天命は巡り逢う 第三章


遥華は自宅のリビングのソファに膝を抱えて考え込んでいた。

もうここにはいられない。
早くなんとかしなければ。

そう思えば思うほど、うつ手が浮かばない。

「私は、どうしたらいいの……晴人兄……」

ギリギリまで頼りたくなかった兄の名を呼んでしまう。
晴人も、料亭の件で関与していた。
無事の連絡をもらった矢先、今度は自分の身が危機に陥っている。
そして解決できない問題点を、さらに広げる出来事が起こった。

玄関の呼び鈴が鳴る。

居留守を使おうとするが、相手はしつこく鳴らしてくる。

「もう、こんなときに!誰よ!」

リビングから立ち上がると、遥華は玄関に向かう。
ドアスコープを覗くとそこには見知った姿があった。
防寒用のフードの下に見える特徴的な髪型と、眼鏡。

ガチャりとドアを開け、相手の名を呼ぶ。

「翔……」

そこには彼女の従姉弟である、陽寄 翔の姿があった。

「遥華姉さん、久しぶり!」

翔はフードを脱ぐと、再会を喜び、抱きついてくる。

「ちょっと、翔、離れて」

引き離そうとするが彼は遥華に抱きついたままなかなか離れようとしない。

「学校、行ったら早退したって聞いて。身体大丈夫?」
「学校?」

遥華は翔の顔を覗き見る。

「なんで学校に」
「姉さんを探しに」

翔は遥華の母親である菜那の妹の子である。
妹は駆け落ち同然で家を出た身なので、本来跡は継げないのだが、陽寄家には現在、男子の子どもはいない。
なので翔が次期当主候補となっているのだ。
翔は名残り押しそうに遥華から離れ、自分がやって来た理由を話し出した。

「遥華姉さんの《NB》の件、どちらの家にも伝わっている。騒ぎを大きくしたくなかったら陽寄家に帰ること、だって」

まったく、人使いの荒い一族だよと翔は肩をすくめる。
一方遥華は、翔にまでこの事実が知れ渡っていることに驚愕した。
そして翔が今日、自分の通う学校に顔を出したと言ったのだ。
遥華は翔の肩を掴み、問いただした。

「翔!このことは」

翔はああ、と不貞腐れた様子で語り出す。

「学校とオトモダチには言ってない。それより遥華姉さんに馴れ馴れしくしてた三人組。確か名前、蓮って言ったかな?姉さんの連絡先知ってるし、心配そうなフリして、ほんと邪魔だなぁ……」
「翔!」

掴んだ肩に力を込める。
それ以上、続けるなと言う意味で。
言葉を静止した変わりに翔は真顔で遥華に質問してきた。

「遥華姉さんは、あいつと一緒になったりしないよね?遥華姉さんを幸せにできるのは、一族の血を守る為にも、俺しかいないんだから」

肩に置かれた手を掴み、愛おしそうに手首にキスをする。

「……っ」

従姉弟といえ、翔は小さい頃から遥華に好意を抱いていた。
翔自身も辛い生い立ちを経ており、あまり強くは言えない。
だが、今の発言で何かが違うと思った。

「離して!」

翔を突き放し、遥華は睨みつける。

「姉……さん」

拒まれたことが信じられないという表情で翔は遥華を見つめている。

「帰って、翔」
「なん、で?」

ドアを閉めようと話しを終わりした途端、翔は泣きそうな顔をする。

「陽寄家の中で俺を助けてくれたじゃないか。こんな簡単に離れて、突き放して、そんなの嫌だ。姉さんはあの男とは結ばれちゃいけない。《NB》の血を絶やさない為にも、俺と一緒にならなきゃいけないんだ!」

わかってよ!と翔は叫ぶ。
遥華はもう聞きたくないと耳を塞ぐ。
そしてドアを閉めた。


私は、陽寄家の一族に残された特別な血を持つ。
それが、周囲をおかしくさせている。
もう、居たくない、この世界に。


背中越しにズルズルとドアにもたれかかる。
外で落ち着きを取り戻した翔が話しかけてきた。

「姉さん、言い忘れたけど、こっちの家に姉さんの血液サンプルがあるんだ」

晴人が実験用に遥華から採取したモノだろう。
翔はそのサンプルについて告げた。

「このサンプル、Ωの人に使ったら、どうなるんだろう?あ、もちろんαにも」

あははと翔の笑う声が耳に残る。
何かとんでもないことに使用される気がした。

「翔」

ドア越しに名を呼ぶ。

「今日は帰るよ。遥華姉さんが自分からこちら側に来てくれるよう、祈ってる」

ドアから足音が遠ざかる。
陽寄家が翔を使ってまで私を連れ戻そうとしている。
それは希少なこの身体に流れる血が原因だ。


自分から赴くしか他ないと。


そう遥華は決意した。










続く。
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