フェイルアーの恋
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静かに思へば
「特に異常は見当たらんな、どうじゃ?新しいパーツには慣れたかの?」
「はい。偶に躓きますが大分普通に歩けるようになりました。視界が良過ぎてまだ少しクラクラしますが」
「うむ。頭痛はどうじゃ?」
「頻度が減りました。身体の軋みも今の所感じません」
「んん。まずまずと言ったところじゃな」
ギルモア博士にお礼を言ってメンテナンスを終え、リビングに戻るとぐーんと背伸びをする。最初こそ壁を伝って歩いていたが今ではたまに躓く程度だ。最初からギルモア博士が私の改造を全面的に担当してくれてれば...いや、もう済んだ話だ。何をしても受け付けなかったのだから気持ちの面も作用していたのかもしれないし。
「フェイ、メンテナンスはどうだったんだ?」
「上々!とっても元気!今なら空だって飛べそう!」
「ならお望み通り、飛んでみるか?」
「いいの!?待って、ズボンに履き替えて来る!」
「走ると転けるぜ」
「へーきへーき!」
002の誘いに嬉しくなってリビングを出てパタパタと廊下を走るとその気持ちよさについ調子に乗ってしまう。こんなに体が軽いのは改造前以来だ。とても気分がいい。しかし前方の部屋から丁度出てきたアルベルトが私の方を見てぎょっとした顔をした。
「こら、何やってんだ!」
「わ、わ、なんで怒るの!」
そのままの速度で通り過ぎようとしたが腰を掴まれアルベルトの腕に閉じ込められた。走る事を怒っているのだろう。ちょっと過保護過ぎないだろうか。まぁ、ギルモア博士に整備して貰うまでは良く痛みに蹲ったりしていて、皆はそれを見かけては背を撫でてくれていたり抱きかかえて休ませてくれたりしていたので気持ちは分からなくもないが。
「あんまり心配させないでくれ、心臓が止まりそうだ」
「止まったら開いて直してあげるよ」
「コハル」
「えへへ」
強く名前を呼ばれ笑いが零れる。そんな私にため息を吐いたアルベルトはやれやれと首を振った。心配されるのは嬉しい。でもそれと同じくらい自分の体が思うように動くのも嬉しいのだ。誰も居ないことを確認して触れるだけのキスをした。
「思い切り走っても関節軋まないの。何だかおばあちゃんから若返った気分」
「ったく、こんなお転婆なばあさんがいてたまるか」
気分が良くてクスクス笑ってしまう。すると今度はアルベルトの唇が振ってきた。唇を唇で食まれる感覚に思わず赤面する。私の羞恥を煽るようにちゅっとリップ音を残し離れる温もりに耐えられなくなり少し俯いた。
「で?そんなに急いで何処へ?」
「そう!服着替えなきゃ!」
「服?」
「002に空に連れてって貰うの!」
「...へぇ」
何かを含んだ表情をするアルベルトに首を傾げるが楽しんでこい、と背中を押されたのでお礼を言って与えられた自室に駆け込んだ。素早くパンツスタイルに着替えると002の元へ急ぐ。
「おまたせ!」
「あぁ、」
「基地を飛び出して以来だな~!あれ、すっごい気分良かった!」
「よし、行くか」
「うん!」
手を引かれて外に出ると002が私の背後に回って後から抱き締めるように胸の下に手を回した。されるがまま首を傾げるとキイィンと音がして少し地面が遠ざかり思わず体を縮こめる。
「わ、」
「こうしないと景色が見えないだろ?」
少し体が重く感じたが、陸が随分下に見えた時にはそんなこと気にならなくなっていた。青い空に浮かぶ薄い雲を突き抜けると冷たい空気が頬を撫でる。何だか自分で飛んでるみたいで無意識に両手を広げると耳元で002の笑い声が聞こえた。
「すごいっ鳥になったみたい!」
「フェイ、ジェットコースターは好きか?」
「乗ったことは無いけど面白そうだよね!」
「よし、なら擬似ジェットコースターだ。行くぜ?」
声を上げる間もなく急降下した事に驚いたが、息をつく暇もなく体がくるりと回転し、そのスリルに無意識に口角が上がった。私が思わず笑い声を上げると002も吹き出すように笑って、嫌な事も辛いことも忘れて凄く楽しい気分になる。
ずっとこんな穏やかな日が続けばいいのに。そう考えて、直ぐに影がさす。今までずっと考えないようにしてきたけれど、黒の幽霊団が、己の技術の結晶が逃げ出して放っておく訳が無い。来るものは拒まない代わりに去るものは死で解放する組織だ。連れ戻されて記憶を消されるか、存在ごと消されるか、そのどちらかだろう。
その時私は何が出来るだろう。皆の為に、自分の為に、出来ることがあるのだろうか。
「フェイ、大丈夫か?」
「…うん、ごめんね。ちょっと…」
「休憩すっか」
空中で器用にお姫様抱っこに抱き直されるとゆっくり地上に近付いて行く。壊れ物を運ぶ様な優しさに涙が滲んだ。私は皆と同じなのに、同じ場所に立つことが出来ないなんて。なんの為に人を捨てたのか分からなくなる。
「…ギルモア博士にもう一回診てもらうか?」
「ん、そうじゃないの…ごめんね?……いつまで、この幸せを続けられるのかなって…考えちゃって」
「…ブラックゴーストの事か」
「……うん」
地上に辿り着くと足が土を踏む前に抱き締められて目を見開いた。段々と強くなるそれに胸の奥がつきりと痛む。
「言っただろ、フェイは俺が守る。ブラックゴーストをぶっ潰して、ちゃんと心から笑えるようにしてやる」
「002……、…私も戦う」
「っ何言ってんだ!」
「戦闘では足でまといになっちゃうから、私が出来る範囲で、ね?…私も皆の仲間に入れてよ」
肩を持って離され、真剣な顔で見下ろされる。困ったように笑うと大きな溜息が降ってきて、私の髪の毛を撫でて行った。呆れた顔がまた真剣さを取り戻すと、しっかりとした口調で諭すように声をかけられ笑ってしまう。
「絶対、無茶すんじゃねぇぞ」
「ふふ、はい。約束します」
「絶対だからな。」
「分かってるよ。でもそれは002もでしょ?」
「俺は良いんだよ」
「良くない!絶対無茶しちゃダメ!分かった?」
「はいはい、分かりましたよ」
後ろ首で両手を組んで、私を適当にあしらって歩きだした002にむくれた声を上げる。なんだか気分が落ちちゃったし、このまま皆の元に戻るのは気が引けた。…それなら
「とりゃ!」
「っ!あっぶねぇだろフェイ!」
002の腕で出来た三角の隙間に、手をねじ込んでぶら下がる勢いで体重をかけた。案の定怒られたが、ドッキリ大成功だ。
「ね、ちょっとお茶して帰らない?」
「、………いいぜ」
「よし、美味しいケーキご馳走になります!」
「はぁ!?俺の奢りかよ!」
「楽しみだなぁー!ケーキ!!」
声を上げる002を無視してくすくす笑いながら腕にしがみつくと、また溜息をついてその手をポケットにしまい込んだ。ケッ、なんて嫌そうにしているけど私はちゃんと知ってる。
「嫌じゃない癖に」
「っ!うっせーな!離れろよ!」
「早くケーキ食べに行こ!」
「話を聞け!!!」
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