短編
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絡まる意図
※大蛇3設定です。JKトリップ
私はなんでこの顔が怖いおじさんとセットにされてしまうのだろう。なんて考えて、直ぐにこのおじさんの所為だと気付いた。何故か時代の違う日本や中国の武将や仙人、果ては色んな神様が集結している世界に飛ばされて、なんで揃って派手な格好をしてるのか、頭の中にハテナが飛んでいるうちに何故か皆さんは異世界から来た私の事を妙に納得した様子でそばに置いてくれている。女媧さんの難しい説明があった気がするけど、これっぽっちも頭に入って来なかった。
それからだ。事ある毎にお目付け役をかって出て、私に構ってくれる。お話が上手でよく笑わせてくれるし、見た目に反して口調が軽くてとても話しやすい。…偶に背筋がゾッとするような表情を見せる時もあるけど。
恥ずかしながら松永久秀なんて武将知らないし、何をやった人なのかも知らない。でも本人は自分を大悪党と自己紹介したし、周りの人もここではそれ程悪さも出来ないだろうが気を付けろ。なんて言って気にかけてくれる。え、この時代の悪党って相当やばいんじゃないの?
「ん〜〜?どうしたさっきから我輩の顔をじぃっと見つめて。…まさかやっと我輩のこと」
「無いです」
「即答!いろはちゃん冷たい!おじさん泣いちゃう!」
えぐえぐと泣くふりをするおじさんを、怖がれないのがちょっと怖い。確かに表情が変わる瞬間をもう何度も見たのに、手の届く距離から離れられない。何だか大変な所に落ちてきてしまっているような不安がいつも付きまとう。
「松永さん、怖い人なんでしょう?」
「むっふふぅ。なに?やはりいろはちゃんは我輩の事が気になっちゃう感じかな?」
「あ、そういうんじゃ無いので大丈夫です」
「むぅ。未来の女子は難しいのう」
まただ。ニヤニヤと擦り寄って、否定すれば少し離れて大袈裟な程落ち込む。馴れ馴れしいのに近過ぎず、離れ過ぎず。その距離が心地よくて、いつか離れられなくなりそうでやっぱり少し怖い。ゆっくりと後退るといつの間にか腕を掴まれていて鳥肌がたった。
「ほぉ。無知な癖して賢いようだ。だがもう遅い」
「ひ、やっ!」
腕を引かれて抱きすくめられ、顎を掴んで無理矢理目を合わせられる。触れただけで切れてしまいそうな、刃物のような視線に息をするのも忘れてしまった。冷たい汗が背筋を伝う。かと思えば別人のように柔らかい目をして、幼子にする様に頬を撫でられ呆気に取られる。
「心配せずとも、我輩はお前に乱暴はせん。…ただ、逃げられるとその術を取り上げたいと思うのが男の性だとは思わんか?」
またその鋭さに根元までグサリと刺されると、ひゅっと喉がなる。足が震えて力が抜けると軽い口調で抱き留めてくれたが、素直に受け入れられる精神状態では無いので意識せずとも手を突っ張ってしまう。その手を強く握られ、同じようにしっかりと私の体を抱き直すと、松永さんは柔らかな口調と共にため息を吐き出した。
「脅かしすぎたか」
やっぱり、この人は悪い人だ。怖くて堪らないのに、逃げなきゃいけないのに、触れる体温がどうしようもなく心地好くて。食べられると知りながら、柔らかで優しくて、暖かいのに決して切れない糸に絡め取られてしまう。一部の望みを掛けてバタバタと無様に暴れて羽がもげていくのを、優しい笑顔で見守られる。偽りだと分かっていても手を伸ばすのを止められない。
「よしよし、お詫びにここから戻っても我輩がたんと可愛がってやるからな」
「もどる…?っ、…わ、たしっ…帰らなきゃ…っ」
「あぁ、そうだな。ここから帰ったら先ずは城にいろはちゃんの部屋を作らねば」
「しろ……?」
いつか、現実の世界へ。見た目がとんでもなく派手な武将も、火や雷が出る武器も無い世界へ帰らなければ。そのつもりで言ったのに、態と解釈を違えたのだと直ぐに分かった。しかしこんな小娘をその世界に連れて行ってどうするつもりなのかさっぱり分からない。
「縁が繋がっている限り戻れる。と言う事は、向こうにある縁より強い縁が有ればこちらに来れると言う事であろう?」
そう言えば、女媧さんが縁と言う言葉を何度も口にしていた気がする。こちらの者と深く繋がらないよう注意する事、とも。縁と言うのがどういうものか未だに分からないけど、何となく帰れるという事だけ分かればいいと思って深く考えていなかった。
「我輩がいろはの縁となろう」
そう言って滑るように下腹部を撫でると、私なんかよりずっと背の高い松永さんの作る影で視界が遮られ目を見開いた。
「……ん、え?……っ!?」
ぼやけていた顔がはっきりして来ると、もう一度唇に温もりが触れて心臓が慌て始める。なに!?もしかして今キスした!?うそ、なんでこんなおじさんと…!?
「な!?なっ…なんっ……は!?」
「ん〜〜ちょっと口を吸っただけでこの反応。堪らんな〜」
「は、初めてだったのに!変態!ロリコン!」
今度こそ距離を取ろうと暴れると、すんなりと離してくれた。ちょっと拍子抜け…じゃない!これでいいんだ!
「松永さんのバカ!!!!」
ろりこん、と復唱しているおじさんに背を向けて走り去ると後ろから笑い声が聞こえる。顔が熱い。もう何もかも最悪だ。だって、…少しも嫌じゃ無かったから。そんなの信じたくない。怖いのに、近付きたいなんて。私は帰らなきゃ…いけないのに…
「愛いやつめ。」
去り際に聞こえた言葉の意味を考える。ういってなんだ。ご飯時までちょっと一人になりたい気分だったので、皆と離れて膝を抱えた。ここはイケメン揃いだし、好きになるのは仕方ないとしよう。だけどよりによってあのおじさんだなんて自分が信じられない。お父さんと同じくらい?もっと上?どっちにしろ親不孝過ぎる。戻れなくなった方が親不孝かも知れないけど。………いや、帰るし。好きじゃないし。怖いおじさんなんか好きじゃない。キスされて勘違いしてるだけ。そうに決まってる。
「うん、そうだよね」
「本当にそうかな?」
「ひっ!?……わあぁ!出た!!」
「出たとはなんだ。さっきも馬鹿だ変態だと好き勝手喚いて言い逃げしおって。…まぁいろはちゃんなら我輩何でも許しちゃうけど」
「ご、ごめん…なさい」
膝を抱えていたせいで隣に座られていた事に全く気付かなかった。これが一般人とお侍さんのスキルの差なのかも知れない。私が鈍臭い訳では無い、はず。
松永さんは偶に怖いけど、凄く優しい。昔は男尊女卑が激しかったイメージで、口答えなんて出来ないと思ってたのに言葉通り何でも笑って許してくれる。お城とか言ってたし、もしかして偉い人なのかも?え、やばくない?打首?
「こ、殺さないで!」
「ん?我輩がいろはちゃんを?ないない。まぁ、死ぬ程可愛がってやるつもりではおるがな」
「かわいがっ!………」
よしよしと頭を撫でられ、きゅっとする胸を奥歯を噛んでやり過ごす。こんなに異性に言い寄られる事なんて一生無いかもしれない。しかもまぁ…イケメンだし。でも元の世界への未練を断ち切る勇気は無くて、その手を取るのも怖い。
「ふ〜ん。いろはちゃんは我輩の事を好いていると見える」
「…違います…キス…して、勘違いしてるだけです…」
「きす?なんだ、それは」
「し、知りませんっ、え、ひゃっ、まっ…!」
抵抗虚しくあっという間に抱き締められ、唇に温もりが落ちてきた。じわじわと胸の奥の大事なものが破れて涙になって零れていく。唇を舐められて飛び上がるとその隙に舌が中まで入り込んできて、逃げようとする前に強く吸われて力が抜けてしまう。柔らかく噛んで舐めて転がして、息が限界を迎える前に少し離れてまた直ぐに深く繋がった。
完全にされるがままになっていると漸く解放され、優しく抱きしめられてまるで褒めてくれてるみたいに撫でてくれる。松永さんの首筋に額を預けて息を整えていると男の人の匂いを感じて、いい匂い。なんて思ってしまった。
「…やっぱり…松永さんは、悪い人です…」
「我輩にここまでさせるとは、お主も十分だと思うがな」
甘やかすような声色にきゅんとして意図せずしがみついてしまうと、応えるように抱き締められる。どうしよう。もうダメかもしれない。
「…私、帰ってしたいことが沢山あるんです。…勉強して、大学に行って、素敵な人と恋人になって、卒業したら仕事に就いて…結婚して、寿退社して…子供ができてもずっとラブラブで仲のいい家庭を築くんです……だから、」
「お主の望みは我輩が叶えてやろう」
「っ……」
心臓が止まるかと思った。きっと、選んではいけない道だ。だって食べられてしまう。…全てを失う代わりに私が得られるものは何なんだろう。
「恐ろしいのなら、じっとしておれ。我輩が悪党らしく攫ってやる。そうだな、先ずは…」
縁を作らねば。そう言って身体を好きにされると、松
永さんしか視界に入らなくなる。松永さんの温もりを執拗い程に感じると、不思議と何も怖くなくなった。愛でられてる様な撫で方に気を良くしてゆっくり目を閉じると、遂に甘い毒で身体が痺れ出す。ごめんなさい。頭の中で一つ謝れば、破れたそこから後悔が逃げて行った。
2018/12/12
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