第二章 本編


僕の両親は仲が良い。
側から見てもわかるぐらい仲が良い。

それは《運命の番》だから?

やがて僕も出会うのだろうか?
感情を揺さぶられるほどの相手が……。




枕元にある目覚まし時計が鳴るーー。
止めてベッドから起きると制服に着替え、身支度を整えてリビングに顔を出す。

「樹くん、お味噌汁、熱いから気をつけてね」
「ありがとう、君が作る朝食を食べると一日がすごく頑張れる」

出されたお味噌汁の椀を受け取るだけで甘い空気が流れている。
なんだか夫婦二人だけの世界にいる気がして席に着くのを悩んでしまう。

何かにおいて母親を優先する父に、構いすぎではとも思うが、子どもたちを蔑ろにすることもなく、とても大切にしてくれている。

長男が起きたことに気づいた母が声をかける。

「おはよう蓮、今朝は早いのね」
「おはよう、蓮」
「おはよう、父さん、母さん」

テーブルには炊き立てのご飯と豆腐のお味噌汁、卵焼きが用意されていた。
母が朝から作ってくれたのだろう。

時刻は朝の6時30分を過ぎたところである。

特に朝練もしていない蓮には早い時間だか、今朝は何故か早くに目が覚めてしまった。
とはいえ、必要な物は全て準備OKだし、あとは朝食を摂るだけだ。しかも学校まで自転車通学なので、それほと慌てなくてもよかった。
母が温かいお茶を淹れてくれる。

「はい、熱いから気をつけてね」
「ありがとう」

受け取り、朝食を食べ始める。
食卓にあるミニカレンダーに印があった。
今日は母は仕事のようだ。
学生時代からの夢だった歯科衛生士の仕事を、母は今もしている。
子どもを産んで休んでいたらしく、父はこの機会に辞めて専業主婦になってもらおうと考えていたが、母がどうしても続けたいと懇願したらしい。
母には甘い父である。条件つきで引き続き働けることになったのだ。
そもそも父がどんな条件を出したのか、そしてそれを受け入れた病院も病院だが。
母が勤めている職場は、家から少し離れているので仕事のある日は必ず父が車で送っている。
もちろん帰りも電話でやりとりし(メールだと声が聞けないから不安らしい)、迎えに行っているとのこと。

「ごちそうさまでした」

朝食を食べ終えた蓮は席を立った。





     ※※※

自転車通学は本当に落ち着く。
バス通学にしなくて良かったと思う。
学校までは約20分。朝の清々しい空気を身体で浴びながら、再び今朝の出来事を思い返してしまう。
うちの両親は、特に父は過剰なくらい母を愛している。
愛していると言うより、あれは溺愛だ。
それは父がα性で母がΩ性、惹かれ合う《運命の番》に起因しているらしいがそれにしても、毎日あの生活を見せられると……
結婚して何年経つ?
そんなことを考えなからふと思い出した。

「そう言えば、弟を連れてくるのを忘れたな……」

蓮には同じ学校に通う一つ下の弟と、その下には妹と弟がいる。弟を起こすのが日課の筈だか、今朝は忘れていた。
置いてきた弟が大慌てで家から飛び出してくる様子を思うとクスッと笑いが出た。

「遅刻するなよ、蒼」





   ※※※

学校に到着すると自転車を置きにいく。

「おはよう蓮くん!」
「今朝は早いね、おはよう蓮くん」
早速同級生の子たちから声をかけられる。

「おはよう」

幼い頃《挨拶だけはしっかりしなさい》の母親の言葉がいまだに抜けないが、実際大切なことであるのは間違いない。小さなコミュニケーションだと思えば苦にはならなかった。自分から話しかけることはあまりないので、話しのきっかけになればと思う。

そしてよく周囲の女性たちから声をかけられるが正直あまり興味がない、年頃なのになぜだろうと思うが、ないものはないのだ。

そして蓮は父から受け継いだものがもう一つあった。
それは彼がこの世に産まれたときから決まっていた。

母が蓮を産んだあの日。

性別は男、そして……
第二の性はα。

間違いなく父方の遺伝子を濃く受け継いだようだ。

そのせいで、父方の両親、祖父母からはいろいろとうるさいことを言われている。
将来、一族の上に立つ為には厳しく育てなければ……とか。

過去に一悶着あったらしく、父は祖父母と仲が良くない。
一緒にも住んでいない。
それは母が関係しているみたいだけど、詳しくは知らない。

一体両親と祖父母との間に何があったんだろうと疑問に思ったこともあったが、

「いつか、話すときがくる」

としか父は教えてくれなかった。
気になりつつも、今は触れないようにしておこうと思う。
後方から、聞き慣れた声が聞こえてきた。

弟だ。

遅刻しなかったんだ、偉い。

心の中で弟を褒め、ひらひらと手を振って合図を返した。


   ※※※

「な、ん、で起こしてくれなかったんだよ〜」
「ごめん、今日は忘れた」
息を整えながら追いついた弟に謝りながら校舎へと入っていく。よほど慌てていたのだろう、気崩された制服がそれを物語っていた。
一年のクラスは三階で、蓮はニ年なのでニ階のクラスへと続く階段を上がる。その後ろを蒼が続く。

「……もしかしてリビングでの?」
「わかってたなら起きて」
「いやぁ……布団の温もりが恋しくて」
「じゃあこれからはずっと、万年遅刻だ」
「そんなこと言わずに、起こしてください、お兄さまぁ〜」
「いつまでも面倒は見れない!」

語尾を伸ばしてお願いする弟にビシッと言ってやる。
するとざわざわと周りが騒めきだした。
「ねえ、あの二人って一ノ瀬兄弟だよね!」
「朝から目の保養〜」
「私、今朝蓮くんに挨拶返してもらっちゃったからもうそれだけで一日幸せよ!」

女子生徒たちが騒ぎだしたので他にも何か言ってくる弟を無視して自分の教室に向かった。












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