本編
樹くんと別れてニ年が経った。
私は彼と別れた後に退職し、新たな職場で一から始めることにした。
歯科衛生士、というお仕事は私にとってやりがいのある職で、それ以外の職種にはどうしても就けなかったのだ。
「初めまして、本日から一緒に働くことになりましたーー」
挨拶をし、顔を上げると、新人の私をみんなが歓迎してくれた。
「よろしくね」
「わからないことがあったらどんどん聞いてね」
「ありがとうございます」
新しい職場は、私のことを受け入れてくれたようだ。
一番上のリーダーに当たる者が年齢も近い東城さんという男性の方を私の教育係に付けてくれた。
三歳年上の、先輩歯科衛生士さん。
「こんにちは、初めまして、よろしくね」
「初めまして、東城さん。どうぞよろしくお願いします」
私は握手を交わす。
東城さんは気さくな方で笑顔で握手をしてくれ、その日から彼は私の教育係として教えてくれることになったのだ。
私はクリニックにある物品の配置や、予約時間の仕方などを彼から教わる。
お昼になり、東城さんが私に話しかけてきた。
「以前同じ職種をしてくれていたから説明がしやすくて助かるよ」
特に専門用語を用いての説明は、歯科衛生士の勉強をしていなければ素人にはわからないことだらけだった。
「いえ、以前のところでは一年ぐらいしか働けていないので」
私は辞めた理由を聞かれるのではないかと身構える。しかし東城さんは気にしていないようだった。
「自分に合わない職場に居たら躰、壊しちゃうからね。この仕事場はどうかな?君に合うと良いんだけど」
ちなみに僕は二年居座ってると笑いも含めて空気を和ませてくれた。
特に追求することなく、話題を変えて面白くしてくれる。
私は、この人なら話しやすいなと思ったのだった。
※※
それから私は約一ヶ月半をかけて東城さんから教わり、飲み込みが良いとのことで独り立ちすることになった。
もちろんフォローはすると東城さんが言ってくれたので、私は安心して仕事に臨むことができたのだった。
夕方、仕事を終えた私は帰ろうと身支度を整えてクリニックの裏玄関を出たところで東城さんと出会った。
「お疲れ様でした。東城さん」
挨拶をし帰ろうとすると、東城さんが引き留めて来た。
「お疲れ様、あの……」
「はい?」
「独り立ち祝いに、飲まない?」
「……」
「あ、いや、嫌だったら良いんだよ!深く考えないでね!」
黙る私を見てあたふたしている彼の姿を見ていると面白くて吹いてしまった。
「ぷっ、あはは。東城さん焦りすぎです」
私はひとしきり笑うと、良いですね、飲みましょうと了解の合図をした。
「ほんとに」
「はい!でも、もちろん、年上の東城さんおごり、ですからね」
片目を瞑ってそれで良ければ行きますと私は言った。
東城さんは、はははと笑うと面白い後輩ができたと笑顔になる。
「もちろん、奢らせてもらいます」
可愛い後輩さん、と私の手を取り歩き出す。
握られた手に、私は嫌悪感を感じなかった。
私の新たな恋が、始まった気がした。
続く。