本編


あれから数週間に一度、私は樹くんと交流目的であの図書館の横の談話室で集まり、話すことが多くなっていった。

歯科衛生士、医者だけでなく、栄養面、セラピストなど、数多くの職種がいかに必要かという話しにもなり、今度はもっとたくさんの人と交流したい気持ちが私の中に湧いてきた。
そんな中、樹くんが提案してきたのは、自分の勤めている病院に来てみないかと言う話しだった。
病院ならばより多くの職種、観点から意見を聞かせてもらえる可能性が高い。
その得た知識を私は自分の勤めているクリニックに持ち帰り、職員たちに広められたら良いなと思う。

「ぜひ、機会を設けてくれると嬉しいです」
「じゃあ、また日は改めてメールで送るよ」

樹くんが席を立ち、私も一緒に立ちかあがる。

「うぅ……」

前方を歩く彼が目頭を抑えて座り込む。

「どうしたんですか?!」

何が起こったのかわからないまま、私は躰を起こす彼の手助けをする。

「ありがとう……ちょっと最近……」

体調が悪くてと話す樹くんの顔色は青白い。
倒れてしまいそうな雰囲気である。

「仕事、忙しいの?ごめんなさい、私が話したいって言ったから」
「それは違う!」

辛いながらも彼は否定してきた。私のせいではないと。
フラつく躰を私は支えて近くの椅子に座らせる。

「この話し合い、俺にとっても意味のあるものだから、気にしないで」
「……ちょっと待っててください」

私は持っていたタオルハンカチをトイレの洗面台で濡らすと、樹くんに手渡す。

目元に当てるとひんやりとして気持ちいい。

「ありがとう、少し楽になってきた」
「そっちの長椅子の方がもっと楽なんじゃないでしょうか?少し、待っててください。ここの職員さんに聞いてみます」

私は談話室を管理している詰所へ行き、友人の体調が悪くなり横になりたいので長椅子を使わせて欲しいと説明した。
職員は椅子だとお辛いでしょうと詰所内に設けられたソファを使って下さいと言ってくれた。
職員さんの計らいで詰所のソファまで私は樹くんの躰を支えながら歩き、横になってもらう。

「無理しちゃ、ダメです」
「そう……だね」

彼は渡したハンカチを目元に当てながら深いため息を吐いた。

「ごめん、心配かけて」

落ち着いたら連絡すると告げると、私に帰るよう促してきた。

その時、私の鞄からスマホが鳴った。

迷っていると樹くんが出ていいよと言ってくれる。
私はごめんなさいと小さく謝り、電話に出た。

「お疲れ様、お友達との交流会、どう?捗ってる?」

碧さんからの電話だった。

彼には、《お友達がお医者さん》で私の仕事、つまり《歯科衛生士と他職種としての》交流会として集まりに出てきていることになっている。
これまでも彼は会う相手が、男女の性別に関して特に問わなかった。
そして、本日は夕食を一緒に摂ろうと言ってくれていた。

「それが、お友達の体調が悪くなって……」
「そうなの!?お友達、大丈夫?」

私は顔を樹くんに向けてどうしようかと悩む。
彼は帰っていいよと言ってくれているが、体調不良の人間をそのままにはして置けない。
私は思い立つと、碧さんに謝る。

「碧さん、ごめんなさい。今日の夕食は一緒に過ごせないです。病人を置いて帰ることなんてできないから」

碧さんは電話越しに少し沈黙したが、それが君の良いところだしねと言い、お友達の介抱しっかりねと言ってくれた。

「碧さん、ありがとう」
「ん、この間埋め合わせしてくれたから、また今度も埋め合わせ、してね」
「はい、また覚悟しておきます」

ふふと笑い私は通話を切る。
鞄にスマホを直すと樹くんの様子を伺う。
顔色は先程より大分落ち着いたようだ。

「躰、どこか悪いんですか?」

樹くんがソファから半身を起こす。

「本当に疲れが溜まっているだけで、ほかに悪いところなんてないから」

心配かけないでね、と苦笑いした。
違う、と私は直感的に感じた。

何か、彼の身に起こっているのではないかと。
だがそれを解明する手段など私には無かった。
ソファの横の椅子に座ると、私は今日まとめた資料を再度整頓し始めた。
樹くんがもう大丈夫だから帰ってと言ったが、私は体調不良の人間をそのままにして帰るほど冷たくありませんのでと言い放つ。

「体調、戻って帰れるまで一緒にいますので」

ゆっくり躰、休めてくださいと樹くんの肩を抑え、ソファへと戻した。

「……っ!」

彼が目を見開いて、そして慌ててその身を起こし、私の顔から視線を逸らした。

「樹くん?」

私は何が起こったのかわからなかった。
ただ、そのまま彼の体調が戻るまで付き添うのだった。








彼女が躰に触れた瞬間、躰の奥から何かが弾ける音がした。
樹は驚き、その身に起きたことを冷静に考えようとする。
彼女が心配そうに自分の顔を覗き込もうとするが、目が合わせられない。





彼の鼓動が、新たな変化を生み出し始めた証拠だった。







続く。
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