短編
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月に翳り
静かな夜。そんな暗闇を彩るのが空一面に広がった星と、丸い月。黒によく映える無数の光は人の心を惑わせ魅了する
「…志々雄さん」
月を見ながらお酒を飲んでいる志々雄さんにそっと寄り添うと肩を力強く引き寄せてくれた。そばで感じる少し高めの体温が心を弾ませる。
眩むほどの幸せに無意識に出た言葉。とても小さな響きだったけれど、どうやら聞こえた様で。顔を見上げると此れっぽちでなにを。と笑われ、それがこれ以上を望んでもいいと言われている様で期待に自分の体温が上がるのがわかった。
「ふふ、」
照れ隠しにと控え目に笑えばこつんとおでこ同士をつけられて、志々雄さんの瞳から目が離せなくなる。そのままあわせられた唇はとろけてしまいそうなほど熱く、涙が出そうになるくらい優しいものだった。
角度を何度も変えて降り注ぐそれに耐え切れず、少しうつむくとそのまま額に唇を押し当てられた
「はっ…志々雄さ、…」
上がった息を整えていると唇が離され、お酒を口に含んでいる志々雄さんが目に入る。…酔ってるのかな、?
私の息が整ったのを見計らって再び唇が重ねられた。途端に口の中に広がるお酒の香り。少しとろみを帯びたその液体はびりびりと熱い。それが口移しだと分かったのは口の端を液が伝った頃だった
「ぅん、……」
「美味いだろ?」
つんとする刺激に耐えながら飲み干すと楽しそうな視線が送られてくる。小さく聞える笑い声にむくれながら首筋まで垂れた液を拭った
「わたしがお酒苦手なの、志々雄さん知ってるくせに…」
恨めしそうに言うと予想通りの反応だったのかけたけた笑い出す。そんなことをされて気分を悪くしないわけがない。笑いながら私の頭をぽんぽん撫でる志々雄さんを無視してそっぽを向いた
「いろは、」
強引に目をあわせられ、突然の真剣な顔に動けなくなっていると先ほどの強引さからは想像も出来ないくらい優しく頬を撫でられる。…四六時中そばにいるのに、未だ彼の考えることは分からない。
苛められたり、優しかったり。上手いことその飴と鞭にのせられている事も忘れるくらいに溺れてしまっている
「志々雄さん、…酔いがまわってきました?」
やっと言葉を発せれるようになり、控え目にたずねると「いや、」とだけ答え
またじっと見つめられる。恥ずかしさからなのか、お酒の力なのかは分からないが少し体が熱くなってきた。その熱にされるがままになっているので、きっと私の頬は情けないほど赤く染まっているだろう。
「あの、しっ...」
どうにかならないかと口を開いたのにそれは志々雄さんの唇に阻まれ言葉にならなかったが、顔に溜まった熱は冷めることなく
、むしろ全身に広がっていき何度も啄ばむような口付けに身体はどんどん乱されていった
「 ん…」
窒息してしまいそうなほど荒々しく、まるで完全に所有されているかのような感覚に陥ってしまう。
「ん、ぅ……ぁッ」
突然離れた唇についていけず、絡ませられた舌はそのままで。自分が口吸いをねだっているような形になると、面白いものを見るような目で見下ろされた。
「まだ、もの足りねぇのか?」
「~~ッ!」
笑いを含みながら発せられた言葉に、少し憎しみを覚えて急いで舌をしまった。恥ずかしくて下を見ていると急に目のまえが真っ暗になり、辺りを見回そうとしても身体がうまく動かない。
「……?…」
「……おい」
視界が奪われた変わりに耳元で、甘い囁きが聞こえた
「…志々雄、さん?」
私は志々雄さんに抱きしめられているのだ。いつまでたってもこの人の行動にはついていけない自分に苦笑いをこぼす
「…いろは」
だんだんと力強くなっていくのがたまらなく愛しくてどうすればそれを表現できるのか、考えても答えが出ない自分がもどかしくてゆっくり、大きな背中に手をまわす。
この人の背中はこんなにも大きかったのか、そんなことを考えながら私も負けないようにと腕に力を込めた
「志々雄さん、…大好きです」
「…あぁ」
私の言葉に答えるように髪を撫でてくれた。それと同時に火照った身体に夜風が心地よく肌をなで更に心を躍らせる。深い闇に紛れて志々雄さんの赤色の瞳が妖しく月明かりを映していてとても綺麗だ。なんて
「…月夜が映えるひと」
酔いがまわってきたのか頭の奥がぼーっとしてきた。
「…お前は似合わねぇな。いつも俺が隠しちまう」
「え?」
言葉の意味を考えていると背中に柔らかい衝撃が走り思考が弾ける。私たちを見下ろす満月と目が合って志々雄さんの闇を濃くした。もっと赤色を見つめていたかったのに。恨みがましく光に目を細めるとそれに気付いたのか、志々雄さんが私の目線に頭を移してもう満月と目が合うことはなかった
「また隠すんですか?」
「あぁ。俺の闇がお前を焼き尽くすまで、何度だってな」
そして重なった熱に私は自ら目を閉じた。降り注ぐ優しい明かりから上手く隠れられる様に。今宵もあなたの灼熱と堕ちていく
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