フェイルアーの恋
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独式挨拶
「003ったら何であんな事」
「あんな事って?」
「あんな事って言ったら私が004を…っなんでいるの!!」
キッチンで紅茶を入れて甘いおやつでも食べて落ち着こう。誰もいないことを言い事にぽつりと言葉を落としたら当たり前のように拾い上げられて危うく口を滑らしてしまう所だった。…もう遅いか
「俺も喉が渇いてね。で、フェイが俺を何だって?」
「……分かってる癖に」
「皆目見当もつかんな」
「嘘つきはほっぺた摘んでいいんだっけ?」
004の頬を摘みながらため息をついて渋々口を開いた。この男は私に言わせたくて仕方ないらしい。本当、いいご趣味をなさってること。
「…私が、004の事…その、…好きなんじゃないかって言うの」
「何も間違っちゃないな」
「いや、そうだけど!そうじゃないでしょ!」
「俺はそうは思わない」
「え……そう、なの…?」
ふににっといくら力を込めても痛がらない頬から手を離して動きを止める。どうして私の気持ちなのに皆が寄ってたかってそうだと言い張るのか、さっぱりだ。確かに004の事は好きだけど、それは皆と変わらない。…変わらない、でしょ?
「コハル」
「ッ…なに、アルベルト」
「今ドキッとしただろ」
「…うん」
「それはただ単に本当の名前を呼ばれたからか?それとも俺に名前を呼ばれたからか?」
「……分かんない」
「…こりゃ前途多難だな」
「だってだって!…彼みたいに、その…そばに居るだけでドキドキ…とかそういうの、ないし」
なんで私は当人を目の前にこんな話をしているのか。いや。考えたらもっと訳わかんなくなりそうだから辞めよう。そもそも恋って、もっと胸が締め付けられるような、好きだと伝えないと爆発してしまいそうな気持ちの事でしょ?…そりゃあアルベルトにだって、好きだとは伝えたが…そんな、そんな…あれ?
「あ、あるべるとっ…何か益々分かんなくなってきちゃったっ」
「…やれやれ」
「え?ちょ、あるっ…!!?、」
手を引かれて抱き締められる。初めてじゃない。今まで何度だってこんなふうに助けてもらって、…でも今は…心臓だってこんなに……どうして…?
「あいつにはあんなにくっついておいて、俺には何も無しなのか?」
「あ、あいつ?」
「首に手を回してぴったりくっついてたじゃないか」
「…002の事?だってあれは、ああしてないと落っこちちゃうし」
口の端を緩くあげて余裕たっぷりな表情で腰に回された手に更に引き寄せられる。すごく様になっていて経験の差を感じて思わず感心してしまった。
「へぇ、なら俺も落っことしてやろうか。何処にする?」
「…もう。直ぐイジワル言うんだから。」
アルベルトの意地悪を跳ね除けて、彼の言葉に私の思考はあの日まで遡る。脱出作戦の前日に私がどうしても伝えられなかった事が今日まで胸に突っかえていた。
「………あの時、本当はね…004が私を呼んでくれた事、凄く嬉しかったの」
控え目に見上げれば優しい微笑みを湛えて、知ってる。なんて返事をしてくれた。あれ、アルベルトなのにかっこいい。
「なんならやり直すか?」
「え?」
「コハルの本音を聞かせてくれ。コハルが望めば俺達は必ずその手を取る」
アルベルトの言葉に目頭が熱くなり首に手をまわして縋り付くように抱きつく。するとすとん、と息苦しさが無くなった。どうやら私はずっと、こうしたかったらしい。
「……傍に…アルベルトの、皆の傍に居たい。……一緒に連れてって…」
「お安い御用だ。…ったく。あの時言えてりゃ、合格点をやったんだがな」
手に力を込めて強く抱きつくとアルベルトもそれに応えてくれる。やっぱり、彼とは違う。ドキドキしてるのは同じだけど、もっと切なくて苦しかった。でも今は何だか胸がじんわり暖かい。
「こんなの、今じゃなきゃ無理」
「……そうかい」
もっと温もりが欲しくてアルベルトの肩に額をぐりぐり押し付けた。なんだろう、この気持ち。満たされているのに、何処か物足りない。聞いたらまた呆れられるだろうか
「ねぇ…不思議なの」
「何がだ?」
「とっても満たされているのに、満足してるのに……物足りないの」
「フ、…」
「あ、笑ったな?」
「教えてやるさ」
呆れられはしなかったが笑われた。ちょっとムッとしたのでアルベルトと少し距離を置いた。表情が見えるようになって余計にいい気がしない。真剣に聞いてるのになんで笑ってるの!
「そういう時は、こうするんだ」
アルベルトの顔が近づいてくる。じっと目を見つめるとアイスブルーの瞳が綺麗でつい見とれてしまう。唇が触れてしまいそうになるまで瞬きを忘れていた。
「………なんだ、これは」
「なにって、手じゃない」
「…………」
「私ね、日本人なの。そんなに気安くキス出来ない」
「ドイツ人だって、誰彼構わずキスする趣味はないが」
「挨拶じゃないの?」
「ありゃ頬だしフリだ、フリ。それによっぽど親しい仲じゃないとしない」
「そうなの?」
回していた手を離すとアルベルトも腰から手を離してくれる。外国人の博士なんかがみえた時は良く頬にキスされたけどフリじゃ無かったけどな…
「あぁ!?」
「へ?」
「キスされたのか、あいつ達に!?」
「え、声出てた?」
急に取り乱したアルベルトに小首を傾げる。そういうものだと思っていたがどうやら違ったらしい。…そう考えるとちょっと気持ち悪くなってきた。やっぱり日本人だからと断っておけば良かった…
ちゅ、
ほっぺたに柔らかい感覚。そうそう、こんな感じに。でももう少しヒゲが当たって痛かったし唇もカサついて……
「……ん?…ええ!?」
「なんだ?挨拶なんだろ?」
「し、知らなっ!違ッちょ!な!」
「あぁ、こっちもだな」
「ちょっちょ、まっ!今フリだって!いや!そうじゃなくて!」
「じっとしてろよ、間違えて唇にキスしちまいそうだ。俺はドイツ人だからな」
「ま、待って!待って!アルベルト!まっ!」
逃げれば逃げるほど逃げ場を失って遂に壁まで追いやられた。まずい!と思って頬を手で抑えて目を瞑る。…いつまで経っても音すら立たないので目を開けてみると額に柔らかい感覚が。
ちゅ、
「んあー!!卑怯者!!死神!!ドイツ人!!」
「最後のは悪口じゃないぞ」
「もー!!!」
「まぁまぁ、ただの挨拶だろ?挨拶。…でも他の奴にされそうになったらちゃんと断るんだぞ」
「断ったよ!?今!今私断った!!」
「例外もある」
「無いよ!」
「そんな事よりコハル、喉乾いた」
「知らないよ!」
「003が紅茶が欲しいそうだ」
「それ早く言いなよ!」
2018/03/09
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