。





END.
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