フェイルアーの恋
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後悔の淵へ
最近よく003がコハルについて話しかけてくる。俺に向かって口を開けばやれコハルはどーだあーだと言うもんだから最近では聞き流すようになったのだが。
「フェイは…コハルは貴方のこと、好きだと思うわ」
「あぁそうだな…ちょっと待て今コハルと言ったか?」
コハルが俺以外に…いや、仲間の中でも女の子は二人だけだ。幽霊島でも互いに気に掛け合っていたのは知っている。自由になった今、仲が深まるのは当然の結果だろう。…しかし
「えぇ。どうしたの?」
「いいや、何でもない」
「貴方だけ特別だと思った?」
「何?」
コハルは特別自分の名前に拘っている様だった。俺が呼び始めてからはそれも無くなってきているようだったが。…俺だけだと、言っていたじゃないか。行き場のない嫉妬が鉄の心臓を貫いた。
「…別に名前くらい呼ぶだろう」
「ふふ、そうよね」
鼻歌でも聞こえるんじゃないかという程上機嫌に去っていく003に何しに来たのか深読みしようと試みるも何分情報が少なすぎる。コハルの事だから003が事ある毎にこうしてお節介を焼いている事すら知らないだろう。
「…なんなんだ一体」
そしてまた後日にも同じように俺の元にやって来てコハル事を遠回しに喋っていく。もう勘弁ならないと少し強めの口調で咎めた
「一体何が言いたいんだ?003。男女の仲にあまり深入りするのも不躾じゃないか?」
「あら、気を悪くさせたのならごめんなさいね。ただ、貴方があまりにもコハルの気持ちを考えていないようだったから」
「…どういう意味だ?」
「いいえ、何でもないの。男女の仲に首を突っ込み過ぎるのも良くないものね」
にっこりと笑って去っていく003を見送ってため息をつく。全く訳がわからない。面倒臭くなってきた。本人に聞くのが一番手っ取り早い。
そう思って寝ているコハルのベッドに潜り込んでまで聞き出した。それで解決したはずだった。いや、そう思っていたのは俺だけだったのかもしれない。
聞いてない振りをして、気にしていない振りをして婚約者だった男の話を聞く。気持ちが動揺する度に海が作る波の数を数えた。言い回しがよく分からない事もあったが要するに、俺がコハルにしている事はコハルにとって誓うという言葉通りとても神聖な行為なのだ。
将来を誓った男にだけ向けられていたものを無理やり自分の方向に折り曲げた。それをコハルは時間が欲しいと譲歩して俺に合わせている。なんて事だ。
「…フェイ、散歩しよう」
「へ?い、いけど…転けちゃうかも」
「じっとしてちゃいつまで経っても慣れないだろ?」
尤もらしい理由をつけて話の輪の中から連れ出した。手を差し出すと躊躇いながらも手を重ねて歩き出す。こう言った何気ないこともコハルにとっては尊い事なのかもしれない。
「…やめておくか」
「ん?」
「手」
「ううん。このままが良い」
そう言ったものの、海辺に着くとどちらとも無く手を離した。立ち止まったコハルを置いてそのまま俺は数歩前を行き足を止める。潮風が気持ちがいいと呑気なコハルに少しだけ肩の力が抜けた。
「俺は、お前さんの大事なものを奪っちまったんだな」
「へ?」
「俺はコハルを傷つけたか?」
「…そんな事ないよ。奪われてないし、傷ついてない。私が自分で決めたの。だからアルベルトが気に病む必要無いんだよ」
振り向くと困ったように笑うコハルが髪をかき上げていた。美しいと思う。愛おしいとすら思う。だが俺は…
「俺はまだ、…応えられない」
「…分かってるよ。…でもいいの。それでも傍にいたいの。…駄目、かな」
コハルが俺との距離を一歩一歩と詰めてくるが急に強く吹いた風に煽られてその身体がよろける。慌てて抱き留めるがハッとして少し距離を取ってしまった。
「っ…もう、嫌になっちゃった…?」
「、そうじゃない」
「…アルベルトが許してくれるなら、今まで通りが良い……駄目なら…直ぐには無理だけど、ちゃんと…元に戻れるように」
「コハル、」
今度はしっかりと抱き締めて口付けを落とす。コハルとのそれは一度すれば止まらなくなる程にいつも甘い。コハルの願いは叶えられないと言うのにそれでも求めてしまう。そんな俺でも良いというのか
「嫌じゃないか?」
「うん、嫌じゃない」
「苦しくないか」
「…平気よ」
「…なら、苦しくしてやる」
それでも俺を求めてくれるのなら俺も同じように求めよう。未だ慣れない深い口付けに一生懸命息継ぎをしているがその酸素ごと奪うように口を塞ぐ。コハルの頬を伝う雫を拭いながら何度も何度もキスを送った。
「ん、はぁっ…、く…し…っ」
息を切らしてもコハルが俺を拒む事は無かった。そんな健気な姿にも愛おしさを感じてしまう。もうとっくに分かっている。
暗がりから一歩先へ進むコハルをこちらへ引きずり込むように、強く掻き抱いた。
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