短編
namechange
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
初めのキカイをもう一度
逃げ出して、逃げて逃げてやっと掴んだ自由だった。体に埋め込まれた発信機も無理矢理壊して、偶にぼうっとしてしまう後遺症は残ったものの日常生活に支障をきたす程でもなく、やっと平穏な日々を過ごしていた。
なんとか喫茶店のアルバイトにこぎつけ、最近常連になった外国人と良い雰囲気になった。日本語が堪能で頭も良く、話していて勉強になる事も多かった。外国人ならではキザさも嫌味がなく常にスマートで、私がサイボーグだとは言ってないけれど後遺症の事も変な顔をすること無く受け入れてくれ、何度か誘われてデートだってした。彼の悲しい過去の話も聞いた。そして数回目のデートをしたのが先日。その日初めてキスをして、気持ちを確かめて今。彼は私の家で、私のベッドで、私を組み敷いている。
キスをしながら服を全て取り払われ、見た目に反してとても情熱的な愛撫に翻弄されたが、その熱に溶かされるのがとても心地いい。冷え性だと苦笑いを浮かべていた彼の手だって今はとても熱い。肌を滑る度に快楽がゾワゾワと背筋を駆け上がって行く。
私は彼が、アルベルトが好きだ。もう人間ではないのにこんな感情をぶつけてしまうなんて間違っているかもしれない。望まないままとは言え、アルベルトを置いて長い時を生きてしまうサイボーグだと知ったら、彼はどんな顔をするだろう。
「怖いのか?」
体中にキスを降らせていたアルベルトが顔を上げて私を見下ろすと、額に張り付いた髪の毛を撫でてそこにも一つキスをくれた。
「泣きそうな顔をしていた」
好きな人に抱かれようと言うのに、変な気を使わせてしまった。優しく髪を撫でてくれる手に目を細めて首を振る。今だけは、全て忘れよう。
「ごめんなさい、違うの。幸せだなって考えてたの」
私の返答に柔らかく微笑んで焦らすように胸の形を変えられ、また体の中で熱が燃えていく。人と大差ない見た目で本当に良かったと思いながら、今度はただ愛されることに集中した。
「そうか。まだ考え事をする余裕があるとは、俺もまだまだだな」
「ひゃんっ」
そう言って蜜が溶け出している所を撫で上げられ上擦った声が出る。肉を掻き分ける様にして入ってくる硬い指にビクビクと反応を返すと唇をキスで塞がれ興奮してしまう。ゆっくりと探る様に押し広げられたと思えば途中で質量が増して、更に快楽が強まりあっという間に上り詰めてしまった。
「ん、ふぅっ…ある、あるべっ…あっまだだめっ…あああぁっ!」
指が浅い所を刺激するのを感じているともう一つの指が入りたそうに蜜を擽り、中の二つと同じ場所に辿り着いた。アルベルトに縋り付いて耐えるとちゅ、ちゅ、と音を鳴らしてキスをくれ、胸がきゅんと疼く。
「ひぁっ、あ、あ、ふっ、くぅ…!く、るし…」
「大丈夫だ。ちゃんと気持ちいいだろ?」
アルベルトの言葉に頷くと鼻を鳴らして笑った息が首筋にかかり腰が震える。それに気づいたアルベルトが耳元で愛を囁くと、応える様に体がビクビクと反応し、いつの間にか無理矢理広げられる感覚も薄くなっていた。
「あるべると、あぁっ、ある…っ」
言葉を隠してアルベルトを強請ると、ちゃんと伝わったのか指を引き抜いて体を起こし、ズボンに手をかけるアルベルトがゴムに手を伸ばしていた。そのまま装着し、足を開かれて一つになる事を心待ちにしていたが、ふと疑問が頭をよぎった。
「アルベルト…服、ぬがないの?」
「…俺も脱がないと恥ずかしい?」
「うん……後ちょっと…さみしい…あっ、アル!」
有無を言わせず押し入ってきた圧迫感に眉を寄せる。流石の質量に息が詰まるがきちんと後から快楽が着いてきて、ゆっくり時間をかけて埋まる熱に幸せを噛み締めた。
「恥ずかしいのも寂しいのも、気にならないくらい良くしてやる」
「あぁっ、待…ああぁ!あるべ、るとっ…ひゃ、あぁ!」
奥に辿り着いて二、三度様子を見る様に優しく動いた後はまるで本能に飲み込まれたかのようだった。体重をかけて腰を打ち付けられ、沢山のキスを受け止めながら果てへと近づいて行く。
「あっあっ、ひゃだ、まって!そんな、されたら…っあ、あ、イッちゃう…っ…ああああぁっ!」
果てて動きがゆっくりになったのはほんの少しの間だけで、また直ぐに衝撃がお腹の奥に届く。大きくて苦しいのに気持ちいい所ばかり突かれて何も考えられない。それが怖くてうわ言の様にアルベルトの名前を呼び続けると優しいキスをくれ、髪を撫でてくれる。泣きそうなくらいの幸せに、身も心もアルベルトの虜になってしまった。
「ああぁっきもち…あるべうと、あるべ…ひゃあっ!あっあっあ…きもちぃ、ある…っ」
「あぁ…っ、俺も、いいぜ…いろは」
アルベルトの弾んだ息も興奮の材料になって私を攻め立てる。気持ちよすぎて仰け反る度に逃がすまいと更に強く抱き締めて快楽を奥に叩き付けられ、何度も何度も
果てを見た。気付いた時にはアルベルトの腕の中で気を失っていて、髪を梳かれる気持ちよさに目が覚める。
「悪い、久しぶりでつい…無理をさせちまったな」
「ううん、私の方こそ。…あんまり覚えてなくて…ごめんね、ちゃんとイけた…?」
「お陰様で」
「それはよかった」
くすくす笑うと額に口付けられ、甘えるようにアルベルトの胸に擦り寄る。子供みたいに甘やかしてくれる手に溺れていると、ちょっとした違和感に顔を上げる。ワイシャツ越しに触れる肌が、人と違う……?何気なく手を這わせるとそれは確信に変わった。血の気が引いていく。弾かれた様にベッドから降り、距離を取る。アルベルトの驚いた顔を見ながら頬に涙が伝うのを感じた。
「連れ戻しに来たの……!?どうして……!?よりによってこんなやり方…あんまりよ……ッ!」
困惑しているような顔で私の名前を呼ぶ声も、全部演技なの?それともプログラム?……間違いない。アルベルトは、彼は私と同じ……サイボーグだ。記憶の端で、いつか見た顔写真が頭をよぎった。
「全部嘘だったの…?わたし…っ…本当に、貴方の事……愛してたのに………」
「いろは」
「近寄らないで!近寄ったら撃つわ!!」
ベッドから降りてこちらに手を伸ばす彼にレーザー銃の照準を合わせて指先を向ける。それでもこちらに足を進めるので威嚇射撃をすると頬に赤い線を作ってしまって思わず狼狽えてしまう。その隙にこちらへ向かってくるが、もう私には彼を傷付けることは出来なかった。
「…そんな格好でベッドを出たら風邪をひく」
「……風邪なんてひかない…分かってるでしょ…」
涙を拭って裸の体を抱き締めてくれる優しい腕に縋り付きそうになるのを必死に我慢して唇を噛み締める。
「…服を、着させて」
「…ダメだ」
「ひゃっ!ちょっと!」
抱き上げられベッドに連れ戻されるとシーツで包まれまた強い力で抱き締められる。離して欲しくて胸を押すが、同じサイボーグなら男と女の力の差は歴然らしい。ビクともしない。
「…いろはは、基地から逃げて来たのか?」
「なに言って…だから連れ戻しに来たんじゃ…」
「俺も…いや、俺達も逃げ出した。9人と、1人の博士と共に」
基地で聞いた事があった、裏切り者のサイボーグの事を思い出した。そうならない様にと何度も何度も口を酸っぱくして言われたし、発信機だって付けられた。だから逃げる際に自分の作成資料を盗む羽目になったのだ。それでもその話しは私の唯一の希望だった。連れ戻されることが無い様、自分の事のように祈りもした。
「…どうやってその話を信じろというの」
「……俺を信じて欲しい」
「…そんなに狡い人だったなんて、知らなかった」
私がアルベルトの事を好きだと知っていてそんな事を言うなんて、本当に狡い。それなのに仲間と博士に会って欲しいなんて言うんだから。止まらない涙を拭ってくれる手を信じてしまいそうになる。
「もしその話が嘘だとしたら、私一人で整備が完璧なサイボーグ達と戦うことになるのね」
「そしたら俺がお前さんを守るさ」
「もう…」
ゆっくりと押し倒され、降りてくる唇を受け入れる。シャツをきゅっと握ると愛でるように頬を撫でる手に瞼を閉じた。
「いろはの後遺症は、どこか故障しているのか?」
「…発信機を無理矢理壊したの。一緒にどこか壊れちゃったのかも」
「…その話、信じても?」
「お好きにどーぞ」
アルベルトも私が黒の幽霊団だと疑っている素振りを見せ、それに気分が悪くなって顔を顰める。突き放した言い方をすればクスクス笑われ、顔を背けた。するとこめかみに唇が押し付けられ、きゅんとしてしまう。
「スカールを倒した」
「……嘘」
「本当だ。今は時々残党の相手をしている」
突拍子もない言葉に目を見開く。直ぐに脱力すると目を閉じて情報を遮断した。頭の奥がぼうっとする。私を呼ぶアルベルトの声が遠くなったり近くなったりして頭の中の小さな地震が治まるのを待つ。ゆっくり目を開けると心配そうな顔と目が合って気持ちが静まっていく辺り、もう手遅れのようだ。
「大丈夫か、いろは。いつもより長かった」
「余りのパニックに後遺症も絶好調よ」
「博士にみてもらおう」
「……………わかった」
私の言葉に綻ばせる顔を隠すことなく見せ付けるアルベルトに笑みを返す。
「私ね、アルベルトと一緒にいれて凄く幸せだったの。だからもう、どっちでもいいわ」
「いろは…絶対に後悔させない」
「期待してる」
ぎゅっと抱き締めてくれるアルベルトの背中に手を回して忍び寄る不安に気付かない振りをした。この先がどんな未来に繋がっていても後悔しない覚悟を決める。
「でも一つだけ約束して」
「なんだ?」
「今度はちゃんと服を脱いでくれる?」
「…約束する。なんなら今からでも」
そう言ってシャツのボタンを外すアルベルトに驚くと彼はシャツを脱いで覆い被さり、深いキスをして来て呆気に取られた。てっきり直ぐにでも出発するのかと思ったのに。
「んっ…行かないの?」
「その気になればいつでも会えるさ。…いろはが逃げなければ」
「ふふっ…思い出した。貴方004でしょ?逃げられる気がしないわ」
「逃がす気が無いからな」
頬に付けてしまった赤い線を指でなぞって謝ると、今から責任を取ってもらうと意地悪な笑みに迫られて釣られて笑って頷く。いつの間にか、涙は止まっていた。
10/15ページ