第二章 本編

初老の人物の正体は、蓮の父方の祖父だった。

あの後龍真とは別れ、祖父と一緒の車に乗っている。
別れ際、耳元で龍真が(大丈夫か、蓮?)と気遣ってくれたが、大丈夫と話して帰ってもらった。

車内には沈黙が流れる。
しばらくして、口を開いたのは祖父であった。

「蓮、もうすぐ高校も卒業だ。そろそろこちらの大学に入る準備をしないといけない」
「まだ一年あります。それに学校生活は楽しいですから、変わる気なんてありません」

冷静に、落ち着いて答えたが隣に座る祖父の圧が重い。

「楽しい?はは、面白いことを言う。あんなところで勉強しても価値などない。蓮、お前は息子と同じようになってはいけない。だから早くこちらに来るんだ」

父のようになってはいけない?

蓮の心に何かが引っかかる。

そのときスマホが鳴る。着信は、父からだった。
おそらく龍真が家族に連絡を入れてくれたのだろう。

「大丈夫か!今どこにいる?」
「父さん……っ」

焦った様子の父に、車の中だと伝えようとしたが、祖父にスマホをとられてしまう。

「久しぶりだね、樹。可愛い孫に会いに来たんだけれど、何か問題でもあるかな」

「……蓮に何をするつもりだ」

電話越しでもわかるほど父が怒っていることは確かであった。

「蓮には将来、一ノ瀬の家を継ぐ優秀な子になってもらいたいからね。今からこちらの学校に転校してもらおうと話していたところだ」

「そんなことはさせない!蓮は俺たちの子だ。あなたたちなんかに好き勝手させるものか!」

声を荒げる父を他所に祖父は冷静なまま、話を続けた。

「樹、お前が過去に行ったことを蓮が知ったら……どう思うかな?」

確実に相手を黙らせるような口調で祖父は語り出す。

「母親がなぜ、βからΩになったのか。そして母親に樹、お前がした犯罪まがいの出来事……」
「それ以上蓮に話すな」

怒りを抑えた冷たい父の声がスマホ越しに聞こえてきた。

「ではこのまま蓮は連れて行こうとしよう」
「ダメだ、……何が望みだ、あなたは」

祖父は一呼吸おいて答える。

「樹、お前は私たちの期待を裏切った。だからその子供の蓮に優秀なαの遺伝子を、私たちが選んだΩと番になって子を成してもらう。そして一ノ瀬家を継いでもらう」

それが目的だと祖父は告げた。
同時に蓮も驚きを隠せないでいた。

       ※※※



母親にした犯罪まがいの出来事?父は母に
何をしたのか?

蓮の心はもう疑問でいっぱいだった。

いつのまにか通話は終わり、スマホは蓮の元に返っていた。だか、それにも気づかないくらい今の蓮には先程の会話が耳に残って仕方がなかった。
どこを走っているのかもわからず、ただ車窓から見える景色を眺めている。

祖父の言葉が蘇る。

父は母に、犯罪まがいの何をしたんだ?
それが原因で、母はβ性からΩ性に変化した?

わからない。

そして、父から語られない理由とは一体?

混乱の中、車は走り続けていた。







続く。
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