天命は巡り逢う 第三章
学校から早退した遥は自分の住むアパートに帰り、これからのことを考えた。
遅かれ早かれ、居場所は特定される。
それならばこちらから赴いた方が良いのかもしれない。
「なんの為に、私と兄があんな騒動を起こしたのか……わからなくなっちゃった」
未来を変えるために、新しい世代の子たちへ不安なくすごせる将来を作るためだった筈なのに……
ため息ばかりが出る。
考えに耽っていると、お昼近くになっていた。
「しょうがない、とりあえず食べるか」
冷蔵庫を開け、何か適当な昼食でも作ろうしたときだった。
着信が鳴る。
冷蔵庫を閉めるとスマホが置いてあるリビング兼キッチンのミニテーブルへと向かった。
画面には《非通知》と出ていた。
ゴクリと生唾を飲み込み、遥は電話に出る。
「……もしもし、誰?」
「やっと見つけたよ、遥華」
相手は穏やかな口調で話しかける。しかしそれはあくまでも表面上の繕いでしかない。
「あちらの家を追い出されたからと、名前まで変えて、遥華から遥、いや、苗字は間違ってはいないか、よく学校が通してくれたものだよ」
やはり耳に入っているようだ。学校に知られるのも時間の問題だ。
「何が言いたいの?」
通話の相手は電話越しにくぐもった声で笑う。このまま切ってやろうかしらと思う遥華だったが、相手の動向を探るために問いかけた。
相手は笑いを止め、静かに話す。
「陽寄 遥、いや、如月 遥華。お前の母親のようになりたくなかったら、こちら側に戻りなさい。それと……」
「お母さんを侮辱しないで!」
声を荒げて抗議をする。
「如月家も気づいたようだ。陽寄家も気づかなかったが、晴人のおかげで漸く謎がとけた」
再び相手が、陽寄家のお目付役が電話越しに笑う。
そして陽寄家、如月家が知ってしまった事実を彼女に伝えてきたのだ。
「遥華、お前が陽寄家に伝わる希少な存在、《NB》natural bloodを持つ存在だとな」
「……っ」
バレてしまった、自分の正体、そしてその存在が。
長年母親がそして兄が隠し通してきた秘密を、とうとう知られてしまったのだ。
今まで邪険扱いしていた如月家も、この事実を知っておそらく遥華を連れ戻そうと躍起になるだろう。
それだけ彼女の希少価値は高いのだ。
「昔……陽寄家に《NB》の者が産まれたときは一族みんなから疎まれ、結局死んでしまったわ」
「それは過去だ。当時はまだ知識がなく、危険な存在だと恐れられていたからね。でも、お前の兄、如月 晴人の書いた《NB》の遺伝子、血液分析などの試験データを見て驚いたよ」
お目付役は続けて話す。
「《NB》は、どのバース性も持たない血である。しかし、その血はβ以外のα、Ωを半ば強制的に発情、混乱させる力がある。それは以前から知られていた事実だ。だが、晴人の研究で新たな一面を知れた」
それこそが貴重、かつ遥華の存在意義を示すものだった。
「つまり発情状態そのものを鎮めさせる、全く反対の方法を生み出す性質があることに気づかせてくれたのだよ」
つまり発情期ではないものには、発情させ、発情しているものには鎮めさせる、アンチな力が働くことに気づいたということだ。
「私を……どうするつもり?」
静かに遥華は問う。答えはわかっていたが、それでも聞いてしまった。
「こちら、いや、如月家でも構わない、帰って来なさい。あの事件のことは今回お咎めなしとする。その代わり、お前のその血を、性質を我がプロジェクトに使用させてもらう」
「プロジェクト?」
「如月製薬と共同し、《NB》を使用して作ったタブレットを作る。発情を促進、又は抑える力があるということは、それ以外にも使い道がある。つまりお前は金の卵を産む存在だよ!」
はははと高らかに笑う声が耳から離れない。
遥華は自分の存在が、血が、お金にされてしまうことに恐怖を覚える。
「……そんな……こと」
「良い返事を待っている、遥華。それと翔をそちらに向かわせた。よく話すんだ」
どちらにとって幸せか、を。
通話が切れ、力なくスマホを下ろす。今度はメッセージの通知が鳴った。画面には《一ノ瀬 蓮》と出ていたが、遥華は出る気力すら湧かなかった。
続く。