フェイルアーの恋
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手のひらの温度
「フェイ、眠れないのか」
「っ、002…びっくりした」
「悪い」
コズミ博士のお屋敷にお邪魔して初めての夜。何だか寝付けなくてリビングからベランダに出て夜風に当たっていると不意に声をかけられ肩がビクついた。
「平気。002も寝られないの?」
「…あぁ、ちょっとな」
「じゃあ少しお話しよう。いつも一緒にいたけどこんな風にゆっくり話すのは初めてだね」
「そうだな」
ベランダの手すりに手を掛けて空を見上げる私の横に並んだ002を見つめて思いを馳せる。頬を撫でる優しい風が心地いい。心做しか002の表情もいつもより柔らかいような気がした。
「また皆の傍に居られるのが夢みたいでね?…眠ってしまったら夢から覚めてしまうんじゃないかって、ちょっと怖いの。…子供みたいでしょ?」
「ハッ、ホントにな。俺がわざわざ迎えに行ってやったのにまだそんな事言ってんのかよ」
「ホントだね。王子様に怒られちゃう」
「ッ!だーから!そういう事言うなってッ!」
「ふふ、そうだったね。ごめんごめん」
ね、ちょっと座らない?ひとしきり笑ってソファを指差すと小さく返事をして002がソファに腰掛けた。私もその横に腰掛けると近い事を咎められたが無視をしてにこりと笑う。
「002はどうして眠れないの?怖い夢でも見た?」
「ガキ扱いすんなッ…別に、ただ…何となくだ」
「そっか、…手…繋いでいい?」
「あぁ!?」
「えっダメだった?」
「、別に…っ好きにすればいいだろ」
「ありがと」
そっぽを向いてつんつんした態度をとる002を可愛いなぁなんて思いながらソファに投げ出された手を救いあげて両手で包み込んだ。ここに居るんだ。こんなに近くに。力を込めると控え目に握り返してくれる。
「本物だぁ」
「ケッ。ニセモノでたまるかよ」
「なんか最近可愛くないなー002」
「そりゃ結構なことで」
002の手を握り込んだまま膝の上に置いて存在を確かめるように撫でる。固くて柔らかい皮膚の感触にドキドキとうるさかった胸が漸く落ち着いてきた。
「ブラックファントムでも眠れなかったのか」
「ううん、移動中は隣に誰かが必ず居たし眠れてたよ」
「一人で寝れねぇなんて益々ガキじゃねぇか」
「だよね。困った困った」
苦笑いを零すと002がじっとこちらを見つめているのに気がついて視線を合わせる。その意図が分からず首を傾げるとフッと大人みたいな笑い方をするものだから少しドキッとした。
「俺が付き合ってやろうか」
「え?添い寝してくれるの?」
「ッ誰がするか!寝落ちるまで話し相手になってやろうかって言ってんだ!!」
「なんだ、残念」
「………」
「そうだな、魅力的な提案だけどやめとくよ。楽しくて朝まで話しちゃいそうだから」
「…そーかよ」
002の手を気が済むまで撫でていると突然ぎゅっと力強く握られて直ぐにパッと離されてしまった。無くなった温もりに寂しさを感じているとポケットに手を突っ込んだ002が立ち上がった。
「じゃ、俺は寝るぜ。フェイもあんま夜更かしすんなよ」
「うん、ありがと002。おやすみ」
「おやすみ」
パタン、と去ってしまった虚無感に思わず両手を胸で握り締めた。こんなんでよく一人基地に残ると言ったものだ。片時も離れたくないなんて欲張りにも程がある。
「…お邪魔だったかな?」
「004…」
少し間を開けて入ってきたのは004だった。気付かれないようにほぅ、と安堵のため息を漏らす。彼が持っているマグカップからは甘い、いい香りが漂っている。
「002に振られちゃったの。」
「…へぇ。そりゃあ興味深いな」
「眠れないから添い寝してって言ったら怒られちゃった。可愛いでしょ?」
「002に同情するぜ」
「ひど!」
私の隣に腰掛けてマグカップを渡してくれた。蜂蜜の香りがするホットミルクだった。
「貰っていいの?」
「お子様は眠れないんだろ?」
「…いただきます」
一口飲むと程よい甘さと仄かなラムの香りにほっとする。夜風で冷えた身体は直ぐに温まった。ホットミルクを作ってくるくらいだから004も眠れなかったんだろうか。そんなことを考えながらもう一口、口に含んだ
「…間接キスだな」
「ンンッ!?、げほ、ごほッ…っちょっと!そいいう事飲んでる時に言う!?普通!」
「俺は思った事を口にしただけだぜ?…一人で眠れないお子様には刺激が強すぎたか、悪かった」
「…ほんっと、いい性格してる」
「Danke schön」
「褒めてない」
コップを机に置いて胸をトントン叩くと少し落ち着いた。態とらしく大袈裟にため息をつくと004が笑った気配に私も口角をあげた。
「なら、俺からもいい提案がある」
「なに?004が添い寝してくれるの?」
「あぁ。ベッドで、とは行かないが肩を貸してやる事は出来る」
肩を抱かれて004の肩へ頭を預ける形になった。居心地の良さにそのまま004の顔を見上げる。
「いいの?004は?」
「じゃあ俺はお前さんの頭を借りようか」
こつん、と頭に感じた重みに安心感が増す。無意識のうちに004に擦り寄っていると段々と睡魔が忍び寄ってきた。久しぶりによく眠れそうだ。
「眠たくなってきた…ね、手繋いで?」
「はいよ、お姫様」
「ん、おやすみ…」
「おやすみ、フェイ」
指が絡み合う。004の手は冷たい筈なのに、温かい。一度ぎゅっと力を込めると私の意識は闇に沈んでいった。
「全く、困ったお嬢さんだ……コハル」
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