本編
新しい職場に就職して一年が経った。
東城さんと過ごすことが当たり前になったある日、彼から《僕たち、付き合わないか?》と言われた。
私はとても嬉しく、その告白に頷き、晴れて私と東城さんは恋人同士となった。
職場でも公認の仲となり、私はこのまま東城さんと一緒になりたいという気持ちが高まっていった。
職場内では苗字で呼び合うが仕事が終わりプライベートな時間となると、私は彼のことを下の名前である碧さんと呼ぶようになる。
「本日もお疲れ様でした、碧さん」
「こっちこそ、お疲れさまでした」
帰り道、今日は夕飯何食べる?とご飯の話しをしながら歩いていると、彼のスマホが鳴った。
「誰かな?」
彼がスマホを見ると、上司の方からだった。
「なんだろう?ちょっとごめんね」
彼は歩道の脇にいき、電話に出る。
私はその間、彼を待って道路の反対側に目を向けた。
すれ違う車両の間、反対車線の歩道に人影が見えた。
見たことのある、その姿。
私の記憶が、過去を思い出させる。
「樹くん……」
口に出してしまった瞬間、電話を終えた東城さんがやって来た。
「お待たせ、ん?どうかした?」
「いえ、なんでもないです」
私は過去を振り払うように首を振ると東城さんと一緒に歩き出した。
※
彼女の存在をこの目で確かめることができた。
以前、車内から見た彼女が車道を挟んでの距離にいた。
彼女の隣にはこの前一緒にいた男性がいる。
楽しそうに会話をしていた。
彼女はもう、彼と付き合っているのだろうか?
いい知れない不安が樹を襲う。
ー焦ってはいけないよ、慎重に動くんだー
瑠偉の言葉が蘇る。
「そうだ、焦らない。彼女をもう一度、この腕に抱くまでは」
樹は落ち着きを取り戻すとその場を立ち去るのだった。
離れていた二人の時間が、同じ世界に位置してゆく……
続く。