フェイルアーの恋
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愛おしい人
「ねぇフェイ、好きな人とかいるの?」
「なに、急に」
「あら、女の子の会話ってこんなものじゃない?」
「私は女の子って年でもないけどね」
「いいから!お話しましょ!」
003の言葉に眠っている001以外の全員が反応した。と言っても今は002と004、009しか居ないのだが。
この前のフェイと004の姿を見ていた003はお節介を焼きたくて仕方なかったのだ。当人の前で楽しそうに話題を出す003に009はちょっと大胆だな、と苦笑いをこぼした。
「恋バナね。好きな人かぁ…んー、好きだった人なら居たよ」
「好きだった人?」
「うん、桜になっちゃったけどね」
「桜…桜って、あの、お花の?」
フェイが改造されたのは自分達よりも少し前だ。となると戦争末期な訳で。相手が亡くなっているのは想像に難くないが桜とはどういう事だろう。と首を捻る
「そう。彼は…桜花…えっと、所謂特攻隊だった」
「特攻隊!?」
「っ!?ご、ごめんなさい…私、不躾だったわ」
先程とは打って変わって曇ってしまった003の表情に困ったように笑って首を振る。もうとっくに噛み砕いて飲み込んでしまった痛みなのだ。彼のことを想うだけで泣いてしまっていた当時のようには傷口は痛まなかった。
「ううん、いいのもう平気よ。随分昔の事だから。それにね、毎年春に桜になって貴女を見つめるからどうか泣かないでって言ってくれたの。素敵でしょ?」
「…えぇ。フェイ、愛されていたのね」
「そう思う?照れるな〜」
「その、良ければもう少し深く聞いてもいいかしら」
「もちろん!何でも聞いて!003のお話も聞かせてね」
乙女の話に花が咲いたのを耳の端で聞きながら002は頭を抱えた。なんだよそりゃ。フェイの表情を見れば嫌でもわかる。頬を染めてはにかみながら嬉しそうに男の話をする理由はただ一つ。
そいつの事が今でも好きなんだ。枯れる事なく終わった恋は永遠だ。更に思い出の中で美化されて美しく胸の中に残る。こいつは厄介なライバルの誕生だぜ…と002は見知らぬ男に奥歯を噛み締めした。
「へぇ!桜の木の下で?ロマンチック!それで、キスしたんでしょ?」
「ふふ、してないの。」
「えぇ!?どうして?」
「その頃の日本は今ほどそういう事に関して、こう、気軽じゃないと言うか…キスなんかは以ての外。ハグが精一杯」
「そうなの?」
「うん、まぁ…わかる気がするよ」
いつの間にか巻き込まれた009に同情しつつも004はフェイの話をしっかりと耳に入れる。フェイにも恋人が居たのは誤算だった。しかし手も口も出せない者を恐れる理由はないと思考を巡らせる。
「形のないものを恨んだりした事もあったけど、私なりに折り合いをつけて前に進んでるつもりだよ」
「…でもどうしてそんな頃の日本にブラックゴーストが…?」
「…………分からない…、誘われたの」
「え?」
009の何気ない問にフェイは初めて顔を歪めた。しまったと思った時には既に遅く、しかしフェイは更に口を開いて続けた。何かに耐える様に震えるフェイを見て009は背中が薄ら寒くなったのを感じた。
「愛する者を奪った世界に復讐の刃を。その優秀さを先駆けに。なんて謳い文句で、私の他にも数人。…どうして組織がそこに居たのかは知らない。」
「フェイの他にも…?」
「うん。皆…死んでしまったけどね」
急にしんとしてしまった空気をフェイは笑い飛ばした。
「笑っちゃうでしょ?私はそんな安っぽい言葉に釣られて組織に入って、そして逃げ出したんだよ」
話の重さに見合わない明るさで話を進めるフェイにその場の全員胸を痛めた。フェイがどれほど世界を憎んでいたか、想像に余りある。そんな負の感情から一番遠い存在だと思っていたのに。
「だからね、最初は攻撃特化の改造だったから結構名残が残ってるんだ」
袖を捲って肘関節を外すと細い腕に似合わないミサイルが中に入っていた。実は他にも色々弾薬とか入ってるんだけど、とフェイは続けた
「撃つと反動に負けちゃうから飾りみたいなものだけどね。入ってないと軽すぎて上手く歩けないの。」
こんななのに残してるってことはやっぱり誰でも処女作は捨てられないものなのかもね?
さも面白い事を話すように彼女は笑う。その様子に誰も口を挟めなかった。そんな空気を察して彼女がまた口を開く。
「戦闘中弾が切れたらいつでも言ってね?004」
「そりゃあ頼もしいな」
「ふふっ!あ、ごめんね?恋バナだったのに話が逸れちゃった」
「いいのよ。私こそ何も知らなくて…ごめんなさい」
「それこそ気にしないで。私が聞いて欲しかったの」
場の空気を変えるように今度は003の話を聞こうとするが上手くかわされてフェイは首を傾げる。
「あぁ、言いたくないとかそういう事じゃないのよ?ただ私はずっとバレエ一筋だったから」
「えぇ、そうなの?年頃なのに勿体無い」
「それより、よ。フェイ」
「ん?」
003が口元に手で囲いを作るから反射で耳を寄せる。顰められた声に004の名前が出てきてフェイは聞いてしまったことを後悔した。どうしてそこで彼の名前が出るのか。別にコソコソと話す事でもないと普通に否定しようとすると「しっ!」と咎められてしまった。
「別に」
「声が大きいわ!」
「……(別に004とは何もないよ)」
「(一緒に寝てるのを見たわ。まるで恋人同士みたいだった)」
「なッ!?」
「ほらやっぱり。(好きなんでしょ?)」
「ち、違う!違うよ!?あれは、ただ…」
急に赤くなったフェイに002と004は何事かと身を乗り出すがいまいち話が読めず二人の近くにいる009に視線で訴えるが009も曖昧に首を振るだけだった。
「隠さなくても良いのに。」
「違うってば!そんな、考えた事もない…っ!」
何となく、何となく004がいる所に視線をやってしまったのが間違いだった。ぱちりと視線が絡んでフェイは更に自分の顔に熱が集まるのを感じた
「あら。」
「ちょ、お茶!お茶入れてくる!!」
すごい勢いで部屋を去ったフェイをクスクスと見送ると002が堪らず声をかけた。
「何言ったらあんなに取り乱すんだよ」
「さぁ、何かしらね」
拗ねたような顔をした002を一瞥して004は背を預けていた壁から離れた。気になるなら本人から聞けばいい。最も、二人の話の種が自分であるとフェイの様子から自覚した004は聞きに行くと言うよりはからかいに行く。という方が正しいか
「さて、俺もお茶を貰いに行こうかな」
「私は紅茶がいいわ004」
「…伝えておこう」
世話焼きな女の子の視線を背中に感じながら004は部屋を後にした。
2018/02/10
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