フェイルアーの恋
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あなたの鉄翼
「ねぇ、さっきの話の続きしていいかしら?」
「続き?なんの?」
先程の談笑が終わって散り散りになった頃、フランソワーズが口を開いた。
「婚約って直ぐに決めちゃったの?」
「003も好きだねぇ…」
「だって気になるの。触れ合って無いのにどうしてそんなに心を通わせられるの?」
「どうして…どうしてかな」
他国の文化に深い興味を示すのは分からなくもないが、この話を004もいる空間でさせる当たり策士だ。しかもそんな毒気が一切ないのが恐ろしい。だったらこっちも002か009とくっ付くように手を回してやろうかとすら思う。004は聞いてませんとでも言うように壁にもたれて外を見ていた。
「大学生の頃に告白されて」
「それ、それよ。急に?」
「ん?うん。急に。私も吃驚しちゃった。だから直ぐに返事出来なかったんだけどね?何度も恋文を貰ううちに良いなぁって」
「ラブレター!素敵ね!」
「でも大変だったの。当時は親が決めた人と結婚するのが主流でね?あんまりよく思われてなかったから親に隠れて返事を書いたりしてた」
いつも手紙の最後には詩が認められていて、それがいつも楽しみだった。キラキラと瞳を輝かせたフランソワーズに内容を聞かれたが恥ずかしいからと断った。月明かりを見ると柔らかな君の笑みを思い出して眠れない云々なんてとてもじゃないが私の口から言えない。それにあの時の彼の気持ちを知るのは私だけでいい。
「デートとかしなかったの?」
「したよ?学校から帰るのに家まで良く送ってもらった」
「…それってデートなの?」
「期待外れな様で申し訳ないけど、私達にとってはデートだったよ。でも、中々これが恥ずかしくて。いつも一歩後ろを付いてってた」
「…まさかとは思うけど、その時手はもちろん繋いでるわよね?」
「あー…そう言えば繋いで歩いた事ないかもなぁ」
「えぇ!?だってフィアンセでしょ!?手も繋いだ事ないの!?」
「ない、けど……なに、私もしかして怒られてるの…?」
フランソワーズの熱気に思わず仰け反る。引き気味の私に盛大にため息を付かれた。まぁ好きな気持ちを全身で表現するお国柄だから理解されないかもしれないが
「…それなのにどうして婚約したの?」
疲れた様子で質問されるが、なんでそんなに疲れてるのか分からない。むしろその反応をするのは私の方じゃない?
「彼が…航空隊に入るって言ってね?大学生は徴兵が免除されてたんだけど、とても真面目な人だったから。…その時に私と結婚したいって言ってくれたけど、また返事を出来ないでいたら…行ってしまって」
「…止められなかったの?」
「当時は晴れ舞台だって言われてて喜んで送り出さないといけなかったんだったんだけど…止めたよ…何度も行かないで欲しいって泣いて縋ったけど…駄目だった」
その時に、初めて抱き締めてくれた。あんなに壊れそうになる切ない気持ちはいまでも忘れない。あの時に直ぐ返事が出来ていたなら私は彼のものになれたかもしれないと何度悔やんだろうか。
「航空隊に入ってからも忙しいにも関わらず毎日のように手紙を送ってくれてね、彼はこんなにも私に誠を尽くしてくれているのに私は何も応えれてないって思って。私も結婚したいって返事を書いたの」
「それでフェイは彼に誓いを立てたの?」
「…そう」
すると直ぐに電報が入って、家に挨拶しに来てくれた。いつも口答えしなかった私がこの人としか結婚しないと譲らなかったからか、両親も彼との結婚を許してくれた。
「それから九州の基地に飛ばされて、堪らず会いに行ったりしたけど既にそこを出た後で結局会えなくて。手紙に特攻の文字があった時は胸が張り裂けそうだった…」
「フェイ…」
「気持ちに任せて行かないで、連れてって、一人にしないでなんて言ってしまったけど…君は直ぐに泣いてしまうから連れていけないって言われちゃって…結局…飛んでいってしまった」
最後の手紙には君の未来のためにお勤めを果たす。君は自分を忘れて幸せになる事、君が妻で自分は幸せだった。今はただ君に逢いたい。そう書かれてた。
「と、こんな感じ。」
いつの間にか頬を伝っていた涙を拭って笑う。私より涙に濡れているフランソワーズにぎゅっと抱き締められてその優しさに私も抱き締め返す。
「ありがとう。話してくれて」
「うん、」
「フェイが彼に誓いを立てた理由、分かる気がするわ」
「…ありがとう」
「今でも彼のこと、愛してる?」
「もちろん」
これだけはなんの躊躇いもなく即答できると胸を張って答えると彼女も笑って頷く。もう涙の跡はなかった。
「じゃあフェイの気持ちも、彼の想いも大切にしてくれる人と幸せにならないとね?」
「そ、そうね……?」
フランソワーズがアルベルトを意識したような事を言うからついどもってしまう。未だに海を眺めているが…何を考えているのだろう…
「フェイがそんなにドラマチックな恋愛をしてたなんて知らなかったな」
「008っ…聞いてたの…恥ずかしい…」
「でも年齢の割にフェイが純情な理由が良く分かったわ」
「純情…かな」
「えぇ、王子様を夢見る少女のようよ。もちろんいい意味でね?」
「フェイの王子様は002の役所だろ?良かったじゃないか迎えに来てくれたし丁度いい」
「口が悪い王子様は…ちょっと嫌だなぁ」
002の事は好きだけどそんな風に見た事ないな…でもこの前は少しかっこいいと思ってしまった。それでもアルベルトに感じる気持ちとは違うものだったが。
「じゃあどんな人が好みなの?」
「んー、優しくて真面目な人かなぁ…そうそう。それこそ008みたいな」
「ッ俺だって?勘弁してくれよ」
「え、酷くない?」
「巻き込まれるのはごめんだ」
「なにに?」
「………」
「………」
「え!なに!?」
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