エス光
しにかけのエスを背負いながら絶対しなせないと呟く光
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こちらより。
ふう、ふう、と己の口から漏れ出す息が、やけに大きく角に響きやがる。
あたしを覆うまでにでかい男を背負っているモンだから、全身から汗が止まらねぇ。そのせいで張り付く服がくそうぜぇしよ。
口に咥えた愛用の弓をぎちりと強く噛み締めて足を進めるが、ぬかるんだ地面にバランスを崩しかけどうにか耐える。
ほんの少しだけ息を整えるかと足を踏み出すことを止め、顔をかたむけ角を男の体に付ければ、まだ心音は届く。死んでねぇ。
この蒼の竜騎士…いや、今は『元』か…この元・蒼の竜騎士は、戦いのさなかに後ろにいるあたしを気にかけて、むざむざと敵の攻撃を受けて倒れた。確かにこいつの体が、その向こう側の敵を隠してはいて死角になっちゃいたが、例え庇われなかったとしても避けれていた自信はある。あるに決まっている。あたしはそんな生半可な旅をしてきた訳でもねぇし、鍛え方もしていねぇ。それはこいつも分かっているはずだとおもっていたのによ…。
「らっ、め…ひゃがっへ…!!」
お陰でこっちは戦闘するよりも体力使ってんだよ!!ばーーーか!!
重すぎんだよ!鎧置いてきてもこれたぁ恐れ入ったぜ!!無駄に縦に長く…いや、そりゃあたしらの種族の男どももそうか…。
………こいつの鎧は後で取りに戻らなくちゃなんねぇから、場所は忘れないようにしねぇと。
あぁくそ、今はそんな事よりこいつをだ…。
「……ぁ、ぃ、ぼ」
「あぁ!?」
微かに零れた男の声が、あたしを呼ぶ。少しだけ、安堵した。
は、と短く吐き出された息が角を掠め、ぞわりと背筋を何かがかけ上る。
「……ぶじ、か」
「あぁ〜〜!?」
何言ってんだこいつ!?なんであたしの心配をしてんだ!?どう考えたってテメェの方が無事じゃねぇだろうが!ふざけてんのか!!
自分の今の状況を確認してみろよ!?血をダラダラに流しながら一回りもちいせぇ女に背負われて、意識だってハッキリとしてねぇ癖に、自分の事よりあたしの心配なんかしやがって…。
誰が、誰に守ってもらったと思ってんだ…。
「へっへぇ…!!ひなへねぇ…!!」
ぜってぇ死なせてやるもんか!!後でしこたま文句ぶち込んでその腹殴ってやんだからな!?
もう一度足を踏ん張らせ、ずり落ちてきた男を背負い直す。あぁくそ、今はこの体の小ささが酷く恨めしい。
死ぬなよ、相棒。
―後日―
「よう、見舞いに来てやったぞありがたく思え」
そう言いながら、病室の扉を勢いよく蹴り開けた相棒が両手いっぱいに果物を抱えて入ってきた。本当に女かこいつは。
「扉を蹴飛ばすつもりか?一応俺は病人なんだ、静かに入れないのかお前は」
つい先日まで腹に景気よく穴を開けてたんだがな、と態とらしくため息をつきながら俺は立ち上がった。
そんな俺の様子を、近くのテーブルに果物を置いた相棒がジト目で見上げてくる。こいつの言いたい事は、まぁ理解できる。
「病人はベッドから降りて腕立て伏せなんかしねぇんだよ」
ごもっとも。だがそれはあくまで他の奴の感覚で、俺はそうじゃない。
何日もベッドで寝たきり部屋にこもりっきりは、落ち着けるはずもなく、こうしてベッドから出て暇を潰しているんだがな。
そして何より…
「体が鈍る」
一番の理由がこれだ。戦いで金を稼いでる身としては、鍛錬をサボる訳にはいかん。それに暁としているからには、いつ、どこで、どんな激しい戦いになるのかもわからん。
故に、一日でも怠る訳には…。
とはいえ、この小さな相棒にはそんな理由は関係ないようで、腕を組んで睨み上げてきていると来た。
「いいから寝ろよ、オラ早く」
口の悪さにも適いやしないが、その言葉に反して下げられた眉にも到底敵いそうもない。
しかたないと俺は口に出しつつも、相棒に従い再びベッドへと戻る。
「やれやれ……で、どうした?本当に見舞いにでも来てくれたのか?」
見舞い品を持ってきていた手前、そう聞くのはいかがなものかと思いはするが、俺はついそう尋ねてしまった。
…心配してもらえている、というのに、少しばかり浮かれているみたいでな。
「嘘は言わねぇ」
まっすぐに向けられる強い目。確かケスティル族は嘘を嫌っているんだったか。嘘を紡ぐ言葉を話さないだとかどうとか。
最も、相棒は音に合わせて奏でる詩に魅入られて、言葉を得て故郷を出た。
言葉を得たとしても、故郷を出ても、この相棒は嘘をつかない。
「…そうだったな」
野暮な事を聞いた、と素直に謝れば、相棒は首を振って気にしてないと意思表示をしてくれる。
そうしてベッドのそばにある椅子に小さく座り、少しだけ前にのめり出してきた。
「頼んでなかったにしても、ちゃんと礼は言わねぇとって、思って」
小さな手が、俺の服の裾を掴む。
弓を引き絞り、弓をつがえる、少し荒れた手が。
そうして詩を奏でる口が、迷いなく開かれた。
「守ってくれて、ありがとう」
「…………」
あぁこいつはダメだ。胸が締め付けられる。たまったもんじゃない。
「オイ!やめろ!頭掻き回すな!聞いてんのか!」
そもそもテメェに守られなくても避けられただの騒ぐ相棒の顔を直視しないよう、その顔を逸らさせるように、俺は相棒に殴られるまで手荒くその頭を掻き回し続けた。
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ふう、ふう、と己の口から漏れ出す息が、やけに大きく角に響きやがる。
あたしを覆うまでにでかい男を背負っているモンだから、全身から汗が止まらねぇ。そのせいで張り付く服がくそうぜぇしよ。
口に咥えた愛用の弓をぎちりと強く噛み締めて足を進めるが、ぬかるんだ地面にバランスを崩しかけどうにか耐える。
ほんの少しだけ息を整えるかと足を踏み出すことを止め、顔をかたむけ角を男の体に付ければ、まだ心音は届く。死んでねぇ。
この蒼の竜騎士…いや、今は『元』か…この元・蒼の竜騎士は、戦いのさなかに後ろにいるあたしを気にかけて、むざむざと敵の攻撃を受けて倒れた。確かにこいつの体が、その向こう側の敵を隠してはいて死角になっちゃいたが、例え庇われなかったとしても避けれていた自信はある。あるに決まっている。あたしはそんな生半可な旅をしてきた訳でもねぇし、鍛え方もしていねぇ。それはこいつも分かっているはずだとおもっていたのによ…。
「らっ、め…ひゃがっへ…!!」
お陰でこっちは戦闘するよりも体力使ってんだよ!!ばーーーか!!
重すぎんだよ!鎧置いてきてもこれたぁ恐れ入ったぜ!!無駄に縦に長く…いや、そりゃあたしらの種族の男どももそうか…。
………こいつの鎧は後で取りに戻らなくちゃなんねぇから、場所は忘れないようにしねぇと。
あぁくそ、今はそんな事よりこいつをだ…。
「……ぁ、ぃ、ぼ」
「あぁ!?」
微かに零れた男の声が、あたしを呼ぶ。少しだけ、安堵した。
は、と短く吐き出された息が角を掠め、ぞわりと背筋を何かがかけ上る。
「……ぶじ、か」
「あぁ〜〜!?」
何言ってんだこいつ!?なんであたしの心配をしてんだ!?どう考えたってテメェの方が無事じゃねぇだろうが!ふざけてんのか!!
自分の今の状況を確認してみろよ!?血をダラダラに流しながら一回りもちいせぇ女に背負われて、意識だってハッキリとしてねぇ癖に、自分の事よりあたしの心配なんかしやがって…。
誰が、誰に守ってもらったと思ってんだ…。
「へっへぇ…!!ひなへねぇ…!!」
ぜってぇ死なせてやるもんか!!後でしこたま文句ぶち込んでその腹殴ってやんだからな!?
もう一度足を踏ん張らせ、ずり落ちてきた男を背負い直す。あぁくそ、今はこの体の小ささが酷く恨めしい。
死ぬなよ、相棒。
―後日―
「よう、見舞いに来てやったぞありがたく思え」
そう言いながら、病室の扉を勢いよく蹴り開けた相棒が両手いっぱいに果物を抱えて入ってきた。本当に女かこいつは。
「扉を蹴飛ばすつもりか?一応俺は病人なんだ、静かに入れないのかお前は」
つい先日まで腹に景気よく穴を開けてたんだがな、と態とらしくため息をつきながら俺は立ち上がった。
そんな俺の様子を、近くのテーブルに果物を置いた相棒がジト目で見上げてくる。こいつの言いたい事は、まぁ理解できる。
「病人はベッドから降りて腕立て伏せなんかしねぇんだよ」
ごもっとも。だがそれはあくまで他の奴の感覚で、俺はそうじゃない。
何日もベッドで寝たきり部屋にこもりっきりは、落ち着けるはずもなく、こうしてベッドから出て暇を潰しているんだがな。
そして何より…
「体が鈍る」
一番の理由がこれだ。戦いで金を稼いでる身としては、鍛錬をサボる訳にはいかん。それに暁としているからには、いつ、どこで、どんな激しい戦いになるのかもわからん。
故に、一日でも怠る訳には…。
とはいえ、この小さな相棒にはそんな理由は関係ないようで、腕を組んで睨み上げてきていると来た。
「いいから寝ろよ、オラ早く」
口の悪さにも適いやしないが、その言葉に反して下げられた眉にも到底敵いそうもない。
しかたないと俺は口に出しつつも、相棒に従い再びベッドへと戻る。
「やれやれ……で、どうした?本当に見舞いにでも来てくれたのか?」
見舞い品を持ってきていた手前、そう聞くのはいかがなものかと思いはするが、俺はついそう尋ねてしまった。
…心配してもらえている、というのに、少しばかり浮かれているみたいでな。
「嘘は言わねぇ」
まっすぐに向けられる強い目。確かケスティル族は嘘を嫌っているんだったか。嘘を紡ぐ言葉を話さないだとかどうとか。
最も、相棒は音に合わせて奏でる詩に魅入られて、言葉を得て故郷を出た。
言葉を得たとしても、故郷を出ても、この相棒は嘘をつかない。
「…そうだったな」
野暮な事を聞いた、と素直に謝れば、相棒は首を振って気にしてないと意思表示をしてくれる。
そうしてベッドのそばにある椅子に小さく座り、少しだけ前にのめり出してきた。
「頼んでなかったにしても、ちゃんと礼は言わねぇとって、思って」
小さな手が、俺の服の裾を掴む。
弓を引き絞り、弓をつがえる、少し荒れた手が。
そうして詩を奏でる口が、迷いなく開かれた。
「守ってくれて、ありがとう」
「…………」
あぁこいつはダメだ。胸が締め付けられる。たまったもんじゃない。
「オイ!やめろ!頭掻き回すな!聞いてんのか!」
そもそもテメェに守られなくても避けられただの騒ぐ相棒の顔を直視しないよう、その顔を逸らさせるように、俺は相棒に殴られるまで手荒くその頭を掻き回し続けた。
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