短編
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涙の種
「いろは、」
耳元で囁く声が優しくて思わず抱き締める手に力を込める。決して同じように返してくれなくとも、この上なく労わってくれている肌の温もりとその声色に充分過ぎるほどに愛情を感じ、胸の奥が絞られる感覚に身を震わせた。
「あっ、あぁ...十兵、衛...さま」
ぐち、ぬちゅっ、と言う音が段々と大きくなりそれと共にいろはの中が小さく痙攣し始める。十兵衛も器用に口付けると腰の動きを速めた。
「んふ、ふぁっ...や、やぁっ!十兵衛さま、やっ十兵衛さまっ...!」
涙を流しながら縋り付くように抱き締め仰け反るいろはに十兵衛はまたかと眉を下げる。果てが見えると嫌だ嫌だと首を振って涙を流すものだから先程までの甘やかな時ががらりと息を潜める。それでも十兵衛が腰を止める訳では無いのだが、それにしても小さく胸を痛めるには充分だった。
一際大きく身体を揺らしながら果てるとひく、ひく、と嗚咽を漏らす。十兵衛は己の精を注ぎ込みながらいろはの目元に長い舌を這わした。
「すまんないろは、大事無いか」
「ふ、は...い...十兵衛さま...」
十兵衛を抱き締めたまま横にゆっくりと寝かせるとすかさず十兵衛の胸に擦り寄りほう、と息を吐いた。十兵衛はその吐息にも似た甘いため息が気に入っていた。その後必ず目元をとろりと緩ませて上目遣いに愛の言葉を囁くからだ。
「愛しております、十兵衛さま...」
「あぁ、おれもじゃ...いろは」
どちらともなく唇を寄せ合い一頻り愛を確かめ合うといろはは気だるさに身を任せて意識を闇に落とした。十兵衛はいろはの穏やかな寝顔を見ながら行為中に涙するいろはをどうしたものかと思考を巡らせるも答えは出ず、考えを打ち消す様に首を振って十兵衛も追い掛けるように意識を手放した。
「いろは。ちと良いか」
「はい、弦之介様。如何なされました...?」
僅かに空いた障子越しに弦之介の元に歩み寄れば、そこには豹馬と将監と陽炎、左衛門がお茶を啜っていて目を見開く。何事かと神妙な顔をして姿勢を正すと弦之介は柔らかな笑顔で首を振った。
「あぁ、いろはと十兵衛の話を肴に皆で茶を飲んでいただけじゃ。肩の力を抜かれよ」
「十兵衛様と私めの、でございますか...?」
座るように促され腰を下ろすとこてん、と首を傾げる。何の話か皆目見当もつかず、彼や此れやと考えているとにやりと笑う将監が口を開いた。
「いろは、地虫の奴のアレはどうだ」
「あれ、と申しますと...?」
あれよ。あれ。と再び繰り返されると陽炎はため息をついて頭を振った。他の皆は何とも言い難い表情で苦笑しながらも口を開くつもりはないらしい。またこてん、と首を傾げる。
「夜の目合いよ」
「まぐっ...!?日の高いうちにそ、そのような事をお話になられていたのですか!?」
やっと放たれた将監の言葉に途端に顔を赤くすると開けたままであった障子をぴしゃりと閉めて向き直る。朝餉を済ませて一息付いたばかりだと言うのに、なんて事を!赤らみを隠すように俯きがちに様子を窺うと五人の視線を一身に感じて身を縮めた。
「なにゆえ...その様なことを...っ」
「いや、地虫がの」
「え?十兵衛さまが?」
十兵衛が二人の秘め事を他言するような人柄でない為思わぬ言葉に恥ずかしさも忘れて顔を上げる。クックックと笑うばかりで口を噤んだ将監の代わりに左衛門が口を開いた。
「地虫殿に子はまだかと問うたのじゃが、煮え切らん様子で押し黙るので根掘り葉掘り聞いてしもうた。許せいろは」
「根掘り葉掘り...にございますか」
火照る顔をそのままに未だ読めぬ話に悪いことばかりが頭を駆け巡る。十兵衛さまは、私との子を望んではおらぬという事...?ずん、と重くなった頭に眉が下がる。
「何やら悩んでおる様子じゃったので、無理に聞いてしもうた。気を病ませてすまんな」
「い、いえ!とんでものうございますっ」
弦之介が謝るので慌てて首を振る。しかし十兵衛の悩みとは何なのか。もしや上手く立ち回れていないのかと昨晩の情事を振り返るが幸せだった事ばかり思い出して首を捻った。
「地虫が下手で気をやれぬか」
「えぇ!?な、なにをっ!」
「これ将監。言葉を選ばぬか」
豹馬が咎めるとまた楽しそうに笑って将監は足に頬杖を付いた。十兵衛との行為は蕩けそうになる程に気持ちが良く、すぐに果ててしまうのでそういう事となれば十兵衛が満足出来ていないという悩みなのだろうか。といろはは無意識にんむむ、と唸り声をあげた。
「いや、差し出がましいやもしれんが、心配しておるのだ」
「...はい、心得ておりまする...して、十兵衛様のお悩みとは...?」
「...なんでも...涙を流す、と」
「...涙、にございますか...?」
行為に及ぶと涙を流す。それが十兵衛の悩みらしかった。昨晩の事を思い返してはっとする。もしや、と思ったところで弦之介が口を開いた。
「いろはは十兵衛を心より慕っていると見える。しかし行為に及ぶと涙するとなれば...」
「い、いえ!違うのです!あれは...その...」
赤らめた顔を伏せて言葉を切った。いざ口にするとなると気恥しい。それが十兵衛の前では無いとなると尚更憚られた。しかし将監以外は心より心配して気にかけてくれているのが分かるため、無下にも出来ない。いろはは心して口を開く。
「わたくしは...十兵衛様には何時も...この上ない幸せを頂いております」
「それならば、何故涙を...?」
「それは...あ、の...き、気を...やるのが...恐ろしゅうて......」
「恐ろしい?」
やっとの事で絞り出した言葉に皆一様に首を傾げた。果てを見るのは気持ちが良いだろう。と唸り声をあげる一同にいろはは居心地が悪くなり更に小さくなる。
「なんと、申しますか...夢心地に浸っていたら、急に手足を縛られ、高い所から突き落とされるような...そんな感覚が、恐ろしいのです...」
「ふん、おなごの事は分からぬの。陽炎、どうじゃ。おぬしなら何か進言出来るのではないか」
「どうじゃ、と言われましても...慣れとしか...」
「陽炎姉様まで...!う、あのっもう宜しいでしょうか...!」
幾ら弦之介の前とは言え、自分らの床事情を暴かれるのは余りにも恥ずかしい。悩みの種がそういう事なら自分が我慢してしまえば良いのだから、と耐えきれなくなったいろはは勢いよく顔を上げて弦之介を見た。
「あぁ、すまんかったな。いろは」
「い、いえ…教えていただいてありがとうございます、ではっ」
恥ずかしさで震える足に鞭を打ち、慌てて障子を開け放つといろはは部屋に入ってきた時より大きく目を見開き固まった。
「じ、十兵衛さま!?」
「おぉ、地虫よ。聞いておったか。わしはてっきりお前が下手くそでいろはが満足出来ぬと申すかと思ったのじゃが、良かったではないか」
「抜かせ将監。左衛門殿、申し訳ないが人払いをお頼み申す」
「......心得た」
「え、十兵衛さま!?」
そそくさと去る十兵衛に手首を舌で掴まれ手を引かれる。その力強さに一瞬転けそうになるも持ち直し、慌てて付いていくとあれよあれよという間に十兵衛の部屋に辿り着く。しゅるりと解かれた舌を少し寂しく感じながら戸を開けると十兵衛が中に入り、いろはも続いた。
「あ、あの...十兵衛、さま...?...何時から聞いておられたのですか...?」
「......いろは」
「はい、」
いろはに背を向けたま煙管を燻らす十兵衛に顔の熱が冷めやった。早く顔が見たいと思いながらも十兵衛の言葉をただ待ったがその沈黙の重さに耐えきれず胸の前で手を握りしめる。
「おれは、一人で一通りのことは出来るが...いろはにしてやれる事は少ない。...しかし」
「十兵衛さま」
「...なんじゃ」
十兵衛の言葉を遮って名を呼んだ。いろはに溢れるほどの愛をくれる十兵衛が、そのような事を気に病むのが我慢ならなかったのだ。その愛にどうしたら応えれるのか。いろはには上手く伝える術がなく、もどかしさに奥歯を噛み締めた。
「初めは...何度、貴方さまの腕に抱かれたいと願った事でしょう...」
堪らずいろはは膝を付いて十兵衛の背中へ縋り付くよう抱き付いた。十兵衛を前にすると触れたい衝動が抑えられない。本当は一時だって離れたくはない。そんな暗くどろどろとした感情がある事を十兵衛は知らないだろう。言葉にすることも無いだろうけれど。
「しかし思うたのです。なれば私が、その分十兵衛様を抱き締めればいい、と。」
「いろは」
「幾ら十兵衛様への愛を囁けど、心根の想いの一寸も伝えられず...心苦しゅうございます」
十兵衛の背に頬を擦り寄せ懇願するように唇を寄せた。そしてまた力一杯抱き締めると煙管を置く音がしたが気にせず手に力を込める。十兵衛がいろはの名を呼ぶ度にいろはは首を横に振った。
「いろは。」
「...嫌です」
「いろは、」
「......離しとう、ございません...」
「...顔が見たい」
「............」
そう言われてしまっては否とは言えない。名残惜しげに離れると十兵衛がゆっくりと振り向いた。口元は緩く弧をかいており、その眼差しは優しくいろはを見つめている。それを見るといろはの胸はじくりと熱く痛み、そこに手を当て熱を吐き出す。
「、十兵衛さま...胸が焦がれて、痛うございます」
「それは大変よのう、いろは」
十兵衛の髪がいろはの頬を撫でる。その毛先までも愛おしく想いながら唇の温もりにうっとりと目を閉じた。十兵衛の温もりと匂いにまた胸の奥が痛み、唇が離れるとすぐ様首元に擦り寄りまた力一杯抱き締める。
「...十兵衛さま...申し訳ございません...わたくしが...至らぬばかりに...要らぬ気を使わせてしまい...」
「良い。怖いと申すなら、怖くなくなるまで何度でも抱いてやる」
「はい...っ」
この上ない幸せにいろはは涙を滲ませた。暫くそうしていると突然体重をかけられそのまま押し倒される。反射的に起き上がろうとすればすぐに十兵衛がいろはの上に乗り唇を塞いだ。
「んん、ふぁ...じゅ、べ…さ...んぅ」
「いろは、お前が欲しい」
「ンは、...まだ...日が高う、ございます」
「その為に左衛門殿に人払いを頼んだのだ」
「な!?ですがんぅ!」
再び口付けられ、器用な舌で口内を犯されるといろはの芯が小さく疼く。抵抗する力が無くなったのを見て十兵衛は歯で着物を引き胸元を肌蹴させた。白い柔肌を一頻り舌で堪能し、快楽に震えるいろはを見て十兵衛も堪らず半身を晒す。
「...今日は部屋から出さぬぞ」
「じゅ、べえさま...お...ねが...あつうて、くるしっひゃあぁ!」
いろはの言葉を遮って何時もの様に柔らかな其所に強靱な肉を押し進めると軽く果てたのか涙が顳かみに伝うのが見え、十兵衛は思わず舌で舐めとった。そのまま頬に口付け、首筋に顔を埋めるとゆっくりと腰を動かす。
「ひぅ、あっあっ、じゅうべ、さっ...んぁっや、やぁ...っ」
「始めたばかりと言うのに何処も彼処も蕩けてぐちゃぐちゃじゃあ」
そんなにおれが好きで堪らぬか。と意地悪く笑うとぎゅっと抱き付いて何度も頷くいろはが余りに可愛く、頬に唇を寄せた。溢れる蜜を掻き出すように大きく出し入れを繰り返すといろはの腰がびく付き中が締まる。
「や、十兵衛さ、...や、やっ...あぁ、こわ...やぁっ」
「いろは、名を...もっと」
「十兵衛さまっ、十兵衛、さっ...ひゃ、じゅうべっさまぁ...じゅ、あっあーーーーっ!」
十兵衛の着物をくしゃくしゃになるまで掴んで果てたいろはを休ませながら涙を啜る。乱れた息で名前を呼ばれると放ち損ねた熱が疼いた。
「いろは、おれを下に」
「は、い...抜いて、くださいませ...」
「何を言う。このままに決まっておろう」
十兵衛の言葉にぎょっとするも、早く、と急かされると仕方なしに十兵衛を抱き込んで転がるように場を入れ替えた。しかしこれではまるでいろはが十兵衛を犯しているようで、恥ずかしさに止まった涙をまた溢れさせた。
「は、恥ずかしゅう、ございます...十兵衛さま...」
「良い眺めじゃ、いろは」
「ひゃ、じゅうべぇさまっあぁ!」
「ふむ、やはり上手く動けんな。いろは」
下からずん、と突かれ身体を仰け反らせたがすぐに止まった快感に十兵衛の顔の横に手を付いて息を整える。すると動くよう催促され恥ずかしさに首を横に振った。
「わ、わたくしにはっできませぬ...っ」
「寂しいのう。たまにはいろはから求められたいものじゃ」
「っ、い...いじが、わるうございます...十兵衛さま」
笑みを浮かべる十兵衛の顔色を窺いながら仕方なしに腰を動かすと己が生み出す快楽に耐えかねて十兵衛に抱きついた。不器用に動くいろはを愛おしく思いながら耳にかかる吐息に笑みを濃くする。
「上手いぞ、いろは」
「はぅ、十兵衛さまっ…ん、あぁ...」
快楽に臆病ないろはにしては。と頭の中で続けると拙い腰使いを暫く楽しむ。いろはは十兵衛に気持ち良くなって欲しい。その一身でおずおず動くがまた己の果てが見え、思わず動きを止めると中の震えを感じ取っていた十兵衛が代わりとばかりに突き上げる。
「ひゃあ!じゅ、べ...さまぁっ...あっ、あっやぁ!いやぁっ!」
「恐ろしいならおれを呼べ、いろは」
「ひっ...十兵、衛さまっ」
「あぁ、ここにおる」
「あぁっ十、兵衛さっ...ひぐ、んぁっ十兵衛さまぁ...十兵衛さま、十兵衛さまっ十兵衛、さっひぅっーーーー!」
十兵衛の首に手を回して音にならない悲鳴をあげて果てた。ぴくり、ぴくりと痙攣する腰に満足気に目を細めて舌で労わるとぐすぐすと鼻を鳴らして擦り寄ってくるいろはに庇護欲が湧き、叶わないと思いながらも抱き締めたい衝動に駆られる。
「じゅ...べ、さま...申しわけ...ござっ...ひ、く...わたくし、ばかり...」
「よい。おれがそうしておるのだ。...しかし、」
十兵衛にしがみついて息を整えているとくるりと身体が反転し畳ではなく天井が見えた。そして繰り返される快楽に上手く状況が読めていないいろははどんどん追い立てられていく。
「やはりこちらの方が動きやすいのお」
「ふあぁ、じゅうべぇさまぁっ...!あー、!また、すぐっ...やぁ!あ、あ、やら...た、すけっ!」
先程よりも速くやってきた絶頂に心の準備も出来ぬまま飲み込まれいろはは震え上がった。果てる度に十兵衛の温もりに縋り、十兵衛は怖がるいろはを安心させるよう口付けを落としていく。何時もはいろはが果てると息が落ち着くまで休め、暫く口付けてから律動を再開するのだが、動きは緩やかになったものの、止まる気配はない。
「気をやればやる程慣れも速るじゃろう。存分に乱れよ、いろは」
「ひっ!やぁっ、じゅっ!んぁーっ、じゅ、べっ...!ふあぁぁ!」
いろはが幾ら果てても休み無く動き続けていると段々と奥を突く度に痙攣を繰り返すようになっていった。二人を繋ぐ其所からは蜜が溢れ出し畳まで汚していく。ぐぷ、にちゅ、と音を刻めばいろははとうに意味のある言葉を発しなくなり、十兵衛が叩き込む快楽をただ必死に受け止めていた。
「どうじゃ、そろそろ慣れてきた頃合か?」
「あっあぁ!あーー!あ、あ、んくぅーっ!ひっ、あぁ!」
「くっくっく、このまま壊して飼い殺すのも一興じゃのお」
だらしなく開いたままの口からは涎が伝い、それを十兵衛が舌で追いかけそのまま口付ける。互いの舌が絡み合うと、その快楽にいろははより一層震え上がった。果てても果ててもやってくる絶頂にいろはの頭の中を支配するのは恐怖ではなく十兵衛が愛しいという想いにすり替わっていった。
「あっあー、!じゅ、べっひゃあっ...あぁっあ、あ!す、き...ふぁっ...じゅっべさ、すきっんあーっ!すき、すきぃ...っ」
「っ、」
幼子のように好きと繰り返すいろはは何時もの淑やかさとは随分とかけ離れており、十兵衛は思わず息を呑んだ。蕩けた表情でうわ言の様に絞り出される愛の言葉は十兵衛の理性を崩すのには十分だった。
「おれも大概じゃ、」
口の中で呟くと腰を根深く押し付け迫り上がる精を堪らず吐き出す。奥にどろりとした液体が注ぎ込まれる感覚に心地よさそうに目を細めると抗えない虚脱感がいろはの意識を奪っていく。
「ふぅ、...ん、ぁ...はぅ...っん...く...」
十兵衛は荒く息を繰り返すいろはの唇に食い付き意識を留めさせるとようやく半身を抜く。間一髪入れずにそこからこぽりと溢れた精を感じて薄く笑った。
「まだ恐ろしいか、いろは」
「い...え...じゅうべえさまを、すきだと...いうことしか...かんがえられなくなっ......こ、のまま、しんで...しまうのかと...」
「くくっ、死なれては困る」
いろはの隣に横になると小さな手が十兵衛の胸を這った。着物をきゅっと引っ張って顔を上げると口付けを強請るように首を伸ばす。十兵衛はそれに応えると、今度は額に口付けた。
「ややこが楽しみじゃのお」
「はい、はやく...顔が見とうございます」
「まだ孕んでもおらんのに、気が早い事じゃ」
くすくす笑い合いながら気だるさに微睡む。いろはの息も十分に整っており胸板に擦り寄るいろはの髪に口付けを繰り返していた十兵衛はまた自分の体重を利用していろはを押し倒した。
「じゅうべえさまっ...な、なにをっ」
「なにを、と?白々しい。種を仕込むに決まっておろう。」
「し、しかしもうっ」
「言ったはずじゃが?今日は部屋から出さぬ、と」
「あっ、お待ちくださいっ...ん、十兵衛さまっ...あっやあぁ!」
力の抜けたいろはの抵抗は意味を成さず、どろどろに溶けた其所はいきり立った熱を容易に受け入れる。ぐちゅりと水が潰れる音が響き十兵衛の胸を両手で押していやいや、と首を振るも延びてきた舌に口をこじ開けられれば着物の裾をくしゃりと握り、呆気なく舌の動きに夢中になった。
「ふあぁっ...ほ、とに...ふっ...こ、こわれてっしまいます...んあっ」
「壊しても離しはせぬ。安心して壊れるがよい」
そんな無体な、と涙に濡れた声で名を呼べば満足そうにただ微笑む十兵衛が見下ろしていていろはは顳かみに伝う熱を感じながら背筋を駆け抜ける愛情にただ悦楽する事を選んだ。
2018/01/22
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