第二章 本編
ファーストキスは 林檎の味
祖父はいなくなり、蓮は彼女に手を引かれ奥の部屋へと移動する。
あらかじめ用意されていたようだ。
「さぁ、こちらに」
祖父から選び抜かれた彼女はきっととても、自分が想像するよりはるかに優秀なのだろう。
なんだか考えることも面倒くさくなってきた。
このままこの気持ちを解放したら、楽になれる。
頬に触れてみる。
もっと触りたい。
そう身体が欲している。
指先で唇に触れると柔らかい感触。自分とは違う。
目の前には瞳を潤ませて蓮を見ている彼女がいた。
身体の熱がより上がった気がする。
蓮は彼女をベッドに横たわらせ、自身もその身を重ねる。
「優しく、してくださいませ」
何かはわかっていた。蓮自身も初めてなわけだが、そういった知識はあった。
彼女の着ている衣服に手をかける。
ゆっくりとボタンをはずしていく。
時が、ゆっくりと流れているように感じた。
彼女の鎖骨が露わになる。
「……っ!」
そのまま唇を首筋に押し付けたい衝動にかられる。
制服のネクタイが邪魔になり、乱雑に首元から外して床に捨てた。
彼女の首筋に唇が触れる。
それだけで馨しい匂いが鼻腔をくすぐった。
艶かしい声を彼女が発する。
この先へ進めばもっと……
彼女の下着に手をかけた、そのときだった。
ジリリリリリ!!
けたたましく鳴り響く音。
「火事だ!早く避難を!!」
料亭内で火災が発生したことを知らせる警報機の音と、従業員の避難を指示する声が聞こえる。
「な、なんですの?火事?避難?」
横たわっていた彼女が驚いてその身を起こす。
「こんな話し、私は聞いていませんわ。本当に火事なら逃げないと」
蓮のそばから離れ、そそくさとドアから出て行ってしまう。
残された蓮は動くことができず、身体の熱は溜まるばかりだった。
(避難してください)
(早く避難通路へ)
ドアがどうやら開いているようだ。
閉め忘れたのだろう。
遠い意識の中で避難の声が聞こえている。
きっとこのまま死んでしまうのだろう。
今の苦しみから解放されるなら、それでも良いかと思う。
「ちょっと、本当に危ないところよ。ーー、どうする?」
「ーーのせいで、すまない。これを彼に」
「どうやって飲ませるの?」
「ーーで」
「な、なんで!」
意識が混濁しているとは言え、外野がうるさい。
「……だ、だれ……」
サイレンの音と混じって誰かがこの部屋にいるのは分かった。
遠のきそうになる意識の中、「わかったわ」と話す女性の声が聞こえた。
蓮の寝ているベッドが軋む。
目の前にフード?を被った者が近づいてくる。
「緊急用処置だから、しばらく眠ってしまうけど」
(何が、どういう……)
その瞬間、柔らかいものが唇に触れた。感触からして唇だと気づいた瞬間を狙って相手は舌をねじ込んできた。
(な、何を……)
ねじ込まれた舌にのっていた固形物のようなモノを奥に押し込まれる。
一度離れた唇が再び塞ぐ。今度は液体を含んでいるようだ。
(ゴクン)
されるがまま、飲み込んでしまう。
フード下に隠された目と合った。
「飲んだみたい」
「すぐに裏ルートで出よう」
「見つかったら?」
「そのときはそのときだ。ーー、あとは頼む」
「借りはきっちり返してよね。それと、絶対に死なないで」
「もちろん。このーーーーも全て決着をつけなければ」
《開発者として》
そこで蓮の意識は無くなった。
唇に触れた、ねじ込まれた際に彼女の薫りを感じた。
ファーストキスは甘酸っぱい、林檎の味だった。
続く。