エス光
「んだぁ、だらしねぇ頭してんな」
太陽が登り始めて間もない時間、少し体でも動かすかと槍をひっつかんだ俺は、部屋を出て直ぐに真後ろからかかる声に足を止めた。
振り返らずともわかる、隠されない気配は相棒のもので、掴んだ槍を危なげなく背負いながら俺はそいつに向き直る。
「朝イチにかける挨拶にしてはどうなんだ、それは」
「挨拶じゃねぇよ。見たまんまを言っただけだ」
腕を組んだ状態で、俺の頭をジロジロと見上げる不躾…と騒ぎ立てるような仲でもないのだが、まぁ眉間に皺を寄せているこいつの顔には、俺も僅かに眉を寄せた。
だらしない頭だどうだと言っていたが、全く検討がつかん。
相棒もそんな俺を知ってか知らずか、ひとつ息を吐く。
「髪、適当に結っただろ」
髪?
「髪なん「て、結うのに適当も丁寧もないだろう。だろ?」
被せるように俺が口にしようとした言葉を一字一句違わずに代弁してくれたものだから、その通りだと頷けば、またひとつ、今度は先よりも盛大にため息をついた。
「マジ…テメェはンな感じなのに、サラッサラの髪してんの信じらんねぇ。どうせ手櫛で適当にまとめたんだろ…こっち来やがれ」
言いながら相棒は俺の腕を掴み引っ張るものだから、俺は仕方ないかとその小さな背を見ながらついて行くことにした。
身長の差のせいもあり、少し歩幅を間違えると足を引っ掛けてしまいそうだ。
そうすればまたピーチクパーチク騒ぎ立ててくるだろうから、気を付けてやらんとな。
―――――
そうして連れてこられたのは、相棒に宛てがわれている部屋…なのだが、お前は少しは男を部屋に上げるのを躊躇え…というのは、こいつに言うだけ無駄か。しかし俺にそう思わせるのも大概だと思うんだが。
「そこ、座れ」
「はー…」
顎先だけで座るように促され、俺は相棒と向き合うように椅子に座る。
「違ぇ、あっち向け」
そういうのは先に言っておけと文句を零せば、うるせぇと返される。分かっていた返しの言葉は相変わらず荒っぽいが、実は心地よく感じている所もある。
甘ったるさを振りまきながら媚びるような女より、大分。
さて、早くしろと椅子を蹴られる前にと俺は相棒に背を向けて座り直せば、おもむろに紙紐を解かれた。
途端に肩に少しの重さが乗り、次には何かが差し込まる。聞かなくても察する事ができるそれは、櫛か。
耳に、心地良い音が入り込む。あぁこれは、相棒の口が奏でる歌だ。
耳に馴染むそれは、イシュガルドで子供達が歌っているのを聞いた事がある。いつの間に覚えたのやら。
こいつは『うた』というものにえらくご執心のようで、知らない歌が聞こえるとフラフラと引き寄せられていっては覚えて帰ってくる節がある。
この歌もそのように覚えたのだろうと目を閉じれば、意識はその歌と、存外優しく髪を梳く動きに向けられ、悪くないものだと薄く笑う。
先程までの剣幕はどこへやら、ご機嫌な相棒は俺の髪を結い終えたのか、歌が止まると同時に手が離れていった。
「勿体ねぇよ、折角綺麗なのに」
「俺にはよくわからん」
そもそも綺麗という言葉を俺に向けること自体間違っているのだ。
とはいえ、こいつも他に用事があったろうにこうして時間を割いてくれたのだ。無下にするのも悪いとは思う。
「まあなんだ」
そう言って立ち上がり、低い位置にある髪を掻き回してやれば、以外にも嬉しそうに笑うものだから、そのまま前髪を後ろに撫で付けてやる。
「んなっ!」
そうして俺は、相棒の額を覆う黒曜石のような鱗へと口を寄せて感謝を告げた。
「ありがとうよ」
太陽が登り始めて間もない時間、少し体でも動かすかと槍をひっつかんだ俺は、部屋を出て直ぐに真後ろからかかる声に足を止めた。
振り返らずともわかる、隠されない気配は相棒のもので、掴んだ槍を危なげなく背負いながら俺はそいつに向き直る。
「朝イチにかける挨拶にしてはどうなんだ、それは」
「挨拶じゃねぇよ。見たまんまを言っただけだ」
腕を組んだ状態で、俺の頭をジロジロと見上げる不躾…と騒ぎ立てるような仲でもないのだが、まぁ眉間に皺を寄せているこいつの顔には、俺も僅かに眉を寄せた。
だらしない頭だどうだと言っていたが、全く検討がつかん。
相棒もそんな俺を知ってか知らずか、ひとつ息を吐く。
「髪、適当に結っただろ」
髪?
「髪なん「て、結うのに適当も丁寧もないだろう。だろ?」
被せるように俺が口にしようとした言葉を一字一句違わずに代弁してくれたものだから、その通りだと頷けば、またひとつ、今度は先よりも盛大にため息をついた。
「マジ…テメェはンな感じなのに、サラッサラの髪してんの信じらんねぇ。どうせ手櫛で適当にまとめたんだろ…こっち来やがれ」
言いながら相棒は俺の腕を掴み引っ張るものだから、俺は仕方ないかとその小さな背を見ながらついて行くことにした。
身長の差のせいもあり、少し歩幅を間違えると足を引っ掛けてしまいそうだ。
そうすればまたピーチクパーチク騒ぎ立ててくるだろうから、気を付けてやらんとな。
―――――
そうして連れてこられたのは、相棒に宛てがわれている部屋…なのだが、お前は少しは男を部屋に上げるのを躊躇え…というのは、こいつに言うだけ無駄か。しかし俺にそう思わせるのも大概だと思うんだが。
「そこ、座れ」
「はー…」
顎先だけで座るように促され、俺は相棒と向き合うように椅子に座る。
「違ぇ、あっち向け」
そういうのは先に言っておけと文句を零せば、うるせぇと返される。分かっていた返しの言葉は相変わらず荒っぽいが、実は心地よく感じている所もある。
甘ったるさを振りまきながら媚びるような女より、大分。
さて、早くしろと椅子を蹴られる前にと俺は相棒に背を向けて座り直せば、おもむろに紙紐を解かれた。
途端に肩に少しの重さが乗り、次には何かが差し込まる。聞かなくても察する事ができるそれは、櫛か。
耳に、心地良い音が入り込む。あぁこれは、相棒の口が奏でる歌だ。
耳に馴染むそれは、イシュガルドで子供達が歌っているのを聞いた事がある。いつの間に覚えたのやら。
こいつは『うた』というものにえらくご執心のようで、知らない歌が聞こえるとフラフラと引き寄せられていっては覚えて帰ってくる節がある。
この歌もそのように覚えたのだろうと目を閉じれば、意識はその歌と、存外優しく髪を梳く動きに向けられ、悪くないものだと薄く笑う。
先程までの剣幕はどこへやら、ご機嫌な相棒は俺の髪を結い終えたのか、歌が止まると同時に手が離れていった。
「勿体ねぇよ、折角綺麗なのに」
「俺にはよくわからん」
そもそも綺麗という言葉を俺に向けること自体間違っているのだ。
とはいえ、こいつも他に用事があったろうにこうして時間を割いてくれたのだ。無下にするのも悪いとは思う。
「まあなんだ」
そう言って立ち上がり、低い位置にある髪を掻き回してやれば、以外にも嬉しそうに笑うものだから、そのまま前髪を後ろに撫で付けてやる。
「んなっ!」
そうして俺は、相棒の額を覆う黒曜石のような鱗へと口を寄せて感謝を告げた。
「ありがとうよ」