フェイルアーの恋
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秘めやかな夜
久しぶりのゆっくりした夜に中々寝付けずホットミルクを作ってリビングに足を運んだ。するとリビングルームに続くドアの前で002がじっと自分の手を見つめている。俺は反射的に声を掛けた。
「どうした002?」
「っ!…別に」
自分の存在に気付かないくらい熱心だったらしく取り繕ったかのようにズボンに手を突っ込んでこちらを睨みつける002に少しの疑問をぶつけるのも不躾だと思いホットミルクを一口のんだ。
「004も眠れないのか」
「まぁそんな所だ。久しぶりにゆっくりした夜を楽しもうと思ってな」
「そーかよ。じゃあな、俺は寝る」
「あぁ、おやすみ」
軽く手を挙げて去る後ろ姿を見送ってリビングの戸を開けるとコハルが手を大事そうに胸に抱きしめてソファに座っていた。…なるほど、な
「…お邪魔だったかな?」
俺の姿を見てほぅ、と小さく安心したかのように息を吐いて俺の名を呼ぶコハルにまた疑問が浮かぶ。かと思えば002に添い寝をお願いしただとか可愛いだとか怒られただとかいつもの調子で話すものだからコハルに気があるであろう002に心底同情した。そしてコハルにその気がないことを感じると安心している自分が居る事を知る。
一人になるのがこんなにも怖い癖に俺達の足で纏になるまいと一人で居ること選んだ少女。…いや、女性か。きっと寂しくなって002に手を繋いで貰っていたのだろう。…全く。向こうに気があることに気付かないで容易く手を握るものじゃない。しかもあの年頃の男は一番危ない。
無防備な彼女に意地悪をする気で飲みかけのホットミルクを勧めると遠慮しながらも口を付けた。無意識だろう、口元が緩んでいるのを見てそれが今から崩れる事を思うとこちらも笑わずにはいられない。もう一度コハルがマグカップに口を付けたのを見計らって口を開いた。
「…間接キスだな」
すると面白い程むせ返るコハルの反応に益々笑みが深くなる。002では一生お目にかかれない反応だろう。何故なら奴はコハルの中で可愛い弟位の位置にいる。002が同じ事を言っても「おませさんね」なんて言ってカラカラ笑うのは安易に想像出来た。
さて、今のところ俺の勝ちは確定だがもう少し差を付けといてやろうか。肩を貸してやると言って引き寄せれば呆気なくこちらに倒れてくる。…男としては見られているが意識はされていない、か。ならば先程のように思い知らせてやろう。ゆっくりと時間をかけて。
擦り寄ってくるコハルをしっかりと抱いて手を握ってやる。口に出す勇気も覚悟もないくせに、俺らしくもない。何やってんだか。あっという間に寝てしまった無防備なお嬢さんの額に口付けて意識を飛ばした。
「あら」
「003、おは」
「しっ、見て009」
翌朝、一番に二人を発見した003は微笑みを濃くした。影の一つも感じさせない二人の寝顔に安堵し、同時に女特有の胸の高鳴りにふふん、と鼻を鳴らす。
「…二人って付き合ってるのかい?」
「そんな話は聞いたことないけれど……まだ早いし、もう少し寝かしておいてあげましょう。」
「そうだね」
パタン、控え目に閉じた戸の音を聞いて004は深いため息をついた。誰が起きてくる前に此処を去るつもりでいたのに寝入ってしまっていた様で。コハルとの二人駆け引きを楽しみたかった俺はもう一度息を吐いた。まぁあの二人なら悪戯に騒ぎ立てたりはしないだろうが。
人の肩ですぴすぴと寝息を立てて眠るコハルを見て顔にかかった髪を撫で上げた。全く。人の気も知らないでこいつは。当てつけのように鼻の頭にキスをするとコハルが身じろいでうっすらと目を開けた。
「おはよう、コハル」
「、あるべると…?」
「あぁ、よく眠れたか?」
子猫のようにすりすりと頬を寄せてくるコハルに苦笑いをして肩を抱く手に力を込める。
「もっと…」
「ん?」
「なまえ、…よんで…」
「……コハル」
「ん、」
「コハル」
「…もっと」
「コハル…」
「んふふ、ありがと」
擦り寄るのをやめて手を離し、両手を天井に向けて伸びをするとよく寝たという報告と体は痛くないかと質問がやってきた。この様子だとキスをした事はバレていないようだ。
「柔な身体の作りをしていないからな、大丈夫だ」
「それはよかった。あっ、あのね」
「なんだ?」
一瞬考える素振りを見せて向き直る。少し頬が赤いのはどういう意味だろうか。少しだけ期待しながらコハルの言葉を待つ。
「名前、ね…二人きりの時以外は呼ばないで欲しいの」
「それは別に構わないが」
「約束ね?アルベルトに呼ばれただけでドキドキするのに皆から呼ばれたら心臓爆発しちゃいそうだもん」
「、………」
おいおい、そりゃあまるで…期待外れだったが予想外の言葉に顔に熱が集まりそうになるが若干的外れなコハルの言葉に首を振って冷静を保つ。
鈍感で的外れ。おまけに自己犠牲的で自己嫌悪が強い。どうやらまだまだ乗り越える壁は高いらしい。
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